10月23日、岸田文雄総理は衆議院本会議で所信表明演説を行い、「成長による税収の増収分の一部を還元し、物価高による国民のご負担を緩和する」と述べました。岸田総理は、国民に還元する方法として「所得税の減税」を検討するよう与党に指示しています。元衆議院議員の豊田真由子氏は岸田総理が減税に“こだわる”理由について「内閣支持率が上がらないことに対して焦りがあるのでは」と指摘。また、生活が厳しい方への支援は必要だとした一方で、「ごまかしみたいなことをせずに、ちゃんと日本経済の底力を大きくする」ことが必要だという見解を述べました。
(2023年10月23日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

◎豊田真由子:元衆議院議員 東京大学法学部卒 厚労省在職中にハーバード大学に留学 自民党議員時代は安倍晋三元総理と同じ派閥(清和会)に所属

――過去にも経済対策として所得税減税が2度行われています。1998年の橋本内閣では『一定の金額を差し引く定額減税』で一律3万8000円の控除のほか、扶養家族がいる場合は1人当たり1万9000円の控除が行われました。1999年の小淵内閣では『一定の割合で差し引かれる定率減税』が行われました。税額の20%(上限25万円)を控除するものでした。こちらは「恒久的に」としていたんですが2007年に廃止されています。

――減税にこだわる岸田総理に自民党内ではこんな声もあります。「岸田総理が、SNS中心に『増税メガネ』と揶揄されていることにショックを受けているのだろう」と閣僚関係者から話したり、遠藤前総務会長は、「物価高騰に対する支援であれば、減税よりも給付が公平ではないか」と述べています。岸田総理が減税にこだわるのはどうしてなんでしょう。

(豊田真由子氏(元厚労官僚))いい政策をやってきているはずなのに、内閣支持率が上がらないことに対しての焦りはお持ちです。外交ですとか、統一教会の解散命令請求とか、国民に受けると思ったらやって、まずいと思ったら引っ込める、割と柔軟というか悪く言えば行き当たりばったりでやってきているのに、受けると思ったのに支持率が上がらない、どうしてかって考えたときに、やっぱり減税って言って嫌がる人はいないだろうということ。もちろん給付金でもいいんですけれども、理由として税収の上振れ分を税で還元するっていうのが理屈が通りやすいだろうっていうお考えだと思います。

減税には法改正が必要 実施ならいつごろに?

――岸田総理が検討を指示した所得減税には課題もあります。①法改正が必要なので、実施に時間がかかること。②非課税世帯への支援にはならない(非課税世帯の割合は約24%)。これについて自民党の萩生田政調会長は、減税と現金給付を組み合わせて行うことになる、との認識を示しています。

(豊田真由子氏)日本は法治国家で、特に税は税法改正しないと、定率でも定額でもいじれないということと、税をいじるためには与党の税調でちゃんと議論をしてもらい結論を得て、年末越えてから通常国会で法改正ということに手続きとしてならざるを得ないので時間がかかる。また非課税世帯の話は、所得税を減税するんであれば所得税を支払っていないところに恩恵が行かないことなので、そこに給付という形できちんと公正に行くことをやるんだと思います。

国民生活が楽に「ならないよ」の声

――豊田さんは「生活が厳しい方への支援は必要だが、日本経済は成長しているのか?まず経済そのものの強化が必要なんじゃないか」とポイントを挙げています。

(豊田真由子氏)成長の果実を国民に分配、だから減税するっておっしゃるんですけれど、そもそも成長の果実を国民の皆さんがどれだけ感じていらっしゃるかだと思うんです。所信表明演説でも、「賃金が上がってます、3.58%、30年ぶりに上がりました」とおっしゃるんですけど、これちょっとマジックというか、物価が上がっているので、それを差し引くと、実質賃金は、4月時点でも3.2%去年より下がってる状況で、諸外国と比べても経済も厳しい状況にあるのが国民の実感じゃないかと思うので、一時的に年数万円規模で還ってきたとしても、国民生活が楽になるかって言ったら、「ならないよ」っていう声の方が大きいんじゃないかと思うんですよ。

そういうごまかしみたいなことをせずに日本経済の底力を大きくして、中小零細企業の方も含めてね、無駄をなくすとか人材を育成するとか、デジタル化を進めるとか、意識改革を企業の側も、国民の側もしてもらって、時代の流れに乗っかっていくっていうのが必要。私が海外で仕事をしたりして、やっぱり日本がついてきてないなという実感があるので、一時的に良かったでしょうって言ってごまかすのは国民に対しての背信に近いんじゃないかと思います。

「黄金の3年間」でどっしりやるべき

――中野先生は岸田総理の対策に関してはどんなことを思いますか。

(神戸学院大 中野雅至教授(元厚労官僚))今の豊田さんの意見に100%同意です。ただ、この点に関して岸田総理を責めるのはやっぱり酷で、やっぱりアベノミクス以降の政策をどう転換するかが問われていて、生産性向上、円安を含めて経済政策は1年でどうにかなる問題でなく、中小企業のあり方も含めて賃金はすごく複雑で、大企業を上げても、中小は上げられないとか、中小企業の数が多すぎるんじゃないかとか、複雑な問題がいっぱいあります。

選挙に勝って「黄金の3年間」があるんやったら、本来は腰を落ち着けてどしってやるべき。それでもなかなか解決しないだろう。当面は金融政策です。金融政策が本当に転換できるかどうか、どれだけ緩やかにやるかがポイントだと思います。