アメリカ政府がこれ以上国債を発行できなくなって債務不履行に陥る「デフォルト」の危機が迫っています。米議会の民主党と共和党の対立に、バイデン大統領が対応に追われ、G7広島サミットに参加できない可能性が出てきました。世界的金融危機や景気後退のおそれ、ウクライナ問題といった国際危機に向けて、G7首脳とりわけアメリカのリーダーシップが高まっています。アメリカ政治に詳しい同志社大学・三牧聖子准教授は「もしバイデン大統領がG7広島サミット不参加となれば、アメリカの信頼は低下し、中国やロシアから「民主主義だからガタガタするんだといわれる」と危惧します。(2023年5月12日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

◎三牧聖子氏(同志社大学大学院准教授 国際政治学者 専門はアメリカ政治外交 “リベラリズムはプーチンに勝てるか?”など寄稿)

共和党は「バイデン大統領がG7に出られなくてもいいじゃないか」と思っている?

---同志社大学の三牧准教授に詳しく教えていただきます。アメリカのデフォルト、債務不履行の危機が迫っているということです。現在のお金の使い方のままではもうすぐ6月の1日ごろにお金が尽きてしまうというのです。でもお金を借りたらいいのではないかと思うのですが、借金ができる上限が法律で決まっていて、もうこれ以上借りられない上限に達してしまっているので、デフォルトになってしまうということ。デフォルトになると何が一番困るんですか。

(三牧聖子氏)アメリカ国内の問題のみならず、世界的な金融経済に対して、イエレン財務長官の言葉で言えば「破滅的な影響が及ぶと」いうふうにも言われている。アメリカの国債というのは、やはり安全リスクがないということで金融取引の中心になっている。その国債がこうしたことになると、国債の信用が下がるとなると国債の売り、国債を他の機能に変えるとか、本当に金融市場が不安定化する危険が高まっています。デフォルトが回避されたとしても、雇用や経済成長率に影響があるというふうに言われています。アメリカ経済が昨今、中堅の銀行がいろいろ破綻したりとか不安定化している中で、さらにデフォルトの危機が加わるとなると、やはり世界経済の中心地が不安定な状況にあるということはやはり日本、世界への影響は避けられないと。

----デフォルトは困るけど、でもG7来ないのも困るし、どうしたものなのかなと思ってしまいます。ただデフォルトとなるのは大いに困るので6月1日までに、バイデン大統領はまだ借金ができるように法律を変えさせてほしいと何の条件もなしで変えさせてほしいと訴えているんですが、議会で多数派を占める共和党の議員らは「政府の無駄遣いをまず省くことが借金の条件ではないか」と対立しています。そもそもバイデン大統領は何にそんなにお金を使ってきたんですか?やはりウクライナでの戦争というのは影響があるんでしょうか?

(三牧聖子氏)一番大きいのは新型コロナ危機で社会保障費を拡大せざるを得なかった。マッカーシー議員が「無駄なお金を使うな」といい、財政の規律というものは大切なんですが、新型コロナという未曾有の危機の中で、不安定になった生活などの立て直しに、どうしてもお金を使わざるを得なかったと。共和党の方はバイデン政権が拡大してきた社会保障費とか、気候変動対策とか、バイデン大統領がとても力を入れている項目を削減しろと言っているので両者ともに譲り合えなくて、デフォルトっていうのは絶対に避けなきゃいけないような危機なんですが、共和党も民主党も折り合えないという膠着状況が続いているというような状況です。

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---ただデフォルト危機、実は今までにもありました。2011年にも危機が迫ってました。当時の民主党のオバマ大統領と共和党が対立していたんですが、このときはもう期限の日、このギリギリまで争って、期限の日に、両者が歩み寄って合意して、デフォルトを回避した。今回でいうと6月1日のギリギリまで折り合わなかった。でも最終的には調整できたと。今回の危機でいうと3回目の協議が来週に延期されまして、これがG7サミットと重なってしまうということ。さらに今回の対立にはトランプ前大統領も参戦していて、バイデン大統領が「条件に応じないのならば、デフォルトさせればいいじゃないか」と喧嘩腰にもとれる発言をしています。また無責任なこと言いますね。なんか自分関係ないみたいな顔してね。

(丸田佳奈医師)今までも何回かあったんですが、経済の問題とか財政の問題と思いきや、要は政治的な対立をカードに使っているっていうことなんですよね。今回マッカーシーさんが反対しているのも「何にお金使ってきたの」ってことですけど、そもそも民主党政権の政策自体が割と弱者救済型というかお金がかからないことが多いですよね。それに対して、共和党はそこはやりたくないっていうことで、ただ共和党の議員さんたちの賛成がないと下院は通過しませんから。かつバイデンさんが来週に延期されたことによってG7に来られないですよね。となると世界的な信用もバイデン政権は失われるとなるので、共和党にとってもカードとして非常に使いやすいわけです。ただ共和党もバカではないので、おそらくデフォルトに本気で陥るとなったときには直前に止めると思う。今取引が行われているという見方でいいのかなと私は思ってます。

---やっぱり共和党はバイデン大統領がG7出られなくてもいいじゃないって思っていますかね?

(三牧聖子氏)おっしゃる通りですね。むしろ出られなくなった方が共和党としては、と思っているところあると思いますが、本当にでもそれを超えて、やっぱりデフォルトは世界経済にも、アメリカの市民生活にも本当に大きな影響がありますので、その影響は共和党がごねてこんなことになっちゃったとなると共和党にも大ダメージですので、普通であれば直前で合意するだろうというふうに言われているんですが、今回に関しては昔だったらトランプ前大統領のようなことを言う政治家いなかったんですね。さすがに「デフォルトになればいいじゃないか」と言うような議員はいなかった。やはり昔はどこかで妥協できていた。しかし今は民主党と共和党がそれぞれ分極化して、いがみ合って。党内にももう絶対に民主党共和党に折れてはいけないっていう勢力を抱えていてバイデン大統領としてもマッカーシー下院議長としても、党内の調整ができていないので、結局話し合っても妥協できないだろうというような感じが続いてしまっているという状況です。

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---バイデン大統領はどんな発言をしているのか。「問題が解決しなかった場合には、広島に行かないでしょう」と話していて、G7広島サミットについてはオンラインで参加する可能性にも言及しているということです。実際に今までも議会との対立で大統領が国際会議を欠席した例はありました。2013年と1995年のAPECです。そのときはケリー国務長官ですとかゴア副大統領が代わりに出席しています。オンライン参加だったとしても、アメリカの信頼低下。やっぱりオンラインではイメージが、「現地来てくれないんだ」っていうことになりますものね。

(三牧聖子氏)バイデン大統領としても決してG7を軽視しているわけではないんですが、デフォルトの回避、しかもバイデン大統領のせいで民主党のせいでってなってしまうとやはり国民の信用の問題もあるので、これだけ大事な問題ってことなんですね。オンラインになっても実質的な討議にはすごく影響があるってことは実はないかもしれないんですけども、アメリカ国内の問題は結局片付けられずに、本来だったら普通に参加できた会議を
欠席しちゃうっていうことに対し、やっぱりメッセージ性ですよね。やっぱり今、アメリカと対立を深めている中国とかロシアは「やっぱりアメリカって民主主義だからあんなガタガタしているんだ」と。
「政党が複数あって違う主張を掲げて折り合えなくて、こんなことになっているじゃないか」と中国やロシア、アメリカとの対立を深めている国がこれを材料に、「やっぱりアメリカは駄目だ、民主主義は駄目なんだ」「私達の政治体制私達が正しいんだ」という主張を強めるのではというふうにも見られています。

---バイデン大統領には広島に来てもらって、デフォルト回避の方をオンラインでしたらどうですか?

(三牧聖子氏)新しい主張ですが、やっぱりオンラインの重要性、やっぱり大統領にとって一番今一番の案件はデフォルトの回避なんだっていうスタンスをバイデン大統領としても示し続ける必要があるので、やはりそこは逆なのかなと。もし回避できなかったらっていうことはあり、今までなかった話なんですけど、それくらい今、民主党と共和党の距離、お互い妥協しないっていう距離が広まっているんだと。

バイデン大統領の来日なしはむしろチャンス、日本がどういった「平和正義のメッセージ」を発信していくか

---一方で、日本独自の提案やイニシアチブを発揮するチャンスではないかということですか?生

(三牧聖子氏)こうしたこともありうると想定して、結局日本はアメリカが来ないと強い平和正義のメッセージを発せられないんだっていうような受け止め方を世界にされても困るので、バイデン大統領がオンライン参加になってしまうかもしれないということも、残念ながらでも想定して日本としては、せっかく広島でサミットを開くわけですから、どういうメッセージを日本として発するかってことをこの危機の中で考えるということは非常に有用だというふうに思います。

---今回のG7広島サミットの重要課題としては、岸田総理のライフワークでもある核兵器のない世界が上がっていますよね。G7首脳らが原爆ドームのある平和記念公園を訪問する予定となっていますので、ここにも影響があるのかないのか。バイデン大統領が被爆地を訪問するということの意味は大きいですよね?

(三牧聖子氏)原爆資料館への訪問、しかもバイデン大統領のみならずG7の首脳が揃って、イギリス・フランスといった核保有国の首脳が揃って原爆資料館に訪れるということも、長い時間をかけて調整してきた経緯がありますので、そうした観点からもやむを得ない事情があるとはいえ、バイデン大統領がオンライン参加になる可能性というのは長い調整が無駄にはならないですけれども、やはりアメリカの現役の大統領が加わらないとなると、やはりメッセージ性も弱まるということで懸念されるところです。