電動キックボードやモペットに乗ったことがある、見かけることが増えたという人も多いのではないのだろうか。しかし、これらの乗り物をめぐり違法走行が相次いでいる。取材中にも記者の目の前で危険運転が横行。ルールを守らない人たちを直撃した。

「めっちゃ便利ですね」手軽さが魅力の“新しい乗り物”

 大阪・梅田の家電量販店の一角にずらりと並べられた電動キックボードに、ペダル付きの原動機付自転車いわゆる「モペット」。需要は増え続け、売れ行きも好調だという。
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 (ヨドバシカメラ梅田店 松木数万さん)「1日に1台は購入されるお客さまがいらっしゃる状況でございます。20代~50代くらい、性別問わず、買われております」

 レンタルサービスも人気を博し、街で目にする機会も多くなった新しい乗り物。利用者は自動車やバイクにはない手軽さが魅力だと話す。

 (電動キックボード利用者)「ほぼ毎日乗っています。ちょっとした移動とか通勤とかで乗ることが多いです。便利ですね、めっちゃ」

 しかし、こうした人気の裏で問題も起き始めている。

歩行者がいる商店街をスピード緩めず“違法走行”

 警察官の制止をふり切って走行する1台のモペット。6月10日、大阪・梅田の商店街で撮影された映像だ。原付バイクのモペットを運転しているが、男はヘルメットをかぶらずナンバープレートもなく、違法走行している。通行人が大勢いるにもかかわらず、一切スピードを緩めようとしない。
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 (ひがし中通り商店会 小牟礼隆之理事)「あのスピードは怖いですよ。あんなのが商店街を走っていたら怖すぎますもん。絶対事故が起きてもおかしくないくらいのスピード」
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 モペットや電動キックボードをめぐる違法走行はこれだけではない。SNS上に投稿された動画では、赤信号にもかかわらず無視して走行するモペットの様子や、自動車やバイク以外は入ることができないはずのトンネル内を3台の電動キックボードが「カルガモ走行」する様子、そして1台の電動キックボードに3人で乗る姿も。大惨事につながりかねない走行が各地で相次いで目撃されている。
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 去年7月、東京・新宿でモペットを無免許で運転していた男性(24)が、自転車に乗っていた女性(70代)と接触。指の骨を折るなどのケガをさせたとして、今年1月に危険運転傷害の疑いで書類送検された。

ルールを知っていますか?

 警察も取り締まりを強化する2つの乗り物だが、当然ながら明確なルールが存在する。

 まず電動キックボードは、16歳以上であれば免許不要で乗ることができ、へルメットの着用は努力義務とされている。時速6km以下であれば歩道を走行することも可能だ。

 一方でモペットは、ペダル付きで一見は自転車にも見えるが、自走可能であるため原付バイクと同じ扱いになり免許が必須。ヘルメットの着用も義務付けられていて、もしペダルで走行していても歩道は走れない。

 また、電動キックボードもモペットも、ナンバープレートを取り付ける義務があり、2人乗りは禁止だ。

逆走に2人乗り…大阪市内で見た危険な走行の数々

 実態はどうなっているのか?大阪市内で取材をしてみると…。

 (記者)「モペットが歩道を走行しています。通行人の間をすり抜けていきます。ぶつかりそうです、危ない」
 (記者)「モペットです。ヘルメットをかぶらずに車道を走行しています。車と車の間をすり抜けていきました。そして逆走もしていますね」
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 (記者)「ヘルメットとナンバープレートをつけずにモペットで走行しています」
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 ノーヘルメットにノーナンバープレートはもはや日常茶飯事。逆走や2人乗りなどルールを無視した危険な走行が横行していた。さらに公道での走行が禁止されている電動スーツケースに乗って移動する外国人の姿も見られた。

 実際に危険な目にあったという人もいた。

 (30代)「淀屋橋の辺りとか電動キックボードで出勤している人がめっちゃいて、夕方の帰り道とか車道にバーンって飛び出てくるので、何回か接触しそうになりましたね」
 (70代)「あれは非常に迷惑だ。うちの妻も、風呂に行くときとか買い物に行くときとか、電動キックボードで怖い思いをしたと」

ルール違反者を直撃 「ネット購入のためルール説明を受けなかった」と話す人も

 なぜ危険の声が相次ぐ中、ルールを守らないのか?取材班が直撃した。まず電動キックボードに2人乗りをしていた人ら…。

 (記者)「電動キックボードって2人乗りして大丈夫ですか?」
 (女性)「あ…ダメですね」
 (記者)「ルールは知っていますか?」
 (女性)「…」

 電動キックボードから一旦は降りたが、記者の問いかけにまったく応じようとはせず、その後も2人乗りをしながら去っていった。
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 さらに、そのすぐ近くでも、別の電動キックボードの2人乗りが。

 (記者)「お兄さんたち、これ2人乗りして大丈夫ですか?」
 (男性)「絶対ダメでしょ」
 (記者)「ダメですよね。乗っていて大丈夫ですか、危なくないですか?」

 ルール違反を認識したうえでの2人乗り。スピードを緩めることなく、その場から走り去った。
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 モペットに乗っていた、ペルーから来日したという男性。日常的にモペットを使っているというが「ルールを知らなかった」と話す。

 (記者)「ナンバープレートとかヘルメットはつけなくていいんですか?」
 (男性)「それは…わからないです」
 (記者)「ヘルメットをかぶったことはないですか?」
 (男性)「ないです」
 (記者)「ナンバープレートもつけていないですか?」
 (男性)「(首を横に振る)」
 (記者)「買ったときに説明はされなかったですか?」
 (男性)「ネットで買った」
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 インターネットで購入したため交通ルールについて説明は受けなかったと話す人は他にもいた。

 (記者)「お兄さんヘルメットをかぶっていないから、大丈夫かなと思って」
 (男性)「ああ~みんなやっているんで」
 (記者)「それって買うときに何か言われないんですか?」
 (男性)「いやアマゾンなんで。届くだけなので」

 果たして実際にそうなのか。記者が大手ショッピングサイトで「モペット」と検索してみると、ずらりと商品が出てきた。商品購入のページには注意事項の記載はあるが、下の方にあるため気が付かない人も多いようだ。

 実際に記者が取材した2日間で、ヘルメットを着用してナンバープレートを取り付けたモペットは1台もいなかった。ルールが十分に周知されないまま乗り物だけが急速に普及して、危険が野放しにされている実態が浮かび上がってきた。

「危険な乗り物と認識を…加害者にもならないよう気を付けて」

 JAFが去年実施した電動キックボードの実証実験では、時速20kmで縁石と衝突した場合、ヘルメットを着用していても頭蓋骨を折るほどの衝撃が加わることがわかったという。
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 (JAF大阪支部 中植啓伸さん)「電動キックボード、モペットもそうですけれども、結構速度が出ます。体を守るものがほとんどありませんので、自分は『危険な乗り物に乗っている』という認識をしていただいて、加害者にもならないように気を付けていただきたいと思います。乗ってからだと、その方に責任がかかってきますので、必ず乗る前にしっかり交通ルールを学んでいただきたいと思います」

 各地で危険性が表面化している新しい乗り物。求められているのは利用者側の責任ある行動にほかならない。