9月7日に行われたジャニーズ事務所の会見。初めて性加害を認めて被害者に謝罪しました。そして藤島ジュリー景子社長が辞任し、新たに東山紀之氏が社長に就任したことが発表されました。この会見について、ジャニー喜多川氏の性加害について取材してきた元週刊文春のジャーナリスト・中村竜太郎氏は、個人的に感慨があるとして、過去の取材時を振り返り「裁判までいったが世間に知らしめることができなかった。広まっていれば性加害をストップできたという自責の念もある」と語りました。今後の立て直しについて経営コンサルタントの小宮一慶氏は「大きく変わったことを示すことができなければタレント流出・スポンサー離れが起こる可能性がある」と指摘。そして元NHK記者のジャーナリストの立岩陽一郎氏はジャニーズという名称継続について「海外だともっと厳しい目を向けられるので無理だ」として、補償についての話が進んだ後に新しい動きになるのではないかと分析します。(2023年9月7日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

中村竜太郎:元週刊文春のエース記者 「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」大賞を3度受賞
小宮一慶:経営コンサルタント 京大法学部卒業 数々の企業の社外役員や顧問を務める
立岩陽一郎:ジャーナリスト 大阪芸大短大部教授 元NHK記者 調査報道に力を入れ数々のスクープを放つ

中村竜太郎氏: 今回の会見の最大のポイントというのは、ジャニーズのジュリー前社長と新社長、皆さんが性加害の事実があったことを認めて謝罪したこと、それに尽きると思います。私は1999年、週刊文春の記者時代にジャニー喜多川氏の性加害を、キャンペーン取材しており、その間ずっとメリー氏、ジャニー氏の2人体制でジャニーズ事務所が運営していく中で、私たちはぶれずに「性加害があった」というふうに伝えていたんですけれども、ジャニーズ事務所は「やはり性加害は無かったと、ずっと主張し続けてきた」っていう過去があるわけなんです。そういう意味では今回ジャニーズ事務所が『会社としてそれを認めた』というのは、非常に大きな意味があったと思っています。

――23年前、中村さんは週刊文春の記者でジャニーズ問題をずっと指摘してきた、でもそれが世の中に伝わらなかった。それが今日、ジャニーズ事務所が認めた、この会見を聞いて、個人的にはどんな思いですか。

中村竜太郎氏: はい、個人的な部分で言うと、99年にキャンペーンをしまして、最終的に裁判まで行きまして、ジャニー喜多川氏の性加害が一部裁判所でも認められていた、にもかかわらずこれを世間に知らしめることができなかったこと、についてはすごく残念に思っていまして、それが世間に多く広まっていれば、ジャニー喜多川氏の性加害をストップできたのではないかという、そういう自責の念も私はあります。

――その点に関して、我々マスメディアもどうして報じてこなかったのかというところを大いに反省しなければなりません。そしてこの会見について、小宮さんは経営コンサルタントという目線でここまでの印象はいかがでしょう。

国際的に問題になっている「ジャニーズという器」

小宮一慶氏: 今日の会見はギリギリのタイミングで行われたと思うんです。調査委員会から報告書が出て、それに応えないといけないということもあるし、タレントさんも動揺してるだろうし、スポンサーもジャニーズのタレントさんたちは知名度が高く好感度も高いので使いたい。でも国際的に非常に問題になっているジャニーズという器の中で、どう対応していけばいいかっていう難しい問題を抱えてて、それに対して答えようとしてたということだけど、結論的に言えば、真摯に対応しようとはしてるけど、ある意味嵐が過ぎるのをちょっと待ってるような感じかという印象を私は受けました。

――ジャーナリストの立岩さんは、印象どのように受けましたか。

立岩陽一郎氏: この問題はメディア全体の問題だと思ってるし、私もその中村さんたちがキャンペーンしたときにNHKの記者だったわけですけど、ほとんど、その問題を取材するという意識もなかったです。それだけメディア全体にそういう雰囲気があったという私も反省もあります。いろんな批判はあるけれども、私は東山さんが社長になるっていうのは、それぐらいしか、再生の道はないかな、っていう意識はあったんで、そういう意味では新しい方向に行ってくれるのかなという期待はあります。

新社長はなぜ東山紀之さんか ジュリー氏留任の見方は

――会見の中で、東山さんは「暴露本、有罪判決もあり、噂は認識していた。ただ、あくまで噂だと信じていた。喜多川氏、藤島氏を父・母のような思いで感じていたので、あって欲しくないと感じていた」と話しました。そして井ノ原快彦さんは、「入社したとき噂はあった、おかしいんじゃないかと言えなかったことは後悔しているが、言い訳になるかもしれないが、何だか得体の知れない、触れてはいけないもの」という空気はあったと話しています。

中村竜太郎氏: 会見を拝見しまして井ノ原さんの言葉は、とても素直に伝わってきた印象、自分の言葉でお話をされて、嘘偽りはないんじゃないかなっていう気がしました。と同時にジュニアを育成する立場として、子どもたちに対してケアをしていかなければいけないという、そういう意思も感じられました。

――新たに社長就任する東山紀之さん。中村さんによりますと、「幼少期は貧しくて苦労された、そして渋谷の交差点でジャニー氏本人にスカウトされた、事務所内では年が近い人たちと親交が深いが、後輩の面倒見も非常に良い」と、そして、「社長就任の決め手として、タレントをまとめられる存在だ」と。

中村竜太郎氏: そうですね。東山さんは仕事に対してストイックな方で、ご苦労もされています、人の気持ちがわかる、そしてジャニーズのタレントの中で最年長という意味でも象徴的な存在だと言えると思うんですね。やはり残っているジャニーズ事務所のタレントにとっては、今一番の難局においてやはり不安を抱えてしまう。その中で気持ちをわかって、ひとまとめにできるのは、やはり東山さんしかいないのでは、ということで、元々はプロ経営者を連れて来た方がいいんじゃないかとか、そんな意見もあったんですが、最終的には東山さんが新社長に就任するという形になりました。

――藤島ジュリー景子前社長の辞任と今後について。社長は辞任したが、被害者への補償を責任を持って全うするため、当面の間代表取締役としてとどまると。記者からは「ジュリー氏が100%所有しているジャニーズ事務所の株はどうなるんですか」との指摘もありました。ジュリー氏はこれに関して、「今の時点では私が100%持っていることが補償について進めやすいと考えている。新経営体制の皆さんと協議をしていきたい」と話しています。

中村竜太郎氏: 様々な立ち位置、様々な見方っていうのがあると思うんですよね。今回留任するということで、ジャニーズ事務所は変わらないんじゃないか、という意見も当然あると思います。しかしながら、被害者に対して向き合って、謝罪と救済をする、それを具体的に進めていく役割を果たす意味では、ジュリー氏の留任はそれでありなのかなと思います。一番傷ついていらっしゃるのは、当時小学生、中学生であった当事者、数百人規模と言われる被害者の方、まだ名乗りを上げてない方です。もう一度向き合って、一体どんなことがあったのかということを、把握しながら、彼らに対して、補償を速やかにやってほしいなというふうに思います。今回経営陣を刷新したということで、これまでの課題に向き合っていく、皆さんに注視されながら、ガラス張りの形でちゃんと進めていくのが最善じゃないかなと私は思っています。

小宮氏「変わらなければタレント流出、スポンサー離れの可能性」

小宮一慶氏: 性加害自体も非常に良くないことなんですけど、それが隠蔽されて続いていたっていうのが、私はすごく大きな問題だと思うんです。その体質を変えられるか、会見では見張ってくれる存在、チーフコンプライアンスオフィサーという言葉が出ていたんだけど、それで本当に変わるのかなっていうのは、ちょっと疑問があるんです。親族の方も取締役で残るし、近い人が社長やるわけです。社名の問題もタレントさんたちは愛着あると思うんだけど、やっぱり根本から変えるんだ、変わったんだ、っていうことを見せないと、スポンサーなども躊躇する部分があるんじゃないかなって私は感じています。

――小宮さんは、「大きく変わったことを示すことが大切。できなければタレントの流出、スポンサー離れが起こるかもしれない」と。

小宮一慶氏: そうです。会見でおっしゃってることはその通りですけれど、本当に実行していけるのか、根本から会社を変えられるのかっていうところが一番のポイントだと思います。

立岩氏「海外ではもっと厳しい目にさらされる」

――立岩さんは、社会的にも大きな影響力を持つジャニーズ事務所、今後どうなっていくべきだとお考えですか。

立岩陽一郎氏:例えばフォーリーブス。皆さんは知らないかもしれないけれど、僕の世代のスターですよね。あの頃からそういうのがあったっていうのは本当改めて考えるとショックです。ただ芸能界ってある意味、非常に厳しい世界で、市場の原理で淘汰されますよね、ファンの方が去っていけば、もう立ちゆかないわけですから、これはもうかなり真剣に命削った取り組みになるでしょう。社名、事務所名は、私も変えるべきだと思うけども、今後東山新社長がどう考えるかでしょうけど、補償がある程度の段階に来たときに、新しい動きになるのではないでしょうか。これはもう海外でもっと厳しい目にさらされますから、海外に展開しようなんて思ったら、多分このジャニーズっていう名前では、無理でしょう。そういうことを考えたら、多分新しい、展開をもう1回やるっていうことはありうるでしょう。何度も言いますけど、ジャニーズだけじゃないんです、我々みんなが問われてるってことでしょう。

――ジャニーズ事務所、芸能界全体、マスメディア、社会全体がどうやって見ていくのかっていうことは本当に大切だと思います。今やジャニーズ事務所のタレントさんは日本だけじゃなくて海外でも活躍されるわけですから、そういった意味ではより厳しい目線で見られるのかもしれません。(2023年9月7日 MBSテレビ「よんチャンTV」より)