「のちのち答えさせていただくので、差し控えたいと思います」青葉真司被告は、遺族らに対し、繰り返しこう答えた。弁護側が“大事な質問だから答えないで”と、被告を制止する場面もあった。「動機と経緯」「責任能力」の審理を終え、最終盤「量刑」の審理が始まった、法廷ドキュメント第16回目。

「浅はかだった、後悔が山ほど残る」青葉被告が口にした言葉

 27日は、異例となる3回目の冒頭陳述に続いて、青葉被告に対する第12回公判以来の被告人質問が行われた。弁護側の質問で青葉被告は“後悔”の言葉を口にした。

弁護人「前半の裁判を終え、思ったことは?」
青葉被告「やはり被害者ひとりひとりが顔や性格、生活がある『生きている人』で、自分のように膠着になった人も、まだ病院にいる人もいるし、子どももいるのに亡くなっている人もいるのを痛感しました」

弁護人「事件についてどう思いますか?」
青葉被告「やはりまあ、浅はかだったと思っている部分があります。後悔がやまほど残る事件になったと思います」

弁護人「午後から被害者の気持ちを聞く時間になるが、どういう姿勢で臨みますか?」
青葉被告「やったことも思い出しながら、ちゃんと聞くべきだと考えております」

弁護人「聞いたことで感じたことや思ったことは話してくれますか?」
青葉被告「わかりました」

『後悔は山ほどある』と話していましたね、何を後悔?

弁護側に続いて、検察官が質問に立った。

検察官「先ほど、『あまりにも浅はかだった』と言いましたが、どのような点が浅はかだったと思いますか?」
青葉被告「やはり、ひとりひとり被害者の人には顔や性格、生活があると思っているので、それを考えず火をつけて、恨みがあるとはいえ、やるのはあまりにも考えが浅いと言わざるをえないと考えております」

検察官「先ほど、『後悔は山ほどある』と話していましたね?何を後悔していますか?」
青葉被告「少し我慢というのを覚えた方がいいという部分と、恨みや憎しみがあってそれを果たしたとして、『ふざけんな』という思いが残るかというとそうではなく、逆に『他に方法がなかったか』と思うので後悔が残ると思います」

そして、青葉被告が事件を起こす動機となった“小説をパクられた”という主張について、2人の精神鑑定医師がいずれも「妄想」だとしたことについて問われた青葉被告は、「自分の目の前にあったことが事実だったのかということに自信がなくなった気がした」と答えた。

弁護人は、「青葉さん、大事な質問だから答えないでください」

 これまでの裁判で、黙秘することなく質問にも答えてきた青葉被告。その理由について問われると。

青葉被告「こういう事件なので、起こしたことに対して自分が被害を受けた(小説をパクられた)ことを話すと量刑に影響すると言われましたが、自分が裁判を受ける時に、問われたことを答えるのは自分の責務だとどこかで思っていて、ちゃんと自分がやるべきことだと思っている」

この日も、これまで同様に自らの言葉で説明を続けていた青葉被告。しかし、次の検察官の質問「『極刑以外はありえない」という話を以前していましたが、今はどう思っていますか?」から、裁判の流れが変わった。

ここで弁護人が異議を唱えたのだ。

弁護人「この後に行われる証拠調べの後に聞いてほしいです。今と変わる可能性がありますので、情状立証(遺族の意見陳述など)が終わってからにしてほしい。まずは情状立証をして、それを踏まえてしないと意味がない。彼は沢山の人の話を聞いて、それがどう変わるかを見てほしいです。だから、我々は終わったあとに質問しようと思っていました。検察官のやろうとしていることには違和感を覚えます」

しかし、裁判長は弁護人の異議を却下。検察官が質問を続けると、弁護人は「青葉さん、大事な質問だから答えないでください」と被告に呼び掛けた。

検察官「あなたは岡田先生(弁護側請求の精神鑑定医)の鑑定の時に、裁判を早く終わらせたいと思っていましたね?」
青葉被告「それはあったと思います」

検察官「鑑定の時に言っていたことについて今はどう思っていますか?」
青葉被告(弁護士と相談してから)「すみません、今の時点では差し控えさせていただきます。あとで答えさせていただきますので、ご容赦いただけますでしょうか」

それ以降、青葉被告の口は重くなった。その後の遺族の質問に対しても、同じだった。

「答えるのは差し控えたい」と繰り返す

一度短い休廷を挟んで、被害者参加制度を利用して裁判に参加している遺族らも質問台に立った。『涼宮ハルヒの憂鬱』でキャラクターデザインなどを担当した寺脇(池田)晶子さんの夫も、そのうちの一人だ。落ち着いた様子で質問を始めた。

寺脇(池田)晶子さんの夫「涼宮ハルヒの憂鬱は今でも好きですか」
青葉被告「えーっと。のちのち答えさせていただくので、答えるのは差し控えたいと思います」

寺脇(池田)晶子さんの夫「今までの裁判で出ているように『ハルヒの憂鬱』などの京アニの作品を見て、感銘を受けて小説を書き始めたのですよね?」
青葉被告「そうでございますが、これ以上の答えは差し控えさせていただきたいと思います」

寺脇さんの夫は大きく息を吐いて質問を続けたが、続く質問にも青葉被告は「回答は差し控える」と繰り返した。裁判長が被告に「どういった質問にも答えられないのか」と確認すると。

青葉被告「今の段階で答えるべきではない。のちのち必ず答えるべきときがきます。被害感情の立証を聞いたうえで、答えるのが筋だということと、それが裁判のルールだと弁護人からも聞きましたので。今の質問だと“答えていいこと”と思っているのですが、そのように弁護人から話があったので今は控えたいと思います」

弁護側は、“遺族の意見陳述を聞いたうえで被告人質問を行うのが通例で、ここで回答を求めるのは法のルールを逸脱している“などと、12月に回答するとの態度を示した。この日質問を予定していた数人の遺族らが相談し、1人の代理人が続いて質問したが、青葉被告の回答は変わらなかった。

「弁護人の方が遮った。また遺族は傷つけられた」

こうして被告人質問は打ち切られた。傍聴していた遺族らは、“納得できない”というふうな表情を浮かべていた。裁判のあと、寺脇(池田)晶子さんの夫は報道陣の取材に心境を語った。

寺脇(池田)晶子さんの夫「きょう質問する中で、青葉さんの本当の気持ちを聞きたいと思っていた。その中で、もし謝罪の気持ちがあるのであれば、そこを率直にお答えいただけたらなということを考えて、期待して本日臨みました。ですが、結果として青葉さんはまだ『話そうかな』というお気持ちがあったようですけれど、弁護人の方がそれを遮ってしまった。そのことによってさらにまた遺族は傷つけられたのかな」

「私にとっては質問して答える、答えないは次の話であって、晶子が聞きたいであろう、子どもが聞いてきてくれって言っていた内容を、約束通り本日聞けなかったっていうのは本当に辛い」

記者「青葉被告の『回答を控えます』は、予想してなかったと思いますが、言われたときどう思いましたか」

寺脇(池田)晶子さんの夫「午前中、検察の方がきつい質問をされていたと思うんですけど、そのなかでは答えていた。想定外です。弁護人から『答えたらあかん』って言われたから『答えない』と言われるとは思わなかった。だから余計傷ついた。私だけじゃないと思いますけど、余計傷ついた人がいるんじゃないかと」

青葉被告に変化は感じられたのか

記者「青葉被告が“パクリなどが事実ではないかも”と思い始めた変化についてはどう思いますか?」

寺脇(池田)晶子さんの夫「1回目の被告人質問と比べると、“京アニが悪い”と逆切れしていたのに対し、今回は反省はないけど後悔はあるという内容でした。『質問に対しては前向きに答えましょう』とか、『事件後色々考えて』みたいなフレーズが何回かあったのでは」

被告人質問の後は、犠牲になった社員の家族らの供述調書が読み上げられるなど、意見陳述がはじまった。意見陳述は12月6日の公判まで続き、計26人の犠牲社員・被害者の遺族や代理人らが法廷で直接、または書面で述べることになっています。