ロシアの民間軍事会社「ワグネル」代表が反旗を翻した“プリゴジン氏の乱”。いったんはモスクワへの進軍をやめて撤退、所在不明となっていますが、大和大学の佐々木正明教授は「プリゴジン氏の乱は今も続いていると思う」とします。プリゴジン氏の言葉の真偽や意図が不明なことから、第二幕・第三幕があることを示唆します。一方、これまでプーチン氏の恐怖支配の歴史では、裏切りには「暗殺や投獄もしくは政治亡命」で対応してきたことから、不問に付すとしていたプリゴジン氏についても最終的に“厳罰”が科される可能性があるとの見解。(2023年6月26日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

◎佐々木正明氏(大和大学教授、元産経新聞モスクワ支局長、ロシアのクリミア併合を現地で取材)

「所在不明のプリゴジンには、まだ第二幕、第三幕があると思う」

――「ロシアの仲間だったんじゃないのという人が、なぜかロシアを攻めはじめ、すぐにやめちゃった」という動き。民間の軍事会社ワグネルの創設者プリゴジン氏がロシアに反旗を翻したという動きは大きかったと思うんですが、1日で収束ってあっけなかったな、という感想をお持ちの方も多いと思うんですが。

佐々木正明教授:その通りですね。私も始まったとき、驚いたんですけれども、最後の結末までよくわからない。そして「プリゴジンの乱は、まだ続いている」と私は考えております。なぜなら、現在所在不明で、連絡が全く取れないという状況になっています。

――プリゴジンの乱が続いているということはまだ二手・三手がある可能性があるということですか。

その通りですね、まずプリゴジン氏の言葉というのは元々信用できない。謀略の限りを尽くしてきた人物でもありますし、例えばベラルーシに行くという言葉も24日の夜に突然、ペスコフ大統領報道官が言っただけなんです。ロシア側は。本人も何を対応するかまだ出ていませんし、24時間以上経ってますので、第2幕、第3幕があるやに思います。

――最初はロシアとともにウクライナを攻撃する側だったわけなんですが、なんでロシアにいきなり攻めたのか、そもそもプリゴジン氏は何をしたかったのか。この動きどう見ましたか。

佐々木正明教授:はい、直前の状況を詳しく説明いたしますと、まず5月の段階で、東部戦線からワグネルの部隊は引いております。今、少し休息をしている状況だった。ウクライナの反転攻勢がある中で、ロシア軍として戦っているわけではなかったというのがまず一点。そしてその間にロシアの国防省が、ワグネルの部隊を国防省の傘下に入れようとした。そして傘下に入れようとしたところを、プリゴジン氏が否定、拒否していたというのが現状です。その交渉が決裂したことが、この現状になったんではないかというふうに思います。

――プリゴジン氏が怒り出した一つの原因とされるのが、ロシアのショイグ国防相です。自分たちの存在がロシアの管理下になってしまうんじゃないかということに怒ったとされます。ただそんなことしたら、ワグネルの兵士も、プリゴジン氏も命が危ないんじゃないのかと、思ってしまうんですが。

佐々木正明教授:これはおそらくプリゴジン氏の意思が強く働いてると思います。プリゴジン氏は、自分自身の存在感を高めるために、ワグネルを使っている。ワグネルという軍事会社を通して、ロシアの大事な将来を握る戦争に参加している。そして、プリゴジン氏が発言することによって国内でもステージがどんどん上っていきましたよね。クレムリンの内部抗争も勝ち抜くような状況になっていた。パワーバランスが変わっていったところで、ショイグ国防相がプリゴジン氏の勢力伸長をストップしようとした、っていうようなことも言えると思います。

中野雅至教授:内部の権力闘争なんでしょうが、これが瓦解の始まりか、路線が純化していくのか、どうなるのでしょう。

「ワグネル!」「ワグネル!」…群衆から大きな喝采 国民に不安と不満の高まりか

佐々木正明教授:私、ロシア社会の情勢をつぶさに見てきているんです、小さなシグナルを見てきましたが、いまいちプーチンの支持率はよくわかっていない。今回、プーチン大統領は抑えたということもできるんです。それほど、プリゴジン氏の方につかなかったとなりますと、プリゴジン氏が反乱を起こそうにしてもプーチンは抑えることができた。一方で今回、プリゴジン氏が、ロストフを去るときに、群衆が集まってきて、「ワグネル!ワグネル!」と、大きな喝采を送って、これをどのように見るか、今ロシア国民の中で不安と不満が高まっている。ワグネルはそれを打破するような存在ではないか。やはりプーチン大統領もおそらく、苛立ちと戸惑いが、心の中にあるんではないかなというふうに思う。

――プリゴジン氏は、進軍をやめたわけですね、そこにどんな関わりがあったのかというと、ロシアの同盟国ベラルーシです。あくまでベラルーシ大統領府の発表ですが、ルカシェンコ大統領がプーチン氏との電話会談を受けて、プリゴジン氏と協議し、進軍をやめ緊張緩和の措置を講じることで合意したということなんです。なんでいきなりベラルーシが出てきたんですか。

佐々木正明教授:今回の「プリゴジンの乱」については謎が多いです。その謎中の謎、最も大きいのはこのベラルーシですね。なぜベラルーシが出てきたのかはよくわからないですよ。そして、落としどころがなかったんだろうなというふうにも思います。つまり、ルカシェンコが助け舟を出してプーチン大統領を助けたということも言えるかもしれません。
そしてもう一つ私が懸念しているのは、ウクライナ軍は南部で戦ってるんですね。軍のリソースを集中させています。ところがワグネルが北方からも、ウクライナを攻めるかもしれない。昨年の2~3月の状況になるかもしれない。となりますとゼレンスキー大統領にとっては、非常に懸念する状況です。ワグネルというのは、何をするかわかりませんので、もし本当にベラルーシに行ったとするならゼレンスキー大統領にとっても反転攻勢の作戦自体を、変わらざるを得ないような状況になるかもしれません。

――プーチン大統領とロシア側の反応なんですが、一時は裏切りだと激しく非難しましたが、プリゴジン氏に対する刑事事件は取り下げ、ワグネル戦闘員も罰は受けないと、ロシア政府としての方針が示されているんです。これはプーチン政権の弱体化とか信頼低下とかに繋がりそうですか。

佐々木正明教授:プーチン大統領としても、ワグネルを、もしくはプリゴジン氏を厳しく罰しますと、自分自身にとがが来るかもしれない。ということを考えると非常にセンシティブな取り扱いをせざるを得なかったということだと思います。ですから、ベラルーシが入ったかどうかわかりませんけれども、今のところ収めたっていう状況になっている。プーチン大統領は今後、この戦争をどう継続するか、もしくは国内の統制をどうするかも、プリゴジンの乱がどうなるかが大きく握っているということだと思う。

これまでプーチン大統領は23年間クレムリンの主ではあったんですけども、政敵を次々に追い出している。待っているのは暗殺、もしくは投獄、そして政治亡命。どの人物も不幸な人生を歩んでいる。プリゴジン氏を一度裏切り者・反逆者ということになりますと、今後、プリゴジン氏もほとぼりが冷めたあたりに、自分の命というのが危うくなるかもしれませんし、ベラルーシに行っても果たして安泰なのか、そういうことも気をつけなきゃいけないってことだと思う。