大阪府が高校の授業料を完全無償化する案を打ち出しました。日本大学文理学部教授の末冨芳氏は「所得制限をなくすのは、親の稼ぎとは関係なく、子どもの教育を応援するという画期的な仕組み」と評価します。一方、年間60万円を超える費用は学校側の負担となる私学連合会は「私学の自由な運営を奪う」「教育の質低下を招く」と猛反発。末冨氏は「もっと公開の場での議論が必要」と話します。(2023年6月20日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

◎末冨芳氏(日本大学教授 教育行政学・教育財政学が専門 著書に「教育の政治経済学」など)

末冨教授「完全無償化案はどの自治体にもない画期的な、素晴らしい仕組み」

―日本大学の末富芳教授です。大阪府の授業料負担制度のシミュレーション。年間授業料60万円の全日制の高校、子供1人の世帯の場合、年収が590万円未満の世帯は、府が定める60万円という標準授業料が実質無料になっています。世帯年収が590万円から910万円までの場合は軽減され、年収910万円以上は全額負担という制度です。新制度の素案を見てみますと、現行制度では世帯負担だったところに府が新たに補助を上乗せしています。収入に関わらず授業料が無償になるという仕組みです。新制度の素案をどう評価をされていますか?

2023.6.20kaisetsu_suetomi_sinseido.jpg末富芳教授:所得制限がない高校授業料の無償化っていうのは、大変画期的な仕組みなんですよね。例えば高校卒業していないとハローワーク等での就労を相談しても、いい求人票が出てこないということで、高校教育っていうのは義務教育に準じる「準義務教育」だというふうに言われているにもかかわらず、子供が学んで社会で活躍するために一番大事なところを応援しようじゃないかというときに親御さんが稼いでいるから、応援しませんという仕組みが今までの所得制限のある仕組みだったんです。
そうじゃなくて親御さんが稼いでいようが稼いでいなくても子供をみんな応援するのだと、高校に行く子はみんな応援するんだという意味では、全国の他のどの自治体にもない大変、画期的な素晴らしい仕組みであるというふうに評価しています。

―いっぽう私学側が反対しているのはキャップ制です。これは補助金上限の60万円を超える分は学校が負担するという仕組みです。現行の制度では年収800万円までの世帯がキャップ制の対象だったんですが、新制度では世帯年収の制限はなくなります。年収に関わらず60万円を超える分は学校負担になり、学校の負担が増えてしまうということです。現行制度では、授業料60万円を超える部分の学校負担は、世帯年収800万円未満に限られる。新制度では60万円授業料超過分が学校負担になります。

―制度自体は素晴らしいんだけれど、よく見ると不公平感があったり、私学が反対していたりというところありますが、どう思われますか?

末富芳教授:私立学校の反対もごもっともだなと思っておりまして、本来、私立学校というのは特色ある教育をする。そのために自分たちで授業料を設定して、それを払うのが誰かといいますと、受益者負担になりますので、ご本人が、国の補助と保護者の方の授業料の負担を組み合わせて支払っていくというのが大原則です。

今回の問題は、府が負担できる授業料60万円としてしまったことで、今までの私立学校がそれぞれの努力で作り上げてきた特色ですとか、手厚い体制といったものを維持できなくなってしまう。中にはこの仕組みが続けば、経営が困難になっていって、地域に生徒さんたちの選択肢がなくなってしまう。この学校に行きたいなって思える高校がなくなってしまうというような懸念もあるということです。

今必要なのはやはりこの60万円の授業料キャップで大丈夫ですかということについて、大阪府や知事の側が公式の場で話し合っていき、より良い形を一緒に作っていきませんかということをしていただけると大変いいんじゃないかなというふうに研究者としては考えております。

大阪府の私学の負担は9億円から17億円に増加 「教育の質低下を招く」

―ではどれぐらいの学校が当てはまりそうなのか。授業料が60万円を超える私学は、大阪府によると大阪府内の私学97校のうち、およそ半数の42校が60万円を超えます。では新制度によって学校側の負担どう変わるのか?大阪私立中学校高等学校連合会によりますと、去年までの学校側の負担はおよそ9億円だったんですが、新制度で試算すると、およそ2倍の17億円くらいになってしまう。

その他の主張としましては「私学の自由な運営を奪う価格統制になっている」「学校の負担が莫大となり、結果として教育環境そして教育の質の低下を招く」「大阪府と連合会の協議、調整の場がなく、直接の説明がないまま、素案が作られた」と主張しています。素案という段階ですが、話し合いがなかったと。負担という意味ではどう考えてらっしゃいますか?

末富芳教授:負担という意味では、確かに私立学校の経営努力は大事なんですが、大原則は教育を受ける側の生徒さんと保護者の方で払っていくということではあります。

ただ今回の仕組みの場合には、とりあえず吉村知事は60万円まで補助しようと言っているので、まず60万円が本当に妥当な額なのかどうかということと、私立学校、特色ある教育をもっと応援する仕組みを他にないのかということも含めて、何よりも協議や調整の場で話し合って、公開の議論をして決めていくということが大事だと思います。そうすると私学側もですね、別に「ぼったくってませんよ」ということもご説明いただけるはずだろうと考えています。

―大阪府は今年8月頃までに制度案をまとめるとしています。吉村知事は1校1校の意見を聞き、理解を得られるようにしたいとコメントとしています。