大阪市の路上で女子高校生を連れ去ったとして男が逮捕された事件。この女子生徒は容疑者の自宅(当時)で死亡しているのが見つかっていて、死因は急性薬物中毒とみられています。また、事件前に女子生徒が薬局で咳止め薬などを自ら購入し、過剰摂取した可能性があることが分かりました。若者のオーバードーズ(OD=薬の過剰摂取)の実態とはどのようなものなのでしょうか。
若者とオーバードーズの実態が問題になっています。大阪で死亡した16歳の女子高校生、実は手のひらに約30錠の白い錠剤を乗せた写真を、自身のスマホに保存していたことがわかっています。
「薬物使用と生活に関する全国高校生調査2021」では、この1年間に市販の咳止め薬や風邪薬を乱用目的で使用した経験がありますか、と質問をしています。「経験がある」と答えたのは約60人に1人いて、1クラス約40人とすると、3クラスの中に2人いる計算になります。
医師が語るオーバードーズの危険性
――市販薬を大量摂取するとどういうことが起こるのでしょうか?
(産婦人科医 丸田佳奈さん)「用法用量を守っていただければ、極めて安全に使えるお薬なんですけれど、大量に飲むことによって、覚醒剤を使ったときと似たような状態が得られるとされ、それを目的で飲んでいるようですが、極めて危険です。
大量に飲んでしまうと、人間は不要なものを肝臓とか腎臓で代謝するんですが、そこに障害が起こってしまったり、突然の呼吸停止とか心停止などもあり、体にとっては極めて危険です。また、薬による”いわゆる快楽”ですから、味わってしまうと、精神異常が起こってしまうので、止めたくても止められないって子もいます。それは依存症になってしまっている状況です」
薬物依存症の治療を受けた10代の患者の主な薬物を調べると、覚醒剤、大麻、危険ドラッグなどの項目がある中で、市販薬の割合がだんだん増えています(参考:全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査(2020年))。2020年のデータでは、市販薬で薬物依存症になったという人が一番多く、56.4%という結果でした。2014年は0%だった市販薬ですが、年々覚醒剤や大麻の割合が減って、市販薬が増えている状態です。厚労省は乱用のおそれがある一部の市販薬について、「20歳未満には、小容量の製品1個に限って販売する」などの規制強化を検討しています。
市販薬乱用の背景に『社会的孤立』
同調査では、市販薬の乱用経験がある高校生の特徴もまとめています。まず、男性よりも女性が多いこと。
生活習慣も、「睡眠時間が短い」「朝食を食べない頻度が高い」「インターネットの使用時間が長い」などとなっています。
学校生活については、「楽しくない」「親しく遊べる友人や相談できる友人がいない」と感じている人が多く、家庭生活でも「親に相談できない」だったり、「大人不在で過ごす時間が長い」「家族と夕食を食べる頻度が低い」など社会的な孤立を感じてしまっている、という共通項が浮かび上がっています。
――こうした特徴について、どうみていますか?
(産婦人科医 丸田佳奈さん)「一般的に言われるのは、オーバードーズに関しては、ちょっと興味があって、ではなくて、やはり現実世界で、孤立とか孤独を感じている、例えば親子関係だったり学校だったりで誰にも相談できないっていうことが悩みになって何とかしてつらさを免れたい、っていうことで始めてしまうってことが多いです。
また、SNSの中でそういう仲間と接触できるっていうのが、悪いことなんですけど、少し心の支えになっている部分がある。ですから、買えないようにとか、手を出さないように教育するとかも必要ですけれど、こうした背景を解決しないと、また違う依存に陥ってしまうことになります。社会的な子どもの孤立を解決していかなきゃいけないと思います」
薬局では…若者が特定の薬を大量に買おうとする動き
いっぽう、大阪・ミナミで薬局の声を取材しました。大吉洋平アナウンサーの報告です。
大吉洋平アナ:女子高校生が車に乗ったとされる、大阪市中央区難波周辺の薬局で話を聞いてみました。確かに今、10代や20代の若い世代が、ある特定の薬を大量に買おうとする動きがあるということです。
オーバードーズの危険性が指摘されていますので、薬局側としても「お1人様1箱までの購入です」と説明書きを掲示したり、場合によっては身分証の提示を求めたり、他店での購入状況を聞いたりします、という張り紙をするなど、大量購入に関するブレーキをかけている薬局がほとんどでした。
そんな中、若い人がある特定の薬を万引きする、という動きもあるようで、明らかに特定の薬に対する、若い世代の異常な需要があるようです。
大阪・ミナミだからこそ見えてきた1つの特徴というのが、『薬局が抱えるジレンマ』ではないでしょうか。
ミナミは、インバウンド観光客が多いので、日本の薬をたくさん買って、自国で常備薬として使いたい需要もある。薬局も商売ですから、そういったところに販売したいのだけれども、オーバードーズの危険性がある。ここがブレーキになっている。
会話をして、薬を買う目的などコミュニケーションが成り立った外国人には、場合によっては求められる量を売ることもあるそうですが、では日本人なら?若者なら?となると判断基準が難しいんです、と頭を抱える声もありました。若者と薬の歪んだ関係性が、市場にも様々な影響を与えていることが現場から見えています。