カナダ南東部沖で消息絶った「タイタニック号」残骸探索ツアー用の潜水艇。酸素が尽きるとされる計算上のタイムリミットを迎えました。5人の富豪を乗せた潜水艇はなぜ消息を絶ったのか?「ものをたたく音」は何を意味するのか?海難事故に詳しい神戸大学大学院の若林伸和教授は「ものをたたく音」が本当なら「潜水艦や探査機で音源を特定できる」と話します。また潜水艇について「日本の深海艇に比べて、見た目は簡単に作られているようにみえる」「窓の強度に問題は」として構造や強度について懐疑的な見解。(2023年6月22日放送 MBSテレビ放送「よんチャンTV」より)

◎若林伸和氏(神戸大学大学院教授 海難事故の原因究明や海底探査にも詳しい 一級海技士(電子通信)資格を持ち遭難通信システムを研究)

日本の「しんかい6500」にくらべると、作りが簡単に見える

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―海難事故の調査や原因究明そして海底探査にも詳しい神戸大学大学院の若林伸和先生の解説です。今回の潜水艇タイタンは5人乗りで5人が乗船しています。運営会社の創業者、イギリスの大富豪、フランスの探検家、パキスタンの富豪とその息子さん。5人が乗ると窮屈にも見えますが、どんな印象ですか?

若林伸和教授:日本だとJAMSTECが「しんかい6500」という本格的な調査研究のための潜水艇を作っています。基本的には国家の技術の粋で作るようなもので簡単に作れるもんじゃないのですが、(タイタンの)見た目はちょっと簡単にできているかなという印象を受けました。

―およそ4000mまで潜ることができるのはかなり難易度の高いことなんですか?

若林伸和教授:4000mはかなり難易度が高いので、こういう窓のところとかはどうしても強度が弱くなってくるので、そこの基準がしっかりとできてたかどうかというのは心配になるところです。

―今後の救出にむけてタイムリミットが迫っています。まずは音波を当てて、反応が届くかというところ。こういう探査方法があるということなんでしょうか?

若林伸和教授:音をとったと言っているのは哨戒機から音をとってそれで何かあるということになったらブイを投下して、高性能なマイクロホンで音をとることができます。その次に、普通の船で船底に音波を出すようなものがついてるとか。潜水艦だと周りの方向も含めてどちらの向きから音がしてるかっていうことがかなり精密に測れるんで、もし潜水艦がオペレーションをしてたら、位置の特定はもうちょっと早いとは思います。

―もう一つはフランス政府が派遣した「ビクター6000」というものです。リモート操作で動く探査機。水深は6000mで作業が可能です。

若林伸和教授:一般的にはROVという、リモートで遠隔操作する無人の水中ロボットなんですが、これはある程度作業ができてロボットアームみたいなものがついてますから、ロープを船体にかける、ワイヤーかロープをかけるという作業もできなくはない。それから動けないでいるのはどこかに引っかかっているっていう可能性もあるから、そういうのを外すっていう作業ができるかどうかですね。簡単ではない。

立岩陽一郎氏:JAMSTECとおっしゃいましたけど、日本は海洋探査に力を入れている方ですが、宇宙なんかに比べると、予算も少ないしね。だけど現実には海底探査とか、海の中ってわかんないこと実は多いんですよね。私なんかは、宇宙もいいですよ、宇宙もいいけど、やっぱり同じぐらい、海底というものに我々も少し関心を持って。こういうことが起きないようにね最善の努力をすることが常識になるようになることが必要だと思うんですけどね。

若林伸和教授:通説として宇宙より海の方がわかっていないって言われていますからね。

―タイタンは全長が6.7mで5人乗り、水深4000mまで潜水可能。タイタニック号の探索ツアーでした。7泊8日で1人およそ3500万円という費用だったということです。現地まで行って、潜って上がって帰ってくるという全ての日程で7泊8日。潜っている時間はおよそ8時間ぐらいと伝わっています。構造はカーボンとチタン。おもりで沈んでいくように潜水する。外からボルトで締めるために中からは開けられない。開閉は外側からでないと駄目。緊急用に最大96時間分の酸素が確保されている。酸素が一つのポイントです。日本時間の午後6時がリミットということで、酸素の供給はどうなっているんでしょう?

酸素残量96時間はあくまで理論値、パニックを起こして心拍数あがると、酸素消費量は増える

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若林伸和教授:おそらく緊急用はボンベとかに詰めているんではなくて、航空機の酸素マスク、上から降りてくるような、薬剤で化学反応を起こして酸素ガスを発生させるっていうふうになっていると思いますが、96時間っていうのはあくまで理論値というか計算値であって、船内の人たちがどれだけ酸素を消費するかにもよるので、なるべく動かないで消費量を減らすような努力をしていればもう少しいけるかもしれない。パニックを起こして、心拍数なんかが上がってきている人が多かったら呼吸も増えて、もうちょっと短いかもしれない。大体の目安ですね。トイレは一応ついているらしいですね。電源喪失してたら、中で照明つけることはできなくて、例えば何日持つかですけど、スマホの明るさでと。今の時代だとそういう光しかない。電源喪失したら多分コントロールができなくなっている可能性があって、動けない。制御もできないという可能性も考えられますね。

―電源喪失ということは考えられますかね。

若林伸和教授:潜水艇というのは基準があんまりない。普通の船だったら基準があって、例えば電源一つが駄目になってもバックアップがありますよとしないといけないが、これはなってない可能性も多分高くて、1個駄目になったらそれで終わりってことかもしれないんで。基準がないんです。船だと細かい基準があって、それに従って検査をして通らないと航行できないんですけど。これはそういう意味ではちょっと基準がないはずで、ちゃんとした検査もしてない可能性もあるので、そのあたりが問題だと思います。金額に関してはいろいろコストから計算してるんでしょうけれど、安全性に関してはいろいろ報道されている情報から考えると、そんなにしっかりしてないかなというイメージはありますね。

―遊覧船でも何でもお客さんを乗せるという乗り物というのは、いざというときの対応は必ず考えられていると私達思っていたんですけども、そうでもない?

若林伸和教授:深海4000m近くのところから救助する方法がそもそもない。普通の船だと海の上に落ちたら何とか助かる道は残されますけど、これはそういうことはちょっと無理なので。

―深海の世界とは。水深約200mでは太陽光が海面の0.1%しか届かないというような深さ。水深1000mあたりでは、生き物が太陽光をキャッチできない暗黒の世界。もう真っ暗?

若林伸和教授:0.1%でもうほとんど真っ暗です。本当の暗黒の世界ですね。

―そして高圧だということですよね。水深が10m深くなるごとに1気圧ずつ水圧が高くなります。水深3800m、タイタニック号が沈んでるのがこのあたりと言われています。3800mは約380気圧、1平方cmに380kgの力がかかると。中指の上に380キロ乗せるぐらいの。ちょっと想像がつかない。

若林伸和教授:普通1気圧ですけど、それの380倍の力がかかってくるので、普通は人間はちょっと耐えられないですね。生物がいてもかなり特殊な感じの生物しかいないんですよね。

――潜水艇に残された酸素。あくまでも目安ですが、午後6時までと。今後はどういった捜索が期待されますか?

若林伸和教授:ちょっといろいろ報道が変わってきてるんですけど、音っていうのが本当にこの潜水艇の中からの音であれば、やはりそれは希望ではあるので、その音を基に、場所を特定するっていうことが絶対必要。場所が特定できたらROVなんかを下して状況を見て、可能な限り引き上げるための作業をするということが時間との戦いで、もうすぐにでもやる必要がありますね。