介護従事者が利用者の財産を奪う事件が全国で相次いでいる。大阪では高齢姉妹から約2000万円を横領したとして、姉妹が通っていた介護施設の元代表の男が逮捕された。MBSは、姉妹から相談を受けた男性と容疑者とのやり取りの音声記録を独自入手した。見えてきた事件の実態とは。
80代女性がエアコンない部屋で熱中症に その裏で起こっていたのは…
【去年7月のやり取り】
(知人)「これからはもうリハビリのところも変えてしまおうな。新しいところにしような。もう西影さんのところお世話なるのやめよう」
(80代女性)「はい」
(知人)「もうこんなクーラーもないのあかん」
ベッドに横たわる女性。女性は80代で、エアコンのない部屋で過ごし熱中症になった。その表情に力はない。この女性、実はある事件の被害者だ。
業務上横領などの疑いで逮捕された、大阪市鶴見区の介護施設運営会社「アッラサルテ」の元代表・西影由貴容疑者(38)。施設に通う80代の姉妹からキャッシュカードを預かり、現金約2000万円を不正に引き出した疑いがもたれている。
高齢姉妹を金銭的に支配か『生命保険を解約』『自宅を売却』
西影容疑者と姉妹との間に何があったのか。取材を進めると、“金銭的支配”というキーワードが浮かび上がってきた。
(西影容疑者)「金遣いが荒いから僕が管理してあげる」
西影容疑者による“金銭的支配”が始まったのは2021年のこと。姉妹に出会ってまもなくのことだった。西影容疑者は通帳やクレジットカードを預かったうえで生命保険を解約。さらに、姉妹の自宅まで売却し自身が暮らすマンションの別の部屋に移り住ませた。ところが姉妹の口座には数百円しか残っておらず、苦しい生活を強いられていたという。こうした姉妹の異変に気づいた人がいる。
(警察に通報した男性)「毎月お金がないねんとか、マンションの下で他の人と話してたら怒られるとか、家があったのにそのお金もどうなっているのかわからないというのを聞いていて」
姉妹から相談を受け警察に通報したという男性。姉妹は西影容疑者から月に数万円しか与えられず、電気やガスが止まることもしばしばで食パン1枚を2人で分け合うこともあったと話す。
【独自入手】 警察に通報した男性と容疑者とのやり取り音声
男性は不審に思い、西影容疑者を問い詰めたという。取材班はそのときの音声記録を独自に入手した。
【西影容疑者とみられる音声 去年8月】
「(姉妹からの金銭管理の)お願いの部分で断り切れなかった部分が正直あったかもしれない。そのあたりも含めて、不正をしているなり何なりという部分は僕の中でやっているつもりは一切ない」
「姉妹からのお願いだった」と金の搾取を否定した。自宅の売却については…
(男性)「不動産に関しては弁護士さんが売った?西影さんはどこに売ったか知らない?」
(西影容疑者とみられる人物)「ちょっとわからない…僕もすべてそのへん…」
「分からない」と繰り返した。
「連絡を取ったりお会いする気もございません」姉妹が書いたとは思えない手紙が届く…
そして、このやり取りの直後、男性のもとに姉妹から一通の手紙が届く。綴られていたのは、姉妹が書いたとは思えない“男性との関係を断ち切ろうとする”ものだった。
【姉妹から男性宛ての手紙より】
「私たちが望んでいない事をされたことに関して、私たちはとても立腹しています。連絡を取ったりお会いする気もございません。ご迷惑をかける様な行動はお控え下さい」
(警察に通報した男性)「しゃべっていても饒舌やし、こいつ(西影容疑者)の口にかかったら歳いった人は騙されてしまうなと思った。(姉妹は西影容疑者を)優しかったというのは言っていましたね。それが手やろね、入り込んでいくわけですよね」
一方的に男性との関係を絶ったこのころ、西影容疑者はさらに不可解な行動に出る。
元従業員を妹の養子に「神様めちゃくちゃ…」
それは運営会社の元従業員の女性を姉妹の妹と養子縁組させたのだ。そして姉妹は養子縁組した女性が暮らす、東大阪市のアパートへと移り住んだ。
去年10月、男性らが姉妹の居場所を見つけ出したときには完全に”支配”された姉妹の姿があった。
(妹)「出て行って、ここから。おんねん上(の階)に、女の人(養子の女性)。頼むから…」
(知人)「それはなんで?」
(妹)「(西影容疑者に)『裏切った』いうて怒られるから」
(知人)「(西影容疑者が)そんな怖いの?」
(妹)「うん。あんたらの面倒ようみいひんって言われる」
西影容疑者にひどくおびえる様子を見せる。一方で、「手紙」や「養子縁組」について「西影容疑者にやらされた」と話した。
(知人)「(元従業員が)おばちゃんの養女になったこと知ってんの?」
(妹)「うん」
(知人)「おばちゃんがOKしてんの?」
(妹)「はい」
(知人)「あいつら無茶苦茶やで」
(姉)「(養子縁組を)させられたんや」
(知人)「私の家に手紙が来ているんやけど、あれは(妹姉が)考えて書いたん?」
(妹)「いや」
(知人)「書かされたんやな?」
(妹)「そう。そうしやんかったら、いびられるから。神様めちゃくちゃ…」
“介護従事者が利用者の財産を狙う”ケースが絶えない
しかし、こうした事件は氷山の一角にすぎない。今年1月には東京都で、さらに5月には島根県で、利用者の高齢男性からクレジットカードなどを盗んだとして介護職員が逮捕されるなど、利用者の財産が狙われるケースは後を絶たないのだ。
厚生労働省の調査では介護職員による「経済的虐待」の被害者の数が2022年度には55人にのぼるなど近年、高い水準が続いている。
専門家である日本高齢者虐待防止学会理事長の池田直樹弁護士は、「高齢者の財産管理を周囲がフォローする体制が必要」と指摘する。
(池田直樹弁護士)「体の問題なら日常、近所で見られますが、お金は見せないですから、社会の側からお年寄りに個別に情報提供をする。お年寄りを孤立させないようなこちらからの働きかけが必要かと思いますね」
逮捕された西影容疑者は警察の調べに対して「お金の引き出しを願いされたのでやったこと」と容疑を一部否認している。