新型コロナウイルスの無料検査の闇。無料検査を実施した医療機関が、国から巨額の補助金を騙し取っていたとして、院長が逮捕された。MBSは逮捕前に院長を直撃取材。さらに別の検査事業の会社の元関係者は、“代理店”と呼ばれる人たちが動き、日常的に不正が行われていたと証言する。

検査実績を水増し請求した疑いで逮捕者

 (記者リポート 1月4日)「午前9時です。貝田容疑者を乗せた車が西成警察署に入ります。新型コロナの無料検査事業で補助金を水増し請求した疑いが持たれています」

 1月4日、詐欺の疑いで逮捕された「心斎橋ミライデンタルクリニック」の院長で歯科医師の貝田勝之容疑者(63)。警察によると、貝田容疑者は2022年2月~6月、新型コロナの無料検査事業で、検査実績を約9600件水増ししたウソの申請をして、国の補助金約1億6500万円を騙し取った疑いが持たれている。

2021年12月に始まった新型コロナの無料検査事業

 そもそも無料検査事業が始まったのは2021年12月。大阪府でオミクロン株の市中感染が確認され、『第6波の入口』とされていた時期だ。国の「地方創生臨時交付金6200億円」を財源に、都道府県が民間の事業者に業務を委託。全国に設置された検査場の数は1万3000か所に上った。

 (岸田文雄総理 2021年12月)「オミクロン株の封じ込め対策が必要な地域については、不安のある全ての方を対象に、無料検査を実施できるようにいたします」
20230105_coronaPCR-000203935.jpg
 事業者として認められたのは、病院や診療所のほか、歯科医院、薬局など。無料で検査を受けられるのは感染の不安を抱える無症状の人に限られ、検査場の職員の立ち合いの下、登録された場所で検体を採取する。都道府県は事業者からの検査実績の報告を基に、検査1件あたり最大9500円の補助金を交付していた。しかし…。

大阪の会社の元関係者「日常的に不正」と証言

 大阪で無料検査事業に参画していた会社の元関係者だというAさん。その会社は今回摘発されていないが、匿名を条件に取材に応じた。当時その会社では日常的に不正が行われていたと証言する。

 (元関係者Aさん)「結構ザル制度だったので、どこもしていたと思いますよ。本来であれば、お客さまが検査センターに来ないといけないんですけれども、検査センターに来ていない人に対してPCR検査を行っていたという形になります。“代理店”と呼ばれる人たちですね。要は会社の代わりにお客さんを捕まえてくる、営業してくれる代理店という人たちがいっぱいいたんですけれども。その代理店の人たちに検査キットをお渡しして、その代理店がいろんなお客さんに対して検査キットを配って唾液を回収する。検体を回収して代理店がまとめて持って来るという形を取っていました」
20230105_coronaPCR-000236000.jpg
 Aさんによると、検査場に直接やって来る客は実際にはほとんどおらず、大量の唾液だけが代理店を介して毎週のように運び込まれていたという。代理店がどのようにして唾液を集めていたのか、またどのようにして個人情報を集めていたのかは不明だったと話す。

 (元関係者Aさん)「誰の検体かわからないものに対してPCR検査というものをしていたので、お客さんの唾液かどうかそもそもわからない。例えば代理店が検査キット100個に対して、自分で唾液を入れていたとしても、そこはわからないので。実際に検査を受けた認識がない方に関しても、個人情報さえあれば、補助金の申請はできるので。なので実際に受けたという認識がない方に対しても、PCRの補助金の申請をしていた可能性はかなり高いかなと思います。審査自体がすごく甘かったのではないかなと思います。補助金でお金が入ってくるのがわかれば、何かしらの不正はしやすかったんじゃないかなと思います。氷山の一角というか、他の事業者でも不正が横行していたんじゃないかなと」

 Aさんの元関係先の会社では不正に得た補助金が他の事業の運営に充てられていたという。

大阪では不正した12事業者を公表 81億円が不交付に

 性善説の下、自己申告に基づいて交付されていた補助金。事業者は受検者の名前や連絡先などが記された申込書を保管しておく必要があった一方、提出は不要とされ、水増しが可視化されることはなかった。

 だが、新型コロナが5類に移行し、社会が一定の落ち着きを取り戻す中、各地で不正が明るみに出始める。

 (大阪府 吉村洋文知事 去年8月)「速やかに無料検査をするというスキームの下で、性善説に立って事業を構築している。でも不適切なこと、不正は当然あってはならないわけです。それについては厳しく対応する」

 370の事業者が無料検査場を展開していた大阪府。府民や従業員からの情報提供を受けて立ち入り調査を実施したところ、検査数を水増しするなどの手口で12の事業者が補助金を不正に請求していたと発表した。不交付が決まった総額は81億9000万円。吉村知事は去年8月までに12の事業者について実名公表に踏みきった。

報告書では「筆跡が同一と思われる申込書が複数」

 その中には今年1月4日に逮捕された貝田容疑者のミライデンタルクリニックの名前もあった。私たちが独自に入手した大阪府の立ち入り調査の報告書には次のように書かれていた。
20230105_coronaPCR-000628668.jpg
 (大阪府の調査報告書より)「筆跡が同一と思われる申込書が複数存在する」

 さらに別の文書には。
20230105_coronaPCR-000645501.jpg
 (別の文書より)「受検者と思われる者に対し確認を行ったところ、受検歴がないものや、事業所以外で検体採取したものが存在した」

 大阪府は貝田容疑者が運営していた5つの検査場で水増しが行われていたと判断。約4億円分の申請を『不適正』とした。

水増し請求疑いの歯科院長を逮捕前に直撃取材

 逮捕前の去年8月、MBSは疑惑の渦中にいた貝田容疑者を直撃した。

 (記者)「貝田さん、すみません、毎日放送の記者ですけれども、貝田勝之さんですよね?」
 (貝田容疑者)「はいはい」
 (記者)「PCR検査の事業をやっていたと思うんですけど、そちらの方で水増し請求とかしていないですか?」
 (貝田容疑者)「いや、僕はもう全然、それに関しては」
 (記者)「絶対やっていないですか?」
 (貝田容疑者)「僕はやっていないですよ」
 (記者)「数千万円の水増し請求があったんじゃないかという話もあるんですけど」
 (貝田容疑者)「それはもうちゃんと弁護士さんの方に…まあまあ」
 (記者)「あなたが運営者ですよね?」
 (貝田容疑者)「僕が運営というか名前だけ貸して」
 (記者)「名前だけ貸していたんですか?」
 (貝田容疑者)「そうそう」
 (記者)「なんで名前を貸していたんですか?」
 (貝田容疑者)「知り合いの子から名前を貸してほしいと言われて」
 (記者)「誰ですか?」
 (貝田容疑者)「いやいや、まあまあまあ」

“知人に名前を貸しただけ”と主張

 貝田容疑者は知人に名前を貸しただけで無料検査事業に深く関わっていたわけではないと主張した。

 (記者)「これ公金なので、もししていたとしたら詐欺になると思うんですよ。それなりに説明責任あると思うんですよ」
 (貝田容疑者)「皆さんいるから、ちょっとまた。僕はだからまったくその事業には携わっていないので」
 (記者)「携わっていないんですか?」
 (貝田容疑者)「携わっていないです。それはもうちゃんと調べてもらったら」
 (記者)「本当に知らぬ存ぜぬでいいですか?」
 (貝田容疑者)「はいはい、いいです」
 (記者)「本当に水増しはやっていないですか?指示もしていないですか?」
 (貝田容疑者)「やっていないです」

 これ以上、質問には応じず去っていった。

 貝田容疑者は警察の調べに“歯科医師としての名義を貸しただけ。知人らに利用され、騙されたと思っている”などと話し、容疑を否認しているという。

 警察は他にも補助金の不正受給に関わっていたとみられる男2人を逮捕していて、実態の解明を進めている。