新型コロナウイルスの新規感染者の数が減少する中、コロナ後遺症に苦しむ働き盛りの現役世代が急増している。第4波や第5波で感染した後、回復したにもかかわらず頭痛や目まい、全身の痛みなどが慢性的に続く「コロナ後遺症」。治療法などは確立されておらず、病気としての理解も進んでいないため、患者の中には突然、仕事を解雇されたり苦しい立場に追い込まれてしまう人もいる。その実態を取材した。
コロナ感染後回復して復職の女性「コロナ後遺症」で再び休職
(Twitterより)
『体調良くなくてなにもやる気が出ない』
『寝起きのだるさが風邪のような症状』
体の異変を訴える言葉が『#コロナ後遺症』とともにTwitter上で毎日のように綴られている。
発信していたのは神奈川県内に住むAさん(20代)。今年3月にコロナに感染していた。
(Aさん 20代)
「普通にいつもの高熱みたいな感じで、下がってからは全然何もなく元気でした」
自宅療養ですぐに元気になり2週間後には仕事に復帰したという。
(Aさん)
「後遺症の症状が出たのは(感染から)1か月後くらい。なんかもう言葉にならないくらいのだるさ。人が2人くらい乗っているような重さと全身のだるさ。仕事中に立ち上がれなくなってしまってという感じでした」
Aさんは百貨店で化粧品を販売していたが、体調不良から再び、休職を余儀なくされた。働きたくても働けない上に、病気の原因が分からず大量の薬を服用していた。
理解してもらえず上司から「責められる」休職から半年後に退職
そんな中、Aさんは休職直後から、上司から細かい病状の報告をメッセージアプリ上などで求められたという。
【メッセージアプリでの職場の上司とのやりとり】
(職場の上司)『体温の報告は毎日お願いします。病院に行けた有無にかかわらず、状況の報告をするべきだと思いますよ』
(Aさん)『関節痛で足が痛いです。新しい漢方を出してもらったので良くなるといいです』
(職場の上司)『漢方を出してもらってる病院に通ってるって事でしょうか?』
(Aさん)
「結構責められるというか、なんでそんなに戻れないの?みたいな。なにか努力してる?みたいな感じで言われるんですよ。自分でも戻りたいのに体がついていかないというか、なかなか良くなってくれない」
結局、Aさんは休職から6か月後の今年9月に会社を退職した。
(Aさん)
「正社員になれたので、どうしても辞めたくなくて、余計落ち込んでしまっていた。後遺症なんて今までなかったじゃないですか。分かってもらうのってやっぱり難しいなと」
新規感染者数は減るも後遺症の相談は急増
大阪府では新型コロナウイルスの第5波が2021年7月から始まり、新規感染者数は9月1日の3000人がピーク。12月は1日10人前後で推移している。しかし、府の後遺症相談窓口では、8月の相談件数が459件だったが、9月は1406件、10月は741件と、問い合わせが急増している。
「後遺症外来」では手探りの治療が続く
今年6月から新型コロナウイルスの「後遺症外来」を始めた大阪市北区の『北野病院』。感染の第4波や第5波で感染し、その後、後遺症を訴える患者が増えていて、取材した時点での初診の予約は来年10月まで埋まっているという。
(北野病院 コロナ後遺症外来を担当 丸毛聡医師)
「(患者の)平均年齢は45歳くらいで、性別に関しては明らかに女性の方が多い。(女性患者が)今は60%を少し超えるかどうかぐらいで。今まで普通に生活されていた方が突然寝たきりになったり、倦怠感が積み重なって日常生活がままならないようになってしまうという病気なんですけども、まだ病態が分かっていないというのが一番難しいところかなと思っています」
現役世代にも広がるコロナ後遺症。確立された治療法はなく手探りでの診療が続いている。
(医師)
「お薬がそもそも多いので、これ以上増やすのもどうかなと」
(会社経営者 40代)
「眠れないことがあるので、なにかフォローしてもらえるのであればしていただきたい」
40代の会社を経営する男性は今年4月に感染し、全身の痛みや倦怠感、脱毛などの後遺症に悩まされているという。
(会社を経営する男性)
「気持ち的にも人に会いたくない、迷惑をかけたり、弱い姿を見せたくないというのがありまして。そういうのがもろに仕事に影響していました」
職場で感染後に『後遺症が原因』で解雇された女性「偏見を持ってほしくない」
後遺症外来には次々と患者がやってくる。
(医師)
「呼吸が荒くなったり?」
(介護士の女性 40代)
「呼吸が荒くなる。それがまだしんどい。立ちくらみをすることがある」
介護士の女性が勤めていた介護施設では、今年4月にクラスターが発生。施設に防護服などの備えがなく、感染した入所者にマスクのみで対応して感染したという。
(介護士の女性)
「6月に復帰をしたんですけど、お風呂介助ができないというか、息がしんどいから。もういらないという感じです。行っていたところは派遣切りされました」
施設で感染したにもかかわらず、後遺症で思うように動けないことを理由に『突然解雇』された。
(介護士の女性)
「敏感な人がいるから来ないでくれと言われた時もあったりとかね。すごく嫌な思いをした。理解同意を求めているわけじゃないけど、こうやって苦しんでいる。偏見を持ってほしくないなというのがあります」
職場のクラスターで感染 後遺症が1年以上続く男性
多くの感染者が出た大阪では、コロナ後遺症を専門に診療する医療機関が徐々に増えている。堺市の『邦和病院』は今年4月から後遺症外来を始めている。
大阪市内に住むBさん(40代)。去年11月に建設関係の職場でクラスターが発生。重症病床に入院し、労災認定されたという。
(Bさん)「頭痛とかが薬飲まなかったら前よりひどくなっている感じ。腕のしびれもひどくなっている。ただもらっている薬をきちんと飲んでいたらおさまっている」
(医師)「睡眠は?」
(Bさん)「睡眠薬いただいているものを飲まないと、ちょっと今あまり寝られない」
Bさんは感染後、後遺症が1年以上続いているという。
(Bさん)
「10m走れないくらい、症状で言うと。8歳と3歳の子どもがいるんですけど、3歳の子どもが走って逃げると追いつけない。ちょっと走ったら息上がって肺が痛いので」
また、Bさんは会社は休職中だという。
(Bさん)
「実際(会社)辞めてくれというところ。休業補償をいただいて社会保険・厚生年金は会社も負担していただいているんですけど、そのお金がもったいないから」
社長から退職を促され「生活が見えなくなった」
今年2月に社長とやり取りした内容を、Bさんに見せてもらった。
【社長とのメッセージアプリでのやりとり】
(社長)『うちも毎月半分負担してるから実際しんどいねんけどな』
(Bさん)『完治したらまた働くつもりでしたが、どうしたら良いのでしょうか?』
(社長)『多分無理やからそれとなしに言うてるつもりやけど。早く自宅でできる仕事、見つけた方がいいんちゃう?』
さらに、直接こんなことも言われたという。
(社長とのやりとりを記したメモより)
『お前の生活何してるか見てるからな。自分から会社辞めてほしい』
Bさんは社長とのやり取りを振り返り、次のように話す。
(Bさん)
「病院通って病気治していくので気持ちがいっぱいいっぱいだった。言われたときには生活が見えなくなった。会社もクビという事になれば、もう家売って生活も考えていかないといけない」
感染の第5波が収束し、街には活気が戻りつつある中で、人知れず苦しんでいるコロナ後遺症の患者たち。みな口々に「自分たちの存在を知ってほしい」と訴えている。