福島第一原発の処理水海洋放出をめぐって韓国の野党議員団が送った視察団について、朝鮮半島情勢に詳しい龍谷大学教授・李相哲氏は「韓国の反対派は処理水が問題ないことはわかっている」としたうえで、「韓国では科学的な説明は政治的な理由で黙殺されることがある」との見解を述べています。(2023年5月23日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

李相哲氏(龍谷大学教授、中国・黒竜江省出身、中国共産党機関紙記者、朝鮮半島情勢に関する著作多数)

尹大統領は、日韓改善のために原発視察を「科学的に問題なかったよ」と国民を説得する材料にしたい

---龍谷大学の李相哲教授です。韓国の視察団が原発処理水を確認へ。韓国では「汚染水」という言葉が使われ、ニュアンスも全然違います。視察団は科学的に安全性を確認するとのことです。一方、日本は環境人体への影響はないとしています。ただ福島の地元漁業関係者はやはり海洋放出には反対。風評被害があるのではと非常に不安な思いをされています。今回の視察団の派遣の思惑は?

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(李相哲氏)尹大統領からすると、やっぱり国民を納得させる材料を手にしたいと。尹大統領が慎重な姿勢を示すのは、今、野党がとても攻勢が強い中で、少し口が滑ったらもう全て日韓関係がまた元に戻ってしまうので、日韓関係を悪くしないためにもやっぱり科学的に問題なかったよという説得材料を作りたい。そういう意味での派遣。日本側も今年の3月から「だったら来てよ」という。決して両国間でトラブルが起こったから来た視察団ではないということ。しかしそれが気にいらないのは野党ですね。やっぱり尹大統領は日本に対しては弱腰だと。これを政治問題化、外交問題化したいというのが野党の思惑ですね。ただ今、反対が7割という数字が出ていましたが、これは調査方法にもよりますし、質問の仕方にもよります。中にはもう既に与党関係者の中では「汚染水」ではなくて「処理水」と呼びましょうというような動きもあります。世論の数字も大事だけれども、韓国ではこの問題を早くやっぱり鎮めたいというような思惑はあります。

---原発の処理水について日本は今年の夏ごろまでに海洋放出に踏み切りたい考えですが、韓国の一部では反発の声もあります。そこで韓国の視察団が日本にやってきました。原発施設や放射性物質放射線部分野の専門家ら21人で構成されています。団長は福島汚染水の放流に対する科学的安全性を確認するためにやってきたということ。この21人のメンバーはどういうふうに見ていますか?

(李相哲氏)韓国の原子力安全問題を現場で検証したりとか、実務に携わってきた経験者らで構成されています。尹政権が発見した視察団だから野党は反対しますけれど、逆に客観的なデータを持ち帰って、国民を安心させたいというふうな思惑で作られた視察と思えばいいです。

韓国の野党は科学とか事実とか関係なく、政治問題化したい

---韓国は福島県など8県の水産物を輸入禁止措置、ソウルでは処理水の海洋放出に反対するデモも起こっているといます。韓国国内で福島の処理水を問題視する理由について、李教授によると「日本の説明に耳を傾けるつもりはない。とにかく反対」なぜなら「尹大統領には日本に弱腰のイメージをつけたい」という一部野党議員たちもいるという。

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(李相哲氏)野党はこれを科学とか事実とかと関係なく、政治問題化したいのです。尹大統領の弱腰外交を批判したいということなんです。つまりこの問題に関しては説明が十分ではない部分も、もちろん韓国にはあるんですね。今までIAEAは中間報告書を出して、日本の処理の仕方だと全く問題ないというふうな結論がもう出てるんですよ。しかも日本だけの説明じゃなくてIAEAは韓国の専門家も入ってますので、それで十分納得すべきなんだけれども、事実が不都合な人たちがいるわけです。その人たちを黙らせる意味でも、韓国の専門家も行って問題ないというような結論があったというふうなことを政権としてはアリバイ作りというかそれやりたいということが見え隠れしてます。最近の保守系の朝鮮日報の社説を読んでも、福島視察団に関して少し懸念をしてるような論調なんです。だから韓国ではやはり食の問題と関係あるというので、みんながやっぱり大胆に勇敢にモノを言えないという雰囲気はあって、特にメディアがミスリードしてる部分はあるんです。今の日本のこの処理水はどのような仕方で、どれだけ誠実にやってるかということを報道して、初めて皆さんが「そうなのか」ということになるのですが、やっぱり感情が優先して、日本が何かあたかも何かを隠してやるような、そういう論調のメディアもありますから。メディアの方もやっぱり確かに大きいですね。今回の視察団も、日本がつっぱねること可能です。「あなたたちの海岸にある原子力発電発電所の、その地域の海水を調査したい」と言ったら受け入れてくれるのかっていうことになりますよね。そうすると喧嘩になるから、将来的に福島産、日本の水産物の韓国への輸出とも関係あるんですよね。韓国が納得するまで日本も丁寧に説明するというふうな意味合いではいいと思います。最初からけんか腰になって、せっかく良くなった日韓関係がまたこじれるのがよくないから。だから日本が受け入れて、尹錫悦大統領は科学的な根拠を持って、国民を説得したいという段階だと思います。

「トリチウム」は、韓国の原発でも日本の2倍3倍以上放出している

---トリチウムの年間処分量のデータ。福島第1原発の処理水は今後、22兆ベクレルを放出する予定ですが、実際に韓国の原発では、2021年のデータだとコリ原発で49兆ベクレル、そしてウオルソン原発では71兆ベクレルをすでに放出しています。安全が確認された基準として放出をしていますが、韓国の原発ではこういったことが行われているのに、でも日本のことに関して非常に厳しい姿勢だと。韓国の反対派はこの事実をどう受けているのか?

(李相哲氏)韓国の原子力安全問題をテーマにして、論文を書く先生たちもちろんいます。韓国の科学雑誌に載ってこのようなデータを使っていたら、その人は文在寅政権時代に降格されて、論文が取り消されたこともあるんですよね。だから韓国でとにかく事実として認めようとしない人たちがいるんですよ。反対のために反対をして、この問題を政治化して、尹大統領の攻撃材料に使いたいということが、ここに混ざっているので、そこがやっぱり問題をおかしくしているんですね。

---科学的に問題ないことは知っていますが、韓国では科学的な説明も、政治的な理由で黙殺されているんだということです。

(李相哲氏)韓国の場合、そのようなケースが多々あるんですよね。例えば最近、野党の責任のある幹部が「IAEAの報告書を信じられるか」という。IAEAは世界の原子力の安全問題をモニターしてる専門家チームでやっていますよね。それも
信じないんだったら、何をもって説得できるのか。これはもう無視するしかないですよ。

---科学的根拠に基づいて提示をしていますが、聞いてもらえないというようなところもあるということです。この処理水に関して李教授が考える着地点は、韓国は日本をモニターする姿勢を国民に見せる。日本は粛々と科学的な根拠に基づいて処理をすべきではないかということですね。

(李相哲氏)日本国内でも風評被害を被る可能性もありますので、丁寧に丁寧に日本もやる必要がある。ただ韓国は何を言おうが、粛々とやる必要がありますね。韓国内でも「我々も蚊帳の外ではなくてモニターしていますよ」という姿勢を見せれば、少しずつ問題解決に向かっていくんじゃないですかね。