人体への影響が懸念されている有機フッ素化合物。先月、兵庫県明石市の男女9人(13歳から76歳)の血液検査を行ったところ、3人は、健康被害のリスクが高まるとされるアメリカの基準値を超えたという。また、京都府綾部市の天野川からも先月、人体への影響が指摘されている2種類の物質(PFOS、PFOA)が国の基準値の最大50倍検出されたという。環境汚染物質と人の健康への影響が専門の京都大学の原田浩二准教授が解説する。(2023年9月19日 MBS「よんチャンTV」より)

――PFAS(有機フッ素化合物)は、自然界に存在したものではなくて、1940年代以降にアメリカで開発されたもので、全部で4700種類以上があるということです。ずいぶん種類が多いですね。

原田浩二・京大准教授「これは1つの物質ではなくて、そういうグループをまとめた呼び方です」

―――体に良くないものもあれば、影響がないものもあるということですか?

原田浩二・京大准教授「その中でも、いま特にいくつかが健康に影響があるのではないかということで取り組みが進められているところです」

―――PFASというものは、水や油を弾く性質があり、実は生活に身近なものに使われています。例えば、防水スプレー、フライパン、ハンバーガーなどの包装紙、あとファンデーションやリップなど割と身近な化粧品にも使われているということです。ちょっと心配に思うかもしれませんが、現在使用している用品に、人体に影響を及ぼす物質(PFOS・PFOA)は含まれていないと、そう考えていいんですか。

人体への影響は「体内に入ると出るまで、5年10年…」

原田浩二・京大准教授「4700種類以上ある内で、これまでに使用量が多かった、そしてその中で健康への影響もおそれがあるというものについては現在禁止はされているわけです」

―――フッ素加工されているフライパンで料理して、なんども使っていたらちょっとハゲてくることもありますが、大丈夫でしょうか?

原田浩二・京大准教授「このフッ素樹脂、コーティングのお話ですが、それを製造する途中で使うというのが、このPFASのうちの1つなんですね。なので、最終的な製品にはほとんど含まれてないとされていますので、その点では心配しすぎない方が良いと思います。化粧品については製品そのものにも少し含まれていますが、いま規制がかかっているものについては含まれていないということなので、それについても今後研究はされると思います」

―――PFASは、分解されにくく体内や水・土の中で長い期間残ってしまう。一部は人体への影響、汚染問題にも繋がるということです。体に1回入ってしまうとなかなか抜けないのですか?

原田浩二・京大准教授「摂取を完全に止めたとしてもですね、それが5年10年、出ていくまでに時間がかかってしまうということですね」

川から基準の50倍以上検出、周辺農家に不安の声

―――懸念される健康への影響は、腎臓がんのリスク増加の可能性、幼児・胎児の成長低下、そして免疫力の低下、脂質異常症など様々な症状が指摘されているわけですね?

原田浩二・京大准教授「はい、こういったことが動物実験や人の健康調査からわかってきています。これはですね、摂取したからといって必ず皆さんがなるわけではないので、その点では集団全体のことで対策していく必要があるということですね」

―――京都府綾部市では、市内を流れる天野川の水から基準値の50倍以上のPFASの一種が検出されました。川の近くの井戸から引いた水を農業用水として使っている農家からは不安の声も聞かれます。先生はどう思われますか?

原田浩二・京大准教授「普段使っている農業用水や農地の土壌そのものにいまどういったPFASが含まれているのか、まずこのことを調べないと、その影響があるかどうかもわからないと思いますし、農家さんの不安もわかります。今回どういったところから発生しているのか。そして京都府は地下水の調査をこれからすると言っていますので、これがどこまで広がっているかによって、一時的なのか、もしくは継続的なのか、ということで非常に対応は変わるかと思います」

―――この川の水が希釈されて下流の方へ流れていくと思うが、このあたりはどう考えたらいいですか?

原田浩二・京大准教授「これまでにですね、京都府が調査した結果、毎年多くなっているようなものとかを見てもですね、この天野川そして犀川その下流の由良川等においては、いま暫定指針値を超えるような状態ではないということですね」

水道水は?浄水器に効果はあるのか

―――そしてもう1つ身近なところで言いますと、水道水。この水道水についてはどう考えたらいいですか?

原田浩二・京大准教授「水道水もですね、自治体ごとに水源が違うということもあります。おそらく少ない量のPFASが含まれていることはあります。ただそういった情報をですね、自治体でもこういった検査をしているところが多くなってきていますので、ホームページもしくは窓口に問い合わせて、実際、皆さんが飲んでいるものが十分目標値等から低い状態であれば、それは飲んでも問題ないかとは思います」

―――最近は一般的になりましたが、浄水器を家に取り付けていらっしゃる方もいると思います。こういったものは効果的なのでしょうか?

原田浩二・京大准教授「浄水器もいくつか種類があると思うのですけど、活性炭を使ったものが一番ポピュラーだとは思います。そういったものを使えば、含まれているPFASを8割9割除去することはできるとされています」

―――市販の商品でもそれだけ効果があるのですか?

原田浩二・京大准教授「注意してもらいたいのは、しっかり交換時期を守って。カートリッジとか交換式のものがあると思います。それをしっかり交換すれば、そういった性能が維持できるということですね」

―――関西ではこれまでに堺市、摂津市、大阪市、神戸市などで基準値を上回るPFASを検出しています。ですから、今回のケースだけじゃなくて、実は各地で検出されているんですよね。

「日本は対策遅れ、積極的な攻めの調査を」

原田浩二・京大准教授「全国で調査をしていると、時々、50ng(ナノグラム)というすごく少ない量なのですが、これを超える地点というのは出てきていますね」

―――それは気をつけなければいけませんよというぐらいの量ですか?

原田浩二・京大准教授「まず、その調査時点で50を超えた、そうすると、超えるためにはPFASはどこからかこないといけないわけですよね。やはりその大元がどこにあるのか。そういったことが、ほかのものにも影響を及ぼしてないかと。今回のような事例もそうだと思うのですが、早くですね、自治体としても取り組む必要があると思います」

―――先生は「日本は欧米に比べてPFASの対策が遅れている。体内への蓄積や周辺の環境など、日本各地で徹底的な調査が必要」との考えで、ここが問題だというふうに思われているわけですか。

原田浩二・京大准教授「今までのですね、特定の場所だけの調査っていうのではなくて、やはり汚染が生じている可能性が高いところというのを早く特定するという、そういう積極的な攻めの調査、こういったことが必要だと思っております」

―――対策が遅れている理由は何ですか?

原田浩二・京大准教授「日本において、PFASの問題、なかなか聞くのは今までなかったと思います。やはり話題となったのがつい最近で、その分取り組みの優先順位もそこまで高くなかったということがありますので、今後取り組みが進むことを期待はしております」