大阪・関西万博のシンボルに位置づけられている「大屋根」の建設費は約344億円と想定されていて、批判の声が上がっています。資材費や人件費の高騰で、大屋根を含む会場全体の建設費は当初の約1.9倍となる2350億円に増額。さらに会場建設費とは別に約837億円かかる見通しが明らかになっています。この流れについて、マーケティング情報論を専門とする近畿大学の川村洋次教授は、東京オリンピックや愛・地球博を例に挙げて「日本がよくやる手」だと解説。ジャーナリストの立岩陽一郎さんも「小さめに出して決定して膨らむ、日本のイベントの常套句。政府はそれをやってきて、我々はそれを黙認してきた」と指摘します。そのうえで2人は『万博の今後への提案』についても語っています。
(2023年11月30日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

◎川村洋次:近畿大学教授 専門はマーケティング情報論 三菱総合研究所の元主任研究員 共著「集客の教科書」
◎立岩陽一郎:ジャーナリスト 大阪芸大短大部教授 元NHK記者 調査報道に力を入れ数々のスクープを放つ

「費用が増えるのは日本がよくやる手」

――2025年大阪・関西万博の「お金」について近畿大学の川村洋次教授、すでに2度、上振れ・増額がありました、もうこれ以上の増額はないと思っていいんでしょうか。

(川村洋次教授)そうですね。人件費が高くなってきたということがあって、まだ少し増える可能性はあるんじゃないかなと、私は思っています。

――川村教授は、で「結果(来場者)がついてくれば、盛り上がったで終わるのではないか」と見ているんですね。

(川村洋次教授)東京オリンピックも最初いろいろ言われましたが、メダルが過去最多で、もうそれでみそぎが済んだ、みたいな形になってしまったりとか、愛・地球博も少しずつ額が増えていったけれど、黒字になったので、それほど文句言われなかったっていうことがあって、今回は本当に回収できるのかわかりませんけれども、結果的に、来場者が何万人とか、3000万人とか行っちゃえば、うやむやになって終わるんじゃないかなと思います、よくやる手です。

――会場建設費2350億円に含まれているのが『大屋根』で、建設費は344億円。大きなリングにこの額をかけていいのかという声、その後どうするのかという声も上がっています。西村経済産業大臣は、「移設して使いたいという意向がいくつか伝えられている。民間なら、一定の金額で売却する」と話しています。

(川村洋次教授)IRに活用してはどうか、という考えがあります。IR=カジノと言われるんですが、基本は統合型リゾートでカジノ以外のエンターテイメントの施設などが作られますから、その中に万博レガシーとして、大屋根だけじゃなくて、パビリオンの一部分とか、そういったものを残していく、活用されるようにするのが、私は重要だと思っています。

――IRに活用ということは、民間に売却するという考え方ですか。

(川村洋次教授)基本はそうですね。場所は今のままが一番いいんでしょうけれども、「IRで使いません」となると、どっかに売却ということになりますけれども、大屋根をどういうものとして捉えるのかということも問題です。70年万博の太陽の塔のように、アートになるものであったり、深い意味があったりすると、レガシーとして活用できるんでしょうけど、木造の大屋根っていうものを、どう活用して、そこに付加価値があるのか、っていうところが・・。本当に使ってもらえるかどうかというところに関わってくると思います。

簡単に「やめろ」と言う人がいるんだけど、そうではなくて

(立岩陽一郎氏)さきほど川村先生がおっしゃった「よくやる手」は、あまり笑い飛ばせなくて、あらゆることを小さめに出して、それで決定して、お金がどんどん膨らむって、今までも日本のイベントの常套句ですよ。政府はずっとそれをやってきて、我々はそれを黙認してきたわけです。私は、こうなった政治的な責任は必ず取ってほしい、だけど、まさに今から500日の中でどう解決するかが問われているわけです。

簡単に「やめろ」と言う人がいるんだけど、そうではなくて、やっぱりまさにここから英知を、作り変える英知を発揮すべきでしょう。空飛ぶクルマとか何かって言い出したんけど、本来の万博の形、やっぱりもう一回、命や医療、50年後か1000年後、人はどうあるべきか、こういうところに立脚してほしいわけです。だったらお金払います。家族もチケットを買うと言っていますし、世界からもお客さんが来ます。だから、変なものにお金を出すんじゃなくて、ちゃんと意味のあるものにして欲しいです。

1日券7500円は70年万博と同水準

――チケットの値段に関して、1970年の大阪万博では、大人(23歳以上)の入場券が800円。2025年大阪関西万博は大人(18歳以上)1日券7500円。額に大きな差があるように見えるんですが、川村教授が、入場料の初任給に対する割合を見たところ、1970年では2%、2025年では3%なので、ほぼ同じ水準なんです。ただし、選んでもらえるかは別の話です。

(川村洋次教授) 70年当時にはなかったUSJなど、競争相手の存在があります。選んでもらうためには、非常にわかりやすい、ワクワクさせるような要素を打ち出していく必要があります。万博のいろんなパビリオンとか、シグネチャープロジェクトという形で企画されてるものはいろんな深い要素があると思うんですよ。それをできるだけ全体としてどうなんだ、とか、わかりやすく若い人たちが理解できるような形でコンテンツをどんどんアピールしていくことが必要です。おおもとの万博協会の委員の方とか、にはすでに何かあるはずなんですが、それがなかなか見えてこない。

なので、お金の話とか政治的なこととかばかり話題になって、本当の中身が見えてこないので、そこをアピールしていかなければいけません。

工期についての「不安」は

――いっぽう川村先生、工期に関してはいかがでしょう。

(川村洋次教授)70年万博のときには、600日前に、パビリオンの着工が始まって、っていう報道だったんですけれど、それから考えると、今はまだまだ、大屋根はできているみたいですが、パビリオンの着工は進んでいないようなので、結構厳しい状況じゃないかなと思います。

――工期について、日建連の宮本洋一会長は、「もうとにかくデッドラインは過ぎていると思ってもいいくらい」と強い危機感を示しています。実際のところ間に合うのか、建設コンサルタントの降籏達生さんに聞きますと、「建設業界は横の繋がりが強い。業界が連携して間に合わせるだろう」と見ています。開催まで500日を切りました。このように、両方の意見があるというのが現状のようです。(2023年11月30日MBS「よんチャンTV」より)