ホストへの依存に苦しむ女性たちの実態を取材した。ホストクラブでの金銭トラブルが増えている。背景にあるのはホストへの『売掛』いわゆるツケ払いだ。高額な売掛を負って追い込まれる女性も少なくない。

競うように注文「持ってきた金額をいつもオーバーしちゃう」

 大阪・ミナミのホストクラブ「IR」。ホスト15人ほどが在籍していて、客の8割は20代だという。
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 平日でも大勢の客でにぎわっていて、客同士が競うように高級シャンパンやボトルを次々と注文する。中には120万円の高級ブランデーを頼む客も。
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 取材した日、1人の客が使った最高額は約200万円。3万4000円のみを支払い、残りは売掛にするという。

 売掛とは、ホストクラブで客の飲食代をホストが立て替え、客がホストに後日支払う、いわばツケ払いのことだ。
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 (客)「(Q最大でいくらの売掛を?)400万円くらい。でも全部その月にちゃんと返し切ったので、自分の稼げる範囲でしか遊ばないです」
 (客)「いつも売掛です。毎回。なんかオーバーしちゃうから。自分が持ってきた分よりいつも超えちゃうから、また次持ってくるわみたいな感じ。(Qなぜ超える?)楽しいから」
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 この店では約4割が売掛で支払われているという。

 (ホストクラブ・IRの代表)「女の子の声で、売掛があった方が飲みに来やすいとか、売掛の制度があるから夢見られるとかもあるので」

売掛に苦しむ女性「ヘルプにあおられてシャンパン入れたり…どんどん増えて」

 しかし、売掛をめぐり事件に発展するケースが後を絶たない。

 ホストクラブが日本で1番多い街、新宿・歌舞伎町。社団法人「駆け込み寺」で理事を務める玄秀盛さんは、この街で20年以上、地域の課題と向き合っている。最近は特にホストクラブに関する相談が増えているという。

 (玄秀盛さん)「2022年と比べたら相談件数が10倍くらい増えていますよ。(歌舞伎町のホストクラブが)コロナ明けたら300店を超えていたんですよね。それくらい競争が激しいから、ぼったくりとかもどんどん増えてきた。悪質さがひどくなったわけです」
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 取材した日も売掛に苦しむ20代の女性が相談に訪れていた。

 (20代女性)「(Q1番今困っていることは?)売掛でいいから飲もうよって言われちゃうから。一応払うことは払うけど、しんどい。売掛しちゃって。LINEでやり取りしていて、最初は行かないつもりだったんですけど押し切られて行ってしまった。(Q売掛はいくら?)17万円ですね。予算は5万円くらい。ヘルプにあおられてシャンパンを入れたりとか、おなかすいたからフード頼んでいい?とか。それでどんどん増えていって17万円になった」

 女性は、翌日から地方の風俗店に出稼ぎへ行き、17万円の売掛を支払うつもりだという。

娘がホストにハマり音信不通に「自分の命を引き換えに戻ってくるなら差し出してもいい」

 実は相談の約9割が本人からではない。取材した日、ホストクラブにハマった20代の娘をもつ母親が相談に来ていた。娘は大学4年の終わりからホストにハマり、1年以上前から音信不通だという。

 (娘がホストクラブにハマった母親)「本当に真面目に生きてきたんですよ。勉強も部活も頑張って、国家資格も一生懸命取って、(ホストクラブに)ハマって仕事も辞めてしまって。なんにもできない自分の無力さが本当につらかったです。自分の命を引き換えに戻ってくるなら差し出してもいいって、それくらい思っても何もできなくて、それでも戻って来なくて、ホストに取られてしまった。こんなに大切に育ててきたのに取られてしまったと思っています」

精神科病院が管理 ホストに依存する女性らを治療する施設

 ホストクラブにハマる女性たち。彼女たちを治療する施設がある。横浜市内の精神科病院が管理するマンション。ホストクラブで多額の売掛を負った女性ら5人が共同生活をしている。

 (看護師)「携帯ないのがいいんだ?」
 (入居者)「うん。1回スマホを完全に断ち切るっていうのが私の中では大きかった」

 携帯電話を預かりホストとの連絡を遮断するのも治療の一環だ。昼は仕事に就いてもらい、夜は常駐する看護師らが彼女たちの話に耳を傾け、ホストクラブに行かないよう見守る。

 入居者のAさん(26)は18歳の時からホストクラブに通い始め、借金は6年間で6000万円にまで膨れ上がったという。

 (Aさん)「自分の居場所じゃないですけど、ちょっとお金をつくって持っていけば、すごいねって褒めてくれて、それが居心地がすごくよかったんですよね。衝動をコントロールするのが苦手だから、自分があれがしたいこれが欲しいってなったら何としてでもやりたいと思っちゃって。お金がなくても借金してでも買いたいって」

依存症患者を治療してきた医師「こういう病気があると徹底的に言うべき」

 施設を管理する大石雅之医師は、ホストへの依存を自らの衝動を抑えられない「強迫的性行動症」と診断している。これまでに500人以上の患者の治療にあたってきた。

 (大石クリニック 大石雅之院長)「水商売して金稼いで楽しい、だからそれはうれしい。でもそれが5年後10年後にどうなるかは見えないよ。これが視野狭窄。こういう病気がある、男のキャバクラ好き、ソープ好きで身を亡ぼす。ところが女にそのバージョンがあるのをみんな知らないんや。それを徹底的に言うべきだ」

 依存症の患者は自己肯定感が低く、こうした生活の中で他人に認められるなどの成功体験を重ねることが大切だと話した。

 ホストに依存していたAさん。1年半以上にわたり治療を受けて考え方が変わってきたと話す。

 (Aさん)「変わりました。普通に仕事して、普通に帰ってきて、ご飯食べて寝る。それで貯めたお金を、自分の旅行とか美容とか、ネイルに使う。そっちのほうがよっぽど有意義だなと思って。結局ホストに行ったところで、ホストにお金を使っても、何も残らないんですよ」