コロナ禍で低迷していた『留学業界』が今3年ぶりの急成長を遂げている。海外留学に行く人がコロナ初期と比べて約45倍に増加しているのだ。最近人気の留学先はフィリピン。欧米に比べて留学費用が安いことなどが人気の理由である。そんな中、あるフィリピンの語学学校をめぐり、「キャンセルしたのに留学費が返金されない」という金銭トラブルが続出している。

「コロナ関連のキャンセルは全額返金」しかし10か月たっても返金されず

 にこやかに微笑む大勢の男女。フィリピン・セブ島にある語学学校Nだ。フィリピン留学は安い費用で質の良い英語を学ぶことができると、近年人気の留学先だ。しかし今この学校をめぐってトラブルが相次いでいる。
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 話をしてくれたのは横浜市内の中学校で国語の教師をするまゆさん(23・仮名)。日本でコロナが流行しだした2020年5月、当時大学生だったまゆさんは語学学校Nに短期留学しようと20万円を振り込んだ。

 (まゆさん)「現地で小学校の先生の体験ができるというプログラムを申し込みました。学生の間に人に教えるという経験を積みたかったので、海外で日本語を教えたいなと思い申し込みました」

 コロナの流行で海外渡航に不安もあったというが、学校からは次のように言われたという。

 (まゆさん)「サイトに『コロナ関連での留学の返金は手数料以外は全額返金します』というふうに書いてあって。(学校との)やり取りでは、返金させていただきますのでということだったので、信じきって」
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 留学は11月に行く予定だったがコロナの感染拡大が収まらず、翌年の2月、まゆさんは留学のキャンセルを決意。振り込んだ20万円を返金してもらうため担当者に連絡したという。ところが…

 (まゆさん)「10か月たっても返金されていなかったので、連絡すると、また後日対応させていただきますという内容で。結局、返答がなかったです。安いお金じゃないので、他に充てることができたなっていうのが。連絡もなしに逃げられて許せないなって思います」

留学費100万円を振り込んだ女性『HPに繋がらなくなって…』

 被害を訴えるのはまゆさんだけではない。東京都内に住むゆきこさん(35・仮名)は2020年2月、仲介会社を通じて半年間の語学留学費用100万円を振り込んだ。コロナの流行が落ち着き渡航できるようになるまで約1年半以上待ち続けたという。しかし…
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 (ゆきこさん)「学校のホームページがあるとき繋がらなくなって、エージェント(仲介会社)に確認したところ、『本当だ、連絡がとれない』となってしまった」

 その後、仲介会社から手数料は返金されたが、入学金や寮の宿泊費など70万円近くは今も戻ってきていない。
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 取材中、語学学校Nで講師をしていたというフィリピン人男性に電話で状況を聞こうとしたが…

 (ゆきこさん)「私もだけどNにお金を払っているけど返ってきていないじゃないですか?」
 (Nの講師の男性)「ほんと?おバカさんじゃん」
 (ゆきこさん)「お金が返ってこないことは先生も怒ってる?」
 (Nの講師の男性)「怒ってるよ、私。当たり前じゃないの」

 怒りをみせたが、すでに退職していて詳細はわからないという。

「留学費の振込先になっているA社」と「スタッフを現地に派遣しているB社」

 語学学校Nで一体何が起きたのか。ホームページには「コロナの影響で休校している」とあるが、未返金の留学費については何も書かれていない。
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 Nはフィリピンの法人だが日本にも2つの運営会社がある。留学費用の振込先になっているA社と、日本人スタッフをNに派遣しているB社だ。
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 取材班はまず東京都内にあるというA社の事務所に向かった。

 (記者)「A社という会社を探していて、こちらに事務所があったようなのですが?」
 (対応した人)「うちで昔、留学業をやっていたんですけど、そこと今言っていた名前は全然別なので、ちょっとわからないです」

 A社はなく、過去に入居していたという話も聞くことはできなかった。
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 ではB社はどうか。登記簿に載っている東京都内の住所へ行くと、B社の名前が書かれたアパートの一室があった。

 (記者)「毎日放送です。どなたかおられますか?」

 部屋から応答はなく、周辺を聞き込みしても、ここを出入りする人やB社について知る人は誰もいなかった。

「N」元従業員『今考えてみたら“自転車操業”だったんだろうなと』

 こうした中、取材班は語学学校Nで働いていた日本人男性と接触することができた。男性は語学学校Nの実態を次のように打ち明けた。

 (語学学校Nの元従業員の男性)「(コロナで)授業禁止というふうにフィリピン政府から言われたのが2020年3月13日。学校として運営していくには新しい生徒の勧誘も当然必要ですし、『もし留学に来られなかったら返金するから営業を続けなさい』という指示だったんですね」
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 学校側は早期の再開を見込んで、コロナで休校後も1年近く生徒の募集を続けていたという。しかし状況は改善することはなく今も閉校したままだ。

 (語学学校Nの元従業員の男性)「売り上げがない中でも、そこで支払われたお金を、取り急ぎの返金にあてていた。(Q返金できない想定でなぜ勧誘を?)だからこそ勧誘を続けさせたということだと思います。今考えてみたらはなから自転車操業だったんだろうなと」
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 未返金は膨れ上がり、男性が退職する頃には150人近くなっていたという。

 (語学学校Nの元従業員の男性)「返金している人していない人をリスト管理していたものです。『済』になっている人は返金済みなんですが、この時点で返金できていない人も何人かいました。(2020年11月時点で)返金できていないお金が5000万円~7000万円くらいあったと思います」

「N」の実質的なオーナーT氏の存在…取材に対して『わたしも被害者だ』

 男性によると、日本の運営会社A社とB社を経営していたのはT氏という日本人男性で、そのT氏が語学学校Nの実質的なオーナーでもあったという。実際に学校紹介のサイトにはT氏が語学学校Nを紹介する動画が掲載されている。
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 【動画内で話すT氏】「初めてこれから英語に取り組むとか、あとは英語はあまり好きじゃないという人は、うちのNはおすすめです。どうしても困ったことがあった時にも日本人がフルサポートしていますので、困ったことを全て解決できるというのが強みです」
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 T氏は一体どこにいるのか。取材を続けていくと、現在は大阪市内にある就労支援の会社で代表を務めていることがわかった。T氏は私たちの取材に次のように話した。

 (記者)「たくさんの方がお金が返ってきていないが?」
 (T氏)「かわいそうだと思っているけど、私も被害者なんですよ。自分も何千万もの大きなお金をロスして裁判を申し立てているんです」
 (記者)「あなたがNを運営していたのでは?」
 (T氏)「違います。全くしていない」
 (記者)「では何を経営していた?」
 (T氏)「(留学生を)集客をする会社です。私どもは集客するだけなので、私どもは何もわかっていないので」

 A社の経営は認めたが、学生の集客を請け負っていただけで、語学学校Nの運営には一切関与していないと否定した。
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 留学トラブルに詳しい中村昌典弁護士は次のように話す。

 (中村昌典弁護士)「全額返金をうたってコロナが長く続いたら返せないということをわかってやっていたとしたら、その首謀者は詐欺罪や、民法では不法行為にあたる可能性はなくはない」

 また、T氏が主張するように日本の運営会社は集客だけをしていたとしても責任を問えるのではないかと指摘する。

 (中村昌典弁護士)「留学生を送り込んで商売をしているわけですから、(経営実態を)よく知っておかなくちゃいけない立場じゃないですか。にもかかわらず『100%返金』みたいなことを言っちゃっていると。そうすると不法行為責任が問われる可能性がゼロではない。じゃあその事情をどこまで知っていたのかということで、刑法上だって詐欺罪のほう助にあたるかもしれない」
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 語学学校Nの元従業員の男性は、留学希望者たちから投げかけられた言葉が今も忘れられない。

 (語学学校Nの元従業員の男性)「人の夢をバカにしてるんですか、夢を持って安くないお金を振り込んでいるのに、その夢をバカにされた気分ですよ、と」