5月19日からG7広島サミット。「ロシアのウクライナ侵攻」「G7とグローバルサウス」「気候変動とエネルギー問題」などなど。地球規模のテーマがうずたかく積み上げられている中、世界のリーダーを自認する各首脳はどんな頂を目指すのでしょうか。サミット取材歴豊かなジャーナリスト池上彰さんにサミットの“そもそも話”から“岸田総理の野望”といったリアルな政局話も交えて「前・後編」でお伝えします。(2023年5月16日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

サミット開催のきっかけは「1973年のオイルショック」 初期はフランス・アメリカ・イギリス・西ドイツ

---池上彰さんの解説「日本が、世界がよくわかる、何でもお答えしますスペシャル」。「もうすぐG7広島サミット編」としてお送りをいたします。いよいよ金、土、日に広島サミットですね。基礎基本中の基本からいきますか。お願いします。まずは、サミットってよく言いますけども、皆さんこれ、どういう意味ですか、何する集まりですかというところからお願いしていいですか。

(池上彰氏)世界のトップの首脳を山の頂上に例えて、サミットと呼ぶように。最初は1975年でフランスのランブイエというところで開催されました。きっかけはオイルショック。1973年にオイルショックが起きて、例えばトイレットペーパー騒動とかいろんな大混乱になって、世界全体が不況になったわけです。そこでフランスの大統領が「先進国が集まって世界経済を立て直すために、考えようじゃないか」と言って、世界の先進国に呼びかけたというところから始まったというわけです。最初は、元々は5か国でやろうとしたんですよ。今回参加するのは7か国ですが、元々フランスが呼びかけて、アメリカとイギリスと、当時は西ドイツでした。まだ東西冷戦時代ですから。それから日本と5カ国でやろうとしたんですよ。そしたら、これをやるってことを聞きつけたイタリアが自分も入れろと言って押しかけてきて、結果的に6カ国でスタートした。翌年になってアメリカが、隣のカナダも入れてやってくれと言って、そこから7カ国になった。(5か国になったのは)基本的に先進国ということです。当時は、フランス・アメリカ・イギリス・西ドイツと日本で世界全体のGDPの6割から7割を占めるような経済力があったんです。だからまず、この先進国が集まって議論すれば、世界経済を立て直しに役に立つだろうと考えた。G7のGというのはグループのこと。G7ってグループ・オブ・セブン。7つのグループという単にそれだけの意味です。(G8の時代は)ロシアが入っていました。ソ連からロシアになり、経済が資本主義になった。社会主義をやめて資本主義になった。あるいは民主主義になりますよと言ったので、「じゃあロシアも、民主化を進めるために応援するため入れてあげようじゃないか」ということになったんですね。それまでは「先進国首脳会議」って日本で呼んでたんですけど、ロシアは、失礼ながら先進国ではないので、主要国首脳会議という言い方を変えたということですよね。これによって例えばイギリスのロック・アーン・サミットでは、ロシアのプーチン大統領が参加して議論した。ただしロシアが参加したのは、ここまで。2014年には除外されるということになりました。(記念撮影の並び方は)意味があるんです。ちゃんと順番が決まってるんですね。記念撮影するときに、真ん中は議長国・主催国ですね。
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(写真では)イギリスのキャメロン首相が真ん中にいてその外側は国家元首、つまり大統領が並ぶんですね。その先が、行政のトップ、つまり首相ですよね。日本だと総理大臣だから、大統領の方が真ん中になるわけです。だからメルケル首相とか、あるいは安倍首相よりもプーチン大統領の方が真ん中にいる。大統領だからというわけです。さらにその後は、どれだけ在任期間が長いかによる。当時のドイツのメルケル首相と安倍総理大臣、メルケルさんの方が在任期間が長いので、メルケルさんの方が真ん中に立っているという構造になるんです。並び方に意味がある。それからちょっと小ネタなんですけど、手を挙げて手を振っている人がいるでしょう。ドイツのメルケル首相は絶対に記念撮影で手をあげることないんです。手を上げると、ドイツでは「ナチス式敬礼」って言って禁止されてるんですよ。だからこういう格好をすると、それが写真で切り取られてしまうと、ドイツ国内で「メルケル首相がナチス式敬礼をしていた」と言われる可能性があるので、絶対手を挙げないのですね。ですが、ロシアが2014年から除外されるということになりました。その理由は2014年にロシアがウクライナのクリミアに侵攻した。このような侵攻は許せないと言って、他の7カ国がロシア抜きにしようということになった。その結果ロシアがサミットに参加しなくなったできなくなったということですね。


---園田さんはクリミア侵攻がきっかけで、ロシアが除外されたことをどう思われますか。

(園田由佳弁護士)「よく国際社会における法の支配っていうワードを重要視していると。つまり国際社会でも一つの国が暴挙に出ない。国際社会でのルールできちんと制限をかけていこうという考え方だと思っていて、ロシアは今、ウクライナに侵攻してしまっている。この当時、G8から追い出さなかったらロシアの暴挙を止められたんじゃないかなっていう気もしていて、果たして除外したことで良かったのか。後からの話になってしまうんですけど、これは正解だったのかなっていうのがちょっと難しいなって気になっています。

(池上彰氏)いや、これは本当に今になってみると、ということではありますが、そうだったのかもしれないということが確かにありますよね。ただ2014年にロシア軍がクリミア侵攻したときに、プーチン大統領はロシア軍が侵攻したってことを認めようとしなかったんですよ。あのときにクリミアに入ってきたのは、ロシアの国章を全部外して、正体不明の武装勢力っていう形で入り、そのときプーチン大統領は「ロシア軍はクリミアに入っていない」。あるいは「クリミアの自衛団だ」という言い方をしたんです。1年経ってから、実はあのときはロシア軍だったって認めたんですよ。ここからは私の方から皆さんに質問ということにしましょうか?実はサミットには、シェルパと呼ばれる人たちがいます。シェルパというとヒマラヤの登山には欠かせない人たちのことですが、河田さんはネパールでシェルパの人たちに大変お世話になったそうですね。

(河田直也MBSアナ)以前ネパールで登山するロケがあって、シェルパの皆さんが荷物を運んでくれるんですよ。シェルパ族、または荷物運ぶポーターの仕事をする人たちのことを指してシェルパとも言うんですが、とにかく現地は道がめちゃくちゃ悪くて、舗装はされてないし細いし、荷車も車輪が通れないんで、人が担ぐか大きな牛が運ぶかどちらかなんですが、我々もシェルパに重さ20キロ30キロぐらいまで運んでくれるという。シェルパの皆さんにずいぶん助けてもらいました。サミットで活躍するこのシェルパという存在どういうことなのでしょうか?

(池上彰氏)シェルパあってこそのヒマラヤ登山でしょ。サミットは山の頂上という意味なので、そこに引っ掛けて、サミットに集まる首脳たちがどんな話をするのかということを事前に準備をする人たちのことを、シェルパって呼んでいるんです。各国に首脳を支えるシャルパという人たちがいるんです。広島サミットの日本のシェルパは、小野啓一外務審議官。外務省で経済問題を担当している審議官で、開成高校ですね、岸田総理の高校の後輩ということになります。この人が世界各国のシェルパたちと集まって「さあ、どのように話をするか」というスケジュールを組んでいくわけです。だから7人の首脳たちが集まって、例えば合意文書を作ろうというときに、最初から作っていたらとても間に合いませんよね。だから事前にこういうことでどうですかというのを台本を作っておいて、当日みんなでここのところこうしたらどうって言って、最終的な合意文書としてまとめるということをしてるんです。シェルパの皆さんがいるからサミットもうまくいくと思います。

サミット会場近くの道路から中央分離帯が消えていた?

---サミットに向けて広島の街はどうなっているんでしょうか?宇品の島にメイン会場のグランドプリンスホテル広島があります。小さな橋1本で繋がっているもんですから、この橋のところを警備で止めてしまえば、非常に警備がしやすい。ただしホテルの横に一般住宅もあって、住宅の人たちだけには特別の通行許可証というのが渡されて、それがないと広島の町と出入りができないという状態になっています。私も国際会議があったときに行ったことがあるんですが、広島湾がよく見えて、非常に風光明媚なところなんですが、ここから首脳たちは平和記念公園に行きます。平和祈念公園までは一般道路を通るということになり、一体そこで何が起きているのかというと、大吉アナウンサーの取材です。

(大吉洋平MBSアナリポート)広島市内の中心部平和記念公園につながる吉島通りです。広島市はサミットに向けて、道路の舗装に力を入れてきました。今年2月にはおよそ300mにわたって、市道の中央分離帯が撤去されました。2016年、当時のオバマ大統領もこの道を使って平和記念公園を訪問していて、今回、各国首脳たちは、ここ通るんでしょうか。

(池上彰氏)なんで中央分離帯取ったと思います。見通しだけじゃないんです。中央分離帯があると、左側の歩道に近いところ首脳たちが通ります。ずっと歩道に歓迎の人だったり、場合によっては不審者がいる可能性がありますよね。そうすると首脳の車と歩道のところが近くなり過ぎる。だから中央分離帯を撤去して、車が真ん中を通る。そうすると警備しやすいということですよね。終わった後はまた中央分離帯をおそらく作るんでしょうね。実は7年前に伊勢志摩サミットが開かれたとき、伊勢志摩の会場にそれぞれの首脳がどうやっていくのか、中部国際空港から行くのか、あるいは新幹線で行くのかよくわからないというか。例えば道路を整備すると「ここを通るんだ」ってわかってしまうというので、当時全部の道路を改修したんです。ものすごいお金かかるわけでしょ。つまり、地元に負担がかかるから、国のお金で道路を整備してあげましょうということに結果的になる。

---お金はかかりますけど、結果的に何か綺麗になりそうですね。

(池上彰氏)そうです。非常に綺麗になる。今のサミット期間中は大変なんです。例えば広島カープの試合も行われないし、サンフレッチェ広島の試合もないし。小中高校は、金曜日は臨時休校です。そこまでの厳戒態勢を取るんですが、あとは見返りがありますよということです。さらに実は警戒が必要なのは広島だけではない。東京や大阪もテロへの警戒が必要です。広島は厳重な警戒が進んでいます。何か事件を起こそうという人物は、広島じゃないところでやろうとするという可能性がある。実に2005年にイギリスがスコットランドの「グレインイーグルズ」というロンドンから遠く離れた田舎町でサミットを開いたんですね。そしたら、なんとテロリストたちがロンドンの中心部の地下鉄とバスで同時爆破テロをしたんです。これで56人が亡くなるという出来事が起きたんですね。なのでサミット会場を警備しやすいように地方で開くというのが一般的ですが、むしろそうすると人が狙われるという可能性がある。だから、例えば今、広島は非常に厳重な警戒がある。でも東京あるいは大阪でテロをすると、世界にはサミットが開かれている日本でテロで報じられますょ。それを狙ったテロリストが何かするんじゃないか、そのために念のために東京や大阪など大都市でも警備を強化するということです。とにかく全国から2万4000人の警察官が動員されているんですが、4年前の大阪のG2サミットのときは3万2000人動員されています。あのとき大阪は大変だったでしょ。それと同じようなことが今行われようとしているってことです。