尹大統領と岸田総理の日韓首脳会談。異例ともいえる接近ぶりは、中国、北朝鮮という共通の脅威が背景に。最も注目された歴史認識について、岸田総理は歴代内閣の立場を引き継ぐとしたうえで「私自身は心が痛む思い」と言葉を添えました。この岸田発言に対して韓国の国内では「勇気がある発言」「感動した」といった高く評価する声が上がっているといいます。一方で北朝鮮では、アメリカ・バイデン大統領の「北が核を使えば金正恩体制の終焉を招く」という発言について、「北朝鮮のエリート層から体制崩壊を望む声もあがっている」と龍谷大学教授・李相哲氏は紹介しました。(2023年5月8日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

李相哲氏(龍谷大学教授、中国・黒竜江省出身、中国共産党機関紙記者、朝鮮半島情勢に関する著作多数)

岸田総理「心が痛む」発言に「韓国ではかなり感動している空気はある」

---日韓関係改善に向けて前進しているようですが、まだ課題もあります。龍谷大学の李相哲教授に解説していただきます。さて3月の尹大統領の訪日に続いて岸田総理訪韓。日韓シャトル外交本格化ということです。尹大統領が日本に来られたときは、すき焼きとかオムライスを食べました。夕食会は話題になり、銀座のお店に行かれたりしていました。韓国では炭火プルコギなどの韓国料理ということで大統領の公邸での晩餐です。韓国内で注目されていた歴史認識について岸田総理は、歴代内閣の立場を引き継ぐという政府の立場は今後も揺るがないとしながら、「私自身、当時厳しい環境のもとで多数の方々が大変苦しい、そして悲しい思いをされたことに、心が痛む思いです」とも発言。この心が痛むというこの言葉を選んだわけなんですけども、これは韓国内ではどのように受け止められているんでしょうか?

(李相哲氏)「勇気のある発言だった」というふう評価があるんですね。日本国内ではこれ以上の謝罪はする必要はないという空気の中で、総理がそのような言葉を口にしたということに韓国ではかなり感動しているというか。そういう空気はありますね。「私自身」と言いましたけれども総理ですからね。重みは違う。かなり空気になっていますし、正常化に向かっているといいますけれども、正常化になったっていうふうにも見てとれるんですね。ただ今までの歴代改革は様々な言葉を使ったんですね。一番韓国の皆さんが良い言葉だと思っているのが「小渕・金大中共同宣言」で「痛切な反省」というふうな言葉があります。それを今回、継承するんだけれどもその言葉を岸田総理の口から言ってほしいというメディアもあったんですよね。しかしそれはもう二度と言わない。歴代政府の立場を継承するとこれで十分ですよね。それに加えて、私自身、心が痛むというふうに言ってくださったものですから、これは被害者の人たちも、納得してるんですよね。

---一方で雪解けムードに逆行する反日の動きもということで、竹島に韓国の野党議員が上陸しました。韓国の国旗を背負っていますが、2日「共に民主党」のチョン・ユンギ議員が党の青年委員会の14人と竹島に上陸をしたと韓国固有の領土である独島を命がけで守りますなどとコメントをしました。そして福島第1原発の処理水の海洋放出への反発です。IAEAによる検証を進めて、夏ごろまでに放出開始を予定している日本ですが、昨日韓国の専門家を現地に派遣することで合意をしました。李教授によると、韓国内では反発が大きくて、明らかなデマを広げている人たちもいるようです。

(李相哲氏)韓国の水産物が全滅するとか。いろんなデマが広がっています。やっぱり科学的にこうだっていうふうに発表しても、韓国の人々は冷静になってくれないので、今回もやっぱり取り上げることになりましたけどね。

---前向きに進んでいる一方で、中野教授こういう声も韓国には根強くあるというそうですね?

(中野雅至・神戸学院大学教授)今回のシャトル外交で、尹内閣の支持率が上がったわけではないのでね。やはり反日感情強いもんですから李教授がおっしゃったように本当は過去の外交発言を踏まえているっていう機械的な発言ではなくて、小淵元総理のときの言葉を言ったらいいのだけども、やっぱり今の日本国内の環境でも過去とは全く違うんで、なかなか日本国内で受け入れられないんで、お互い「保守場」には効くわけですよ。どっちも。向こうは反米反日バネが効くわけで、ここからが難しいところですよね。

バイデン大統領「金正恩政権の終焉」発言に北朝鮮国民は「終わってほしい」?

---そんな中でG7の広島サミット5月の19日から21日です。その際に、平和記念公園の韓国人原爆犠牲者慰霊碑を日韓両首脳がともに参拝することも決まっています。また、サミットに合わせて、日米韓首脳会談を実施するとアメリカ政府当局者が述べたということです。連携を深める日米韓の3カ国。26日に合意しました。米韓のお話でワシントン宣言ですね。アメリカが核を含む戦力で韓国を守る拡大抑止の強化が約束しました。これに対して怒りをあらわにしたのが北朝鮮・金正恩総書記の妹・金与正氏です。しかし、彼女の発言をきっかけに、北朝鮮では思わぬ事態になっているんだそうです。どういうことなのか朝鮮中央通信が先月29日に伝えた内容です。アメリカのバイデン大統領が核攻撃を行えば、金正恩体制の終焉を招くと発言したことについて与正氏は、老人の妄言だと。強い言葉で非難をしたこれが北朝鮮国内で報じられました。このニュースを聞いた。北朝鮮国民の反応はといいますと、ちょっと意外かもしれませんが、「金正恩政権終わるの?」いや逆にその方がいい、という受けとめが北朝鮮だということなんですね。

(李相哲氏)「政権の終焉」というこの言葉のインパクトが強すぎるんですよね。国内ではそういう言葉を誰かが口にしたらもう処刑ですよね。ただ今北朝鮮の人々が苦しい生活を強いられているので、いつかどんなきっかけでもいいから終わってほしいですよね。そんな中で、いや、「終わるの?」っていうことが公に新聞に出てますから、それでちょっとそわそわしてるというか。既にエリート層では動揺が広がっているという話も聞くんですね。

---北朝鮮国内でこんな言葉を口にできないんだけども、情報を得たのはどうなんですか?
(李相哲氏)アメリカのメディアが北朝鮮にパイプがあるんですね、直接電話で取材してるんですね。直接電話で取材して聞いて、みんな「終焉」という言葉にびっくりしてて、知識人と若い人たちが特に反応が強いというふうに聞きます。このような米韓の動きは、国外にいる北朝鮮の出稼ぎ労働者と外交官たちは見てるわけですね、こっそり。だから何が起こるんじゃないかと、北朝鮮がいくらすごい核を持ってると言ってるけれども、アメリカが抑え込んだら何にもできない。もう絶望感に駆られてる可能性もあるんですね。ですから、ちょっと国外にいる北朝鮮の外交官とか、出稼ぎ労働者が最近、亡命が増え増えてるというような情報もあります。エリート層から金正恩氏に忠誠心が薄くなってしまったら、大勢はやっぱり揺れるんですよね。小さな動きかもしれませんけれども、やっぱり北朝鮮内部では今亀裂が生じているという証拠でもあります。

---G7のサミットでは日米間のですね首脳会談も予定されているということで、この辺りに関しても反発がありそうです。