宝塚歌劇団の劇団員女性が死亡した問題で、12月7日に遺族側の弁護士が会見を開き、主要なパワハラ行為は15あったとして、その証拠を明らかにしました。ヘアアイロンでやけどを負った時の写真や、当時女性が母親と交わしたLINEが公開されています。この会見について、企業のリスクマネジメントなどに詳しい南和行弁護士は「厚生労働省が発表しているパワハラの指針に沿う形で丁寧に説明していて、パワハラを否定するのは非常に難しいと思う」と話します。また「遺族は裁判を起こせばいい」という視聴者からの意見に対して、南弁護士は「裁判で解決される部分は限られている。お金を払うか払わないかの結論にしか行き着かない。認識を変えてもらいたいというのは裁判ではできない」と解説します。
(2023年12月7日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

◎南和行:弁護士 LGBT問題や企業のリスクマネジメントなど一般民事のほか幅広く扱う

「15のパワハラ」と遺族側が主張する例

●上級生Aがヘアアイロンで火傷を負わせた
●Aが真摯に謝罪しなかった
●Aが髪飾りの作り直し等、深夜に及ぶ労働を課した
●上級生が新人公演のダメ出しで、人格否定のような言葉を浴びせた
●週刊誌報道後、上級生が死亡した劇団員を孤立化させ、過呼吸に追い込んだ
●劇団幹部が火傷事件を「全くの事実無根」と発表したなど、上級生や劇団幹部、演出家、宙組幹部らによる15の行為を主張しています。南和行弁護士は、これをどのように思われるでしょうか。

(南和行弁護士) 今回、遺族の弁護士が話された行為は、いずれも「パワハラに該当」と言われると思います。弁護士らは具体的事実を意見書の中でも説明されてますし、何でパワハラに当たるのかという評価について、厚生労働省が発表しているパワハラ指針に沿う形で丁寧に説明されているので、記者会見での意見書を読めば、パワハラを「違います」と否定することは難しいと思います。

――やけどしたとされる額の傷跡写真や、死亡した劇団員のLINE、証拠としてはどうなんでしょうか?

(南和行弁護士) パワハラのスタート地点は、何があったんですか、いつどういう事実があったんですか、ということになるので、火傷を負われてることを示す証拠。ヘアアイロンを上級生が持っていて、すり寄って火傷が起こったこと自体は争ってないわけです。

しかも痛かったというようなこともおっしゃってるし、そうなると、故意があったかなかったかではなく、「自分でやります」と言っているのに上級生が「私がやる」とやって、けがを負ってる段階で、パワハラと言いうるということですね。スタート地点の「あった、なかった」でいうと、「行為があった」という証拠となります。

「上級生Aさんが、変な追い詰められ方をしても良くない」

――調査チームは弁護士たちで組まれたんですけども、遺族側の弁護士は、その調査チームの独立性がちょっとおかしいんじゃないかと指摘もしています。

(南和行弁護士) 今日の記者会見では、既に宝塚が公表した報告書について、そもそも調査の体をなしてないんじゃないかということを強くおっしゃってました。特にいろんな人が「聞いた、見た」というようなことは、伝聞証拠だからと、軽んじていたりするし、ご遺族が「私の娘がこういったヘアアイロンのやけどのこと言ってるんです」と言っていたにもかかわらず、それをまるで聞いてなかったようになっている、調査のあり方の問題を指摘しています。

一昨年の8月、やけどの段階で上級生Aの方が、ご本人さんに何か具体的にしたという問題になってくると思うんですけど、その先、例えば医務室に行って、見てもらっている段階で、既に組織の問題になっているんです。15個の行為全てが上級生Aによると言っているのではなく、むしろ「組織の側がなぜ放置したのか」とか、むしろそのことを問題視している本人さんを責めるような対応をしたということがパワハラだという指摘になっているので、今となっては、逆に上級生Aさんが、場合によったら変な追い詰められ方をしても良くないということも、実は気にした発言を、遺族の弁護士はされていたかと思うんです。

――視聴者の皆さんから質問や感想のメッセージをお寄せいただきました。「遺族側はもう、裁判を起こせばいいと思う」というご意見です。

(南和行弁護士) このご意見、この状況を見られた世間の方が「裁判をなぜ起こさないんだろう」って思うのはとても私わかります。けれども、実は裁判っていうのは非常に『解決される部分ってのは限られている』というのが実感なんですね。

要するにパワハラがありました、それを金銭評価して、損害賠償してくださいって言ったら、そのお金を払うか、払わないかの結論にしか結局行き着かないわけなんです。今日ご遺族の代理人、川人弁護士がおっしゃってたように「認識を変えてもらいたい」。そこは裁判ではできないんです。

裁判で訴えて、確実な証拠を出しても劇団側が開き直って知りませんと言って、裁判所が判決出すことができる、けれども、それはご遺族の気持ちとしては、切なさは全く残るわけです。

それよりも認識を変えてもらいたい、これだけの証拠を突きつけられてるんだから、「自分たちが間違っていた、あのときもっと気づいていればこんなことにならずにごめん」って思ってくれないんですかっていうことなのに、やっぱり裁判では、開き直られるだけなので、ご遺族も苦しい気持ちで言ってらっしゃるんだな、と思いました。

事実積み重ねて、丁寧に

――こんなメールも届いています。「真実は一つですが、受け止め方は食い違うものです。その丁寧なすり合わせしか今回の解決に向かう方法はないように思います。真実が公平に明らかになることを切に願います」

(立岩陽一郎氏)私は日本語の真実って非常に怪しい言葉だと思っていて、真実なんてそれは明確ではないです、だけど、積み重ねていく事実はある。例えば、何で看護師が、何の資格もない看護師が「なぜ大したことない」って言って、それが報告書に載ってるんですか、っていう事実です。

その事実を積み重ねたら、やっぱり怪しいじゃないですか、ってなるわけです。それが大事で、真実をいきなり神様のようにこれですっていうのは、世の中にはないですから。真実という言葉には気をつけてください。

――南先生は、今後の遺族側と劇団側とのやり取り、どんなところを注目されていますか。

(南和行弁護士) 劇団側は、本当に今、おっしゃったように、事実を真摯に受け止めて隠さずに、どうすべきだったのかということを、丁寧に対応してほしい、それしかないと思います。