ジャニーズ事務所の性暴力問題で、6月12日、元検事総長の弁護士や精神科医らで構成する再発防止特別チームが記者会見。今後の調査方針について「性暴力が起きたということを出発点として検証、再発防止策を提言していく」と述べました。長年ジャニーズ事務所の性暴力問題を取材してきた元週刊文春記者でジャーナリストの中村竜太郎氏は、このチームがジャニーズ事務所から報酬を得ていることによる客観性を疑問視。また会見場で、ジャニーズ事務所の性暴力を取り上げてこなかったメディアとの関係性について問題視する声があがりましたが、特別チームは「調査対象とは考えていない」と答えています。(2023年6月12日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

◎中村竜太郎氏(元週刊文春のエース記者「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」大賞を3度受賞)

特別チームは「ジャニーズ事務所とは関係有していない」というが、報酬はジャニーズ事務所から 中村氏「第三者の役割果たせるの?」

20230612_nakamura_kao.jpg
---解説していただくのは、元週刊文春記者でジャーナリストの中村竜太郎さんです。5月26日に立ち上げが発表された外部専門家による再発防止特別チームが、6月12日、活動内容について会見しました。この問題が大きく報じられて以降、初めてのジャニーズ側の記者会見で、現場の様子は一体どうだったのでしょうか?MBS大吉洋平アナウンサーに聞きます。

(大吉洋平アナ)都内のホテルで行われた特別チームによる記者会見は、約1時間20分のほとんどが質疑応答でした。テレビカメラが15台、そして記者の数は100人を超えていました。会見の前にメディア関係者に配られるメディアパス、それが途中でなくなって、私は後の方に来たので、“粘着テープ”に「メディア」と書かれたものが事実上の入場許可証になりました。運営側が想定していた以上のメディア関係者が集まったということが言えそうです。今回の記者会見には、ジャニーズ事務所の関係者というのは一切姿を現していません。会見にあたった弁護士も、自分たちのチームは、これまでジャニーズ事務所とは一切の関係を有していないということを強調していました。ただこのチームの発足を依頼しているのはジャニーズ事務所ですから、弁護士や精神科医などに支払われる報酬というのは、ジャニーズ事務所から出ているわけです。

---ジャニーズ側の会見と紹介したのですが、確かに今回の会見は第三者的な役割だけれども報酬はジャニーズ事務所から支払われている。今回の会見について中村さんの印象は?

(中村竜太郎氏)チームとしては第三者委員会で捉えてもらっていいですよと言ってはいますが、私など長年取材している立場から言わせてもらいますと、あえてきついことを言わせてもらいますと、やはり弁護士っていうのはクライアントファーストなわけですよね。クライアントのために動くというのがその弁護士ですから。どういう人であろうが、お金を払った人に有利なことをするというのが弁護士の役目でもあるわけですよね。そう考えてみるとこれは厳密には第三者委員会ではないというふうに私は思っています。

20230612_nakamura_daisansya.jpg
---確かにお金が支払われている以上、弁護人は弁護する側のことを考えている?

(中村竜太郎氏)もう1つ、今回質疑で出てきたかどうかわからないんですが、選定の仕方がちゃんとクリア、ガラス張りであったのか、どういう経緯でどういうふうに選定をされたのか。ここも非常に気になるポイントです。元々、関係性の強い人だったり、お友達だから頼みますよ、みたいな感じの選ばれ方をするんであれば、もう第三者委員会という名目だけが、お飾りのようになってしまうということで、そういうふうに私は思ってしまいますよね。

---人選ですよね、特別チームのね。1人は前検事総長の弁護士・林眞琴氏そして精神科医の飛鳥井望氏、特別チームにはこの2人に臨床心理の女性研究者を加えた3人で構成されているということです。ジャニーズ事務所は、いずれの方も弊社とはこれまで関係を一切有していない。外部の独立した第三者が調査提言を行うものであり、第三者委員会としての機能を有するというふうに、ジャニーズ事務所は発表しています。では、このチームは本当に第三者としての役割を果たしていけるのかっていうのは一番気になるところです。

(中村竜太郎氏)ご本人たちはそのつもりで引き受けていると思いますが、客観的に見たら、プラス世間的に見たら、本当かな、どうなのかなってそういうモヤモヤとした気持ちっていうのは残ってしまいますよね。

---会見の内容を一部抜粋してお伝えします。故ジャニー喜多川氏による性加害性暴力の被害が申告されている。こういったことが起きたということを出発点として、問題を検証、再発防止策を提言していくというふうに話しました。ジャニーズ事務所としては、ジュリー社長が知らなかったというふうに話していますし、事実認定は避けた形ですけども、ここがだから1つポイントなのかなと思いますが?

(中村竜太郎氏)ジュリー社長が性暴力を知らなかったというふうに、そこであったとは言ってないわけですよね。そこからスタートしてこういう形の流れになっているわけですから、なかなかモヤモヤした感じは続いてるっていうか。本当にメディアの人たちが一番聞きたかったのは、事実はどうだったのか、どうなのか、そこがポイントだと思うんですけど、結局それに対する明言はなかったと思います。

---今後の調査は非常に慎重に進めなければならないということを話しています。

(中村竜太郎氏)もちろん専門家が、聞き取り調査は人権に配慮しつつ慎重にやっているとは思うんですけれども。やはりその後、どういう結果が出るのか、そこは見極めたいところです。

---特別チームは外部の独立した有識者で構成されていて、独立した形で調査が行われると。第三者委員会と受け取ってもらってさしつかえない。こういったところを、ずいぶん強調はしている。やっぱり世間がそれを非常に気にしてるんだよっていうことでしょうか?

(中村竜太郎氏)実際、私が聞いているのは、ジャニーズ事務所には、特別チームが編成される前から、専門のコンサルタントの方を結構いいギャランティで抱えていますので、いろんな世間の声、どういう対応があるのか、Q&Aをちゃんとシミュレーションしながらやってるわけです。そうやって進めてはいますが、どうなのかなっていう気持ちはありますよね。

---現役タレントへの調査については、申告した人には心情に配慮して慎重にアプローチをしたいと。アンケートを取るなど、網羅的に確定するのはミッションではない。どのように防ぐかを主眼に検証すると。だから広く調査するということではないということは話していた。

(中村竜太郎氏)この点について異論はないです。

---実際に具体的に会見場で聞いていた大吉アナに聞きます。

(大吉洋平アナ)まず特別チームの人選ですが、ジャニーズ事務所と一切関係のない人たちですということを書面でも発表しています。一方で林弁護士は、知り合いの弁護士を通して今回の話が来たということを話していました。この知り合いの弁護士が事務所とどういう関係性があったのかというのは明らかにはされていませんでした。今回の記者会見全体を通して私が感じたキーワードなんですが、少し「消極的」な関わり方になっていってしまうのではないかという部分なんですね。というのも、今回のこの特別チームというのは、様々な証拠や資料を集めて自分たちで事実認定をしそれを事務所に突きつけて認めさせるということを目的とはしていません、ということを何度も口にしていました。現役タレントさんへの網羅的な調査はしない。もちろんセカンドドレイプというものに対する配慮であったり、仮に現役タレントさんの中に被害者がいた場合、傷口を広げてはいけないというような考えがあるわけなんです。ただ例えば、刑法上の罪に当たるようなことであったり、時効が成立していないような事案が出てきた場合、捜査機関にその情報を提供する意思はありますかという質問もあったのですが、そこは自分たちのミッションではないというふうに繰り返し話をしていました。今回、いろんな質問が飛び交っていました。他のメディアの質問でしたが、「数百人被害者がいるという証言も出ている、これはやっぱり組織として大きな責任があるわけで、そこは細かい事実認定を事務所側にさせるべきではないか?」というような質問も出たんですが、そこもかなり距離を取ったような答えであったのは事実です。現段階、中間報告の予定や検証結果の発表の時期、その方法というのはまだ決まってないということが会見で語られていました。ただ精神科医の先生に関しては、自分たちがまとめた提言を事務所には報告した上で、事務所側にはどう行動を今後変えていくのか、そこは明らかにしてもらうということは話していたんですね。今後注目されるのは藤島ジュリー社長の会見、これが行われるのかどうなのか、この辺りに注目が集まっていると思います。

ネットメディアや紙媒体「過去に判決も出たのに、テレビは広く伝えてこなかった。メディアとの関係性問題ないのか」 特別チーム「調査は現段階考えていない」

20230612_nakamura_ooysi.jpg
 そして今回の記者会見の中で、特にネットメディアや紙媒体からよく出た質問が「ジャニーズ事務所の性加害問題というのは過去に裁判で判決も出ました。だけれどもそれを広くテレビは伝えてこなかった。メディアとの関係性、ここにも問題点があるのではないか。メディアも含めた調査を行いますか?」という質問も実はたくさん出たんですね。ここに関して対策チームはメディアへの調査というのは現段階考えていないというふうに話していましたが、今後、藤島ジュリー社長の会見が行われた場合、私もメディアの取材人です。その会見でテレビは何を聞くことができるのか、何を聞くべきなのか、この問題とどう向き合っていくのか、そこを考えさせられる会見でもありました。

---確かにメディアがどう伝えていくか、これは我々も考えていかなければなりません。中村さん、何かことあるごとに「これは我々のミッションではない」というような言い方もあったということですが、いかがですか?

(中村竜太郎氏)やり取りを聞いていてもどこか国会の官僚答弁的な、まだるっこしい言い方であったりとか、何かすっきりしないっていうかですね。誰もが聞いて納得できるっていうふうな答えはなかったんじゃないかなって思いますね。せめて意気込みがもっと強く出ていれば、温度感というのも違ってきたと思うんですが、明日のメディアの取り上げ方、それによってまた情報も整理できると思いますので、ここは注目したいと思います。

---5月26日に再発防止特別チームと同時に発表されたのが相談窓口と社外取締役です。心のケア相談窓口は、プライバシーを保護した心療内科医などによる個別対応で、所属経験のある全タレントが対象になっている。いまいらっしゃるタレントの皆さんを守ろうということですね。監修は心療内科医で元環境大臣の鴨下一郎氏。そして社外取締役に、非常に話題になりましたけども、WBC侍ジャパンヘッドコーチの白井一幸氏。白井さんは「ゼロからチーム作りに力を貸してほしいとオファーがあった。ジュリー社長の熱意と、逃げることなく過去に向き合い、責任を背負い続ける覚悟を感じた」というふうにコメントをしました。そして、元環境事務次官の中井徳太郎氏、弁護士で日本弁護士連合会の男女共同参画推進本部委員・藤井麻莉氏も社外取締役に。人選について、どうしてこちらの皆さんなのかいうところは明らかになっていないのでしょうか?

(中村竜太郎氏)明らかにはしていませんし、多分それも伝えないと思うんですけれども、白井さんに関しては、リスクマネージメントを請け負っているコンサルタントが紹介したって私は取材で聞いています。あとはちょっとどうしても気になってしまうのは、林さんなんかもそうなんですけど、検事総長だったりとか、鴨下さんも環境大臣であったりとか、いわゆるその権威づけっていうのがちょっとね。そこが何かどうなのかなっていうですね。事務次官だったとか。そこら辺がフラットに、若い人でも全然いいと私は思うんですけれども、そこに何か権威で圧をかけてくるみたいな、そういう印象をやはり受けてしまいますよね。今後は、きちんと情報をできる限りガラス張りにして、中間報告でどういう報告があるのかそこをちゃんと見極めたいというふうに思います。