虐待を受けて中学卒業と同時に家出をしたという『トー横』で生きる16歳の少女。去年11月に取材をした際には「将来はネイリストになりたい」と夢を語っていた。しかし、それから2か月、彼女に再会して話を聞くと、その気持ちは「もうなくなった」と話した。彼女はその期間、何を思い、どう過ごしていたのか。
「トー横」に集まる行き場を失った若者たち
2022年11月、新宿・歌舞伎町。ネオンが照らす歓楽街の片隅に“その場所”はある。
(記者)
「歌舞伎町のトー横と呼ばれるエリアです。すぐ横には警備員もいるのですが、そのすぐ目の前で若者たちが集まり、何をするでもなく時間を過ごしていると」
東宝シネマズの横、略して『トー横』。3年ほど前から行き場を失った若者たちのたまり場になっている。
(記者)「親は心配しない?」
(若者)「縁切っている」
(記者)「なんで?」
(若者)「虐待。虐待と借金とか、そういう都合で。言葉もあるし、歯を折られたりとかそういう暴力もあるし」
(記者)「トー横ってどういう場所?」
(若者)「キショ溜め」
(記者)「キショ溜めって何?」
(若者)「『気色が悪いの溜め』でキショ溜め。本当に気持ちが悪い人たちが集まっているだけ。社会から逃げ続けているヤツの集まりだと思うし」
(記者)「でも、そこに来ちゃうでしょ?それはなんでなの?」
(若者)「1人だとやるせなくて。何にもできないから。下を見て安心しているみたいな」
スーツケースに荷物を詰め込んでやってきた若者も。
(記者)「どこから来たんですか?」
(男性)「北海道です」
(記者)「え、北海道から来た?どういう理由で?」
(男性)「親の虐待。殴る、蹴る、首絞める、噛む、投げる…。そんな感じ」
(記者)「なるほど…。それに耐えられなくなって、地元を離れて東京に来たんだ」
(男性)「そうですね」
男性は路上で夜を明かすことに対して「もはや抵抗はなくなった」と話した。
深夜になってもトー横には絶えず若者たちの姿があった。この場所に何を求めてやって来るのか。
広場に散乱したゴミ…落ちていた“薬の残骸”
午前1時、突然の雨に慌てて屋根の下へと駆け込む。広場には無数のゴミが散乱していた。
(記者)
「若者たちが座っていた場所には、このように薬の残骸ですね。『メジコン』というせき止めの薬です」
今トー横では自殺願望のある若者たちが市販の風邪薬を過剰摂取して病院に搬送されるケースが相次いでいる。
『案件』で命をつなぐ16歳の少女「将来はネイリストになりたい」
雨上がり、私たちはひとりの少女(16)と出会った。母親から虐待を受け、中学卒業と同時に家を出たという。
(記者)「今日はこの後どうするんですか?」
(少女)「この後は野宿します」
(記者)「ここで?」
(少女)「その辺で」
(記者)「危なくない?」
(少女)「お金ないんで」
(記者)「風呂とかはどうしているんですか?」
(少女)「案件でラブホ行くじゃないですか?その時に、先にお風呂入っていいですか?って言って、お風呂に入ったりしています」
少女の言う案件とは売春のことだ。
(少女)「やっぱり…、そういうことをする時に相手はおじさんじゃないですか。だから結構、精神的にはきついですけど、でもやらないと生きていけないし。葛藤はあります」
(記者)「将来はどうしていくの?」
(少女)「やり方的には犯罪ですけど、案件とかでお金を貯めて、そうしたら専門学校に行ってネイリストになってちゃんと働こうかなとか思っています」
自らを危険にさらして命をつなぐ少女。腕に刻まれた“傷あと”。
(少女)
「いつも死にたいと思っているから、切ると、あぁ今日もちゃんと生きていたんだ偉い、と思って」
2か月後の再会 少女から失われつつある“ためらいの気持ち”
2か月後の2023年1月、私たちは再びトー横を訪れた。
(記者)
「今日は大寒波が来ていまして非常に寒いです。ダウンを着ているんですけど、それでも体の底から寒いような、そういう気温です」
広場には柵が設置され、一帯は封鎖されていた。若者たちはいったいどこに…。
少し離れた場所にあの少女がいた。2か月前に話を聞いた少女。つい先ほどまで売春をしていたという。
(少女)
「ここに立って、そこのレンタルルームで売春してお金もらって。今日も売春した。午後5時くらいかな。仕事でお金がもらえるから頑張るみたいな感じ」
少女の言葉の端々に“ためらいの気持ち”が薄れていることを感じる。私たちは改めて話を聞くことにした。
(記者)「11月に来たので2か月ぐらい。その間に何があったの?」
(少女)「その後も保護所とかいっぱい行って、何回も脱走して、捜索願が出て、また捕まって…を繰り返して。親元じゃなくて親の知り合いの人に引き取られることになって、その人の家も結局向かなくて出てきて。今は毎日稼いでホテルを取ってホテル暮らし」
(記者)「その日ホテルに泊まるお金をその日稼ぐ?」
(少女)「そんな感じ。具体的にはまぁ売春」
(記者)「アルバイトとかはやっぱりできないの?」
(少女)「身分証が全部ないからできない。親元にあって、保険証とかを引き渡してほしいというのはお願いしているけど、全部親が拒否している感じ」
少女は「親から愛された記憶がない」と話す。
(少女)
「補導されても『迎えには行きません』で、ずっと保護所だったから。寄り添っては欲しかったかな」
午後10時、少女は友人たちと合流した。
(少女)「ラブホ行く」
(記者)「え?」
(少女)「ラブホ」
(記者)「年齢確認はされないの?」
(少女)「されない」
(記者)「本来は泊まれないよね?そういうホテルは」
(少女)「うん」
(記者)「普通になっちゃっている?」
(少女)「普通になっている」
少女たちはラブホテルで一夜を過ごすという。
(記者)
「非常に寒いので何とか暖をとって寝てほしいなという思いはあるのですが、その一方で泊まる場所がこういう歓楽街のど真ん中にある、それもラブホテルだと。なんて表現したらいいかわからないですね、この今の気持ちを」
「トー横がなくなったらどこも行く場所がない」
翌日、少女の姿は原宿にあった。服や靴を買いにたまに足を運ぶのだという。
(記者)「原宿のどういうところが好き?」
(少女)「かわいい物がいっぱいあるし、派手な物が好きだから」
(記者)「よく行く店とか行きたい店とかは?」
(少女)「特にないけど、ぱっと外見ていいなぁって思ったら入ったりはする」
少女はトー横で過ごす時間の中に青春を感じているという。普段はどんな会話をしているのか。
(少女)「一番多いのは普通だけど恋愛話とか。今好きな人がいるんだけどこういう状況なんだよね、とか。修学旅行で夜に消灯時間が過ぎて話すみたいな」
(記者)「昔にそういう体験をあまりしてこなかったというのはあるのかな?」
(少女)「ある、してこなかった」
(記者)「もしね、トー横がなくなったら?」
(少女)「自分は今のところあそこ以外に居場所が見つけられていないから、なくなっちゃったらどこも行く場所がないかな」
「ネイリストになりたい気持ちはなくなった。明日ですら考えられない」
夕方、少女は再びトー横に。
(記者)「今日はこの後どうするんですか?」
(少女)「この後は稼ぎに行く」
(記者)「稼ぎに行く…。それは昨日も言っていた通り、いわゆる案件というか」
(少女)「うん」
少女は頑なに私たちの説得を拒んだ。
(少女)「行かないとお金はない。だから自分は行く。誰が止めても自分はそれで稼ぐ」
(記者)「嫌な気持ちには?」
(少女)「ならない。もう慣れた。需要と供給じゃないけど、おじさんはお金を払ってそういう行為がしたい、こっちはお金がほしいからそういう行為をする。それでいいと思う」
(記者)「本当にそれでいいと思っている?」
(少女)「うん」
(記者)「心の底から?」
(少女)「うん、自分は今はそれしか稼ぐ方法がないし」
(記者)「前に会った時に将来はネイリストになりたいと言っていたと思うんだけど、その辺の気持ちっていうのは?」
(少女)「もうなくなった。てか10年20年先までそんな考えられない。明日ですら考えられない。何があるかわからない状況で、今日をとりあえず頑張って生きているって状況だから」
そう言い残して少女は私たちの前から去って行った。私たちが目の当たりにしたのは、今、日本で起きている現実だ。