さまざまな感染症が増えています。特に今年ははしかが流行の兆し。空気感染による感染力は最強といわれ、1人が感染する人数は12人~14人。また感染するとこれまで獲得した免疫記憶が消失してしまうケースも報告されています。さらに「RSウイルス」や「ヘルパンギーナ」などの感染症が急増。大阪公立大学大学院・城戸康年教授は「新型コロナ感染爆発で抑えられていたほかの感染症が今、拡大している」と話します。(2023年6月13日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

◎城戸康年氏(大阪公立大学大学院教授):専門は感染症学、寄生虫学 コロナの治療薬開発や疫学調査に従事

コロナ対策の影響?子供たちが感染して免疫を作る機会が減っている

---大阪公立大学大学院・城戸康年教授の解説です。はしかに感染すると免疫の記憶喪失。またいろんな感染症が増えている。これは一体なぜなのか。この二つをみていきます。まずはいろんな感染症が増えているということで、定点当たりの感染者数。5月22日の週にRSウイルスは、前年比9.75倍、ヘルパンギーナは前年比44.3倍と非常に増えている。木戸教授は「子供たちがコロナ禍で本来かかる感染症にかかっていないからでは」としています。

(城戸康年氏)二つとももう普通は今、2歳とか4歳、5歳ぐらいまでにほぼ全員がかかるウイルス感染症なんですね。しかしこの3年間、これらほとんど数がかなり少なかったんです。例えば3歳とか5歳までの子供たちは、本来今までであればほとんど感染にしてきて、記憶があるのに、今の子供たちは感染していないから、記憶があんまりないのです。そういう子供が相対的に多いので、感染機会が増えているので、そういう母数が多くなって、感染が多いという状況かと思います。

---この数年、コロナ対策を徹底してきたので、ほかのウイルスに感染しなかったということですか?

(城戸康年氏)子供たち同士の触れ合いも極端になかったので、子供たち自体が感染する機会がほとんどなかったんだと思う。

---インフルエンザも増えています。5月29日の週は休校や学年学級閉鎖は全国で302校ありました。ちなみに2021年、2022年の同時期の学年学級閉鎖はゼロです。インフルエンザというと冬のイメージもありますが、城戸教授は、2000年代後半から夏の流行も観察されていましたが、背景には世界的な人の移動が増加したことにあるのではとしています。海外の方が日本に来られたりとかやっぱり機会が増えましたものね?

(城戸康年氏)もちろん短期的な意味での流行もあるのですが、今その図でいけば、青いのが、通常は赤のラインを下回ることが多かったですね。確かに今年のベースが高まってるんですよね。「RSウイルス」とか「ヘルパンギーナ」が多い理由は、大人も同じなので、そういう理由に加えて、2000年代後半から例えば東南アジアでも季節性インフルエンザっていうのは、1年間に2回流行が起きています。2000年代後半から世界中で人の動きがますます増加してるんですね。そうすると南半球は日本でいう向こうの夏はこっちの冬と逆ですから、日本の夏に南半球の流行が起こって、それが東南アジアに行き、それが東南アジアからも含めて日本に来て、日本で流行ると、また今度季節が変わって戻るという世界的な流行が増えてるので、沖縄なんか特に夏の流行もこれまでも見られるという地球上の変化というのもあると思います。

---これから日本でも全国的にインフルエンザ、年2回流行みたいなこと考えられる?

(城戸康年氏)でも増えるといっても、冬の流行はその数字でいくと、もう10とか50人という大きな山なので、冬のような大きな山という意味では決してない。

---今年、大阪でも4人感染が確認されたはしかも流行の兆しがあります。はしかの症状は39度以上の高熱、発疹、咳、鼻水などが挙げられます。感染経路は飛沫や接触だけでなく、空気感染があります。非常に感染力が強い。特に気をつけなきゃいけないのが、妊婦さんが感染すると流産や早産の恐れもあります。感染力は最強ということで、感染力を表す基本再生産数。これは感染者1人が他人にうつす人数で、12人から14人で非常に多い。他の感染症と比べるとどれぐらい感染力は強いですか?

(城戸康年氏)かなり最強の部類です。感染力が高まった新型コロナで、5,6とか言われますので、その2倍以上と考えていただければ。

---今後、このはしかの感染拡大という可能性はどう考えたら?

(城戸康年氏)日本はワクチンを打ってる人が多いので、コロナみたいにクラスターだとか大規模に広がることは基本的にはないと思います。しかしワクチンを打ってない人だったり、効果が見られない人がいますので、そういう人に散発的な流行というのはあり得ると思います。

ハーバード大研究「はしか罹患するとこれまで獲得した病原体に対する免疫記憶が失われる」

---はしかに関するこんな研究。ハーバード大学研究者らが、はしかに感染すると、他の病原体から身を守る既存の抗体が減少すると発表しています。はしか予防未接種のオランダの子供77人を分析したところ、はしかに罹患すると11%から73%の抗体が消え去ったということです。はしかに感染したことによってこれまで獲得していた病原体に対する免疫記憶が失われたということです。はしか以外の病気にかかる可能性が高くなるということですか?

(城戸康年氏)机上は別にして、よく知られたことは、はしかにかかった後、例えば肺炎とかで重症化して場合によっては亡くなるということがよく観察されていました。なので非常に怖い病気だと考えられてます。

---理屈で言うとどういうことが起こってるんですか?

(城戸康年氏)「RSウイルス」や「ヘルパンギーナ」は子供の時にほとんど全員が感染したものだとお話しましたが、それは子供のときから我々の体の免疫細胞というのが記憶してるんです。それが体の奥に…
ずっと次のときのために備えて待ってるんです。それを記憶免疫細胞と言いますが、はしかに感染すると大事な記憶免疫細胞にはしかウイルスが感染しちゃうんですね。そうするとせっかくできた記憶免疫細胞が壊れてしまいますので、
せっかく今まで僕らが子供のときから感染症に耐えて、RSウイルスとかにかかった記憶を持って、次かかったときは重症化しないというシステムができてるんですが、はしかにかかることによってその大事な細胞がなくなってしまう。これまで経験した感染症なはずなのに、重症化してしまうというシステムがあります。

---例えば、おたふく風邪とかも一度かかったらもうかかりませんとかよく言いますけど?

(城戸康年氏)そうです。様々な感染症に対して僕ら免疫が持ってますが、そこのデータだと最大70%、そういう記憶が失われてしまうと。はしかはかからないに越したことはない。

51歳以上は未接種の可能性大 ワクチン代は1万2000円

---ワクチン接種もありますが、予防接種が重要です。ただ昭和生まれは注意です。現在51歳以上の方は未接種の可能性が高い。ただ感染歴で免疫がある方も多い。現在23歳から51歳の方は1回のみの可能性が高いので、効果を確実に得るには2回の接種が必要なので要注意。
基本はかかりつけ医に相談してください。価格は、大阪府医師会の予防接種センターではMRワクチンは1万2000円、実費となっています。そしてワクチン接種2回が有効となっていますが、本当に2回接種すれば大丈夫なんですかというのを城戸教授は「抗体がつきにくい人もいるが…」ということです。

(城戸康年氏)有効率は95%だと言われてるので、非常に有効性高いんです。しかし検査すると中には抗体が十分じゃないよという人もいます。免疫の守る力というのは、抗体だけではなくって、いわゆる細胞性免疫といいますが、抗体で現れない免疫も、はしかの防御には非常に重要だと考えられているので、特別なことがない限りに2回接種していれば、基本的に安心だと思います。

---もしはしかの患者と接種してしまったとしても、3日以内のワクチン接種で発症予防効果もあるということです。はしかのウイルスが増える前にワクチン由来の免疫が高まると発症予防ができる。そして、妊娠予定の女性家族は注意してください。妊娠中は受けられません。接種後2ヶ月程度は避妊が必要です。

(城戸康年氏)はしかというのは、個人的には我々が医学で使っている、子供のときからも含めて最も大切な、効果の高いワクチンだと思いますので、1回の人はぜひ2回目を打つことが、かなり有効かなと思います。