混乱深まるイスラエル、パレスチナ情勢の中で起きたガザ北部の病院への爆撃。471人が死亡したとされますが、イスラエル側もハマス側も双方が関与を否定。しかしアメリカのバイデン大統領はイスラエル寄りの発言で、イスラエルとの連帯を示しています。このアメリカの現在の立場について、アメリカ政治に詳しく中東・テヘランで特派員として取材経験もあるジャーナリスト立岩陽一郎氏が解説。立岩氏は、イスラエルのユダヤ人とアメリカにいる資本家のユダヤ人は緊密な関係とした上で、「ユダヤ人はアメリカ社会で極めて大きな存在。イスラエルを支持するのは仕方ない」と話します。さらに『イラン』をキーワードに「事態の沈静化に向けて日本にしかできない役割がある」と、理由について詳しく解説します。(2023年10月19日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

◎立岩陽一郎:ジャーナリスト 大阪芸大短大部教授 アメリカン大学フェロー アメリカ大統領の発言からアメリカの政策を分析

――イスラエルを訪問したアメリカのバイデン大統領が「イスラエルを決して1人にさせない」とアメリカの立場を表明しました。ガザの病院の爆撃については「イスラエル軍によるものではなさそうだ」とちょっと踏み込んだ発言もありましたが。

(立岩陽一郎氏)爆撃については当然どちらも「自分たちではない」と言っていますが、イスラエル側に寄った発言をアメリカのバイデン大統領がするのは、たぶんシナリオ通りでしょう。大事なのは、両方とも全然根拠を示してないですよね。バイデンさんもアメリカのインテリジェンス(情報機関)の総合的な判断だ、と言うんですけど、そう言ったからといって反対側の人たちが信用するものではないでしょう。

イスラエル寄りの「歴史的な背景」

――国連安保理の一時停戦を求める決議案は、常任理事国アメリカが拒否権を行使して否決されました。イスラエル寄りの姿勢を貫いている理由について二つ挙げてもらいました。一つ目が「歴史的な背景」、二つ目が「政治的な理由」です。

(立岩陽一郎氏)歴史的背景について、アメリカが『世界の超大国』になったのは、第二次世界大戦後です。それまでほとんど中東に関心もなければ、会議をすることもなかったわけです。我々はよく、“欧米”っていうんですけど、国際政治を語るとき欧米って言い方が非常にまずいのは、アメリカとヨーロッパでは明らかに違うんです。アメリカに関して言えば、中東にいわゆるユダヤ人国家が建設された後しか、実は関与してないんです。ヨーロッパは昔から中東に関わって、戦争や和平、そういう中でヨーロッパの中東理解は比較的冷静で、どちらかに立つこともないんですけど、「アメリカにとって中東というのは≒イスラエルだった」、圧倒的に最初からユダヤ人国家を支持するところから中東を見始めた。これはもう歴史的な事実です。

――イスラエルが攻撃を受けたときも、いち早くバイデン大統領はイスラエル寄りの発言をしました。

(立岩陽一郎氏)第二次世界大戦がアメリカを超大国にしたきっかけです。そこで彼らが何を得たか。誰もが言うのはユダヤ人を救出したことです。ナチスによるホロコーストからユダヤ人を救ったというのは、アメリカの「第2の建国」と言われる超大国としてのアイデンティティなわけです。だから、ユダヤ人が迫害されるような状況は、アメリカにとって回避しなきゃいけないってのはDNA的に埋め込まれちゃってるとも言えます。我々から見れば、パレスチナはどうなんだっていう風に思いますが、今はアメリカも冷静になっていますけれど、歴史的には元々ほとんど意識がない。

イスラエル寄りの「政治的な理由」

――歴史的な背景についての立岩さんの見解でしたが、二つ目の「政治的な理由」はいかがでしょうか。

(立岩陽一郎氏)よく言われる話ですが、アメリカで、金融・エンターテイメント中心に、ユダヤ人の資本というのが非常に大きな力を持ってきて、それは結果的にアメリカの政治に極めて大きな影響を与える存在になってることは間違いない。

――アメリカにいるユダヤ人の人たちは影響力もあって無視できないっていうことなんですか。

(立岩陽一郎氏)ニューヨークは有名ですね、金融街のニューヨークに行けば、ユダヤ教の人がたくさんいますけど、私が住んでいたワシントンにもユダヤ人のコミュニティがあり学校も、ユダヤ人のレストランもあり、コミュニティがあるんです。しかも基本的には高い教養と知識を持った人たちの集団である、これがアメリカの社会において極めて大きな存在であることは間違いないです。

――「テレビ選挙」というのも一つポイントと言いますが、これはどういうことでしょう。

(立岩陽一郎氏)選挙はいろんなところで遊説するわけですが、アメリカほど大きなところで、いろんなところをまわるのは、ほとんど無理でアメリカの選挙は圧倒的にテレビ選挙です。テレビ選挙は何かっていうとテレビの時間を買わなきゃいけないです。圧倒的に多くのお金がかかるわけで、そこにユダヤ資本というのは極めて大きな力を持つわけですよ。

――来年大統領選挙がありますから、バイデン大統領も無視できないと。

(立岩陽一郎氏)イスラエルにいる人と、アメリカにいるユダヤ資本家は緊密な関係ですから、「イスラエルを支持しない」なんてことを言ったら、もうそこで一気に反旗を翻されちゃうわけです。これはやはりアメリカの政治家としてはあり得ない。

――立岩さんは、ユダヤ人が求める見返りは「民族の存続」というキーワードを挙げていますね。

(立岩陽一郎氏)国家を失った民族っていうのはいるわけで、ユダヤの人々にとっては、やっぱりイスラエルを建国したことと、各地域でユダヤ人が迫害の危険にさらされたことに対するものすごい懸念と恐怖っていうのがあるわけですから、大統領選挙にお金を出すと言っても、一般的な「こういうことをやってほしいからお金を出す」っていう感じではないんです。ユダヤ人たちをの人権だったり、命を守る、そういうことを求めているわけです。だからあんまり個別の要望を出しているとことを私は聞いたことがない。

アメリカが接触しない『イラン』重要な役割は日本?

――いっぽう反イスラエルの人たちで抗議活動が拡大しています。ヨルダンなどでは「ガザ、パレスチナの皆さんがあまりにかわいそうじゃないか」とそういう声が一気に上がってます。

(立岩陽一郎氏)アメリカ・ブリンケン国務長官はいろんなところに行ってるんですけど、行ってない国が一つあるんです、イランです。これが問題を根深くしている元凶なんです。アメリカはイランのイスラム革命のときにアメリカの大使館をイラン人が占拠したと、それがトラウマになってとにかくイランとは一切接触しないわけです。だけど、イランと話をしない限りは、どういう方向にもいかないのは明らかです。

――イランと対話できる国はどこなのでしょう。

(立岩陽一郎氏)明らかに、日本です。私もイランに駐在していましたけれど、日本の外交というのはアメリカに何を言われても、イランとずっといい関係を結んでいた。この情勢で実は日本しかない。アメリカとは同盟国ですし、この地域一帯と話ができると言ったら日本しかなく、なおかつイランに対して日本は今までも協力関係を結んできて、アメリカに何を言われても、イランとの関係は切ってないんですよ。今こそ本当は日本が、表立って偉そうに何か言う必要はないが、水面下でイランと話をして、少なくともこの状況が鎮静化するような動きをする役割を担うことができると思います。

例えば30年前に実は和平合意ができたんです。イスラエルとパレスチナの間で共存しようという合意を。これをやったのはノルウェーなんですよ。これはね、誰もわからなかった。それと同じことだと思うんです。表向き総理大臣が「ここに行きます」っていうのは、ほとんど何の意味もなく、日本の外務省は優秀ですから、彼らが表に出ないで、イラン、パレスチナ、イスラエルと、それぞれ密にや取りできるわけです。そこを実現すれば、すぐにではないかもしれないけど、何ヶ月後ぐらいかに芽が花を開いて、もう1回中東で話し合いができるような雰囲気を日本が作れると思うんですよ。

――今後日本がどんな役割を担っていくのか、注目していきたいと思います。