自民党・安倍派の政治資金パーティーをめぐるキックバック・裏金疑惑で動いているのは、政権を監視し、時には揺るがしてきた東京地検特捜部。今回の裏金疑惑に捜査のメスはどこまで入るのか、その動きに注目が集まっています。特捜部とはどんな組織で、どのような捜査を行い、今、何を狙っているのか?『日本最強の捜査機関』と呼ばれる特捜部の実態について、元大阪地検検事の亀井正貴弁護士に解説していただきました。派閥幹部の立件について亀井弁護士は「立証ハードルはかなり高い、犯罪の主体は会計責任者で、会計責任者との間で共謀があるかどうかを立証する必要がある」と話します。(2023年12月14日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

◎亀井正貴:元大阪地検検事 弁護士として民事・刑事裁判を多数担当

――「日本最強の捜査機関」と言われ、政治や企業など社会に影響を与える事件を捜査、起訴することが多い東京地検特捜部。特捜部の人たちは今、アドレナリンが出ていたりするものでしょうか。

(弁護士 亀井正貴氏)だと思います。重責を抱えてますし、この事件は滑ることができないし、功績をあげれば、それなりに地位を高めることができますから、皆やる気いっぱいだと思います。全国から応援検事呼んでいますがこれは大変な話で、地方では、普段4~5人で実務を担当するわけです。1人を抜いてしまうと、残りで実務を目いっぱいやることになるので、わかった上で東京地検は応援取ってますから、それなりに責任を持った上で、やるんだという姿勢だと思います。取り調べ対象は膨大ですし、証拠も膨大ですし、滑れない事件です。

特捜部ができたのは、戦後混乱期の”役人不正”きっかけだという

(ジャーナリスト 立岩陽一郎氏)特捜部がなぜできたかっていうと、戦後日本が混乱してる時期に、例えば軍が持ってた資材なんかを、政府の役人などが売り払って、懐に入れた時期があるんですよ。「それは駄目だ」と、検察庁の中に『隠退蔵物摘発捜査班』ができて、それが今の特捜になった。

――では、特捜部は、どこで、どんなものを捜査するのでしょう。

(亀井氏)証拠物と供述の2本の柱なんですが、証拠物というと、メモであるとかパソコン、スマホ、メール、犯罪行為を指示するような内容のメールがないか、上司が指示しているメモがないか、執務場所や住居、その辺のところが対象になります。令状を取ったら、入って持っていくことになります。

――考えたくないですが、今まさに国会議員らが証拠隠滅で消していることはあるんでしょうか。

(亀井氏)ただ、デジタル・フォレンジックといって、データを復活させることができますから、今の時代はSNSとか、パソコンのデータとか、データで立証する時代なので、必ず再現していきます。消しても出てきます。昔なら自白を取らなければいけないので、いわゆるガンガンの調べをして取っていくわけですが、今はほとんど物証で立証していきます。

 おそらく、お金の流れや枠組みの資料は、検察は持ってると思うんです。任意提出を受けていると思うので、形はできてると思うんです。ただですね、会計責任者、これ犯罪の主体なんですけども、その人との共謀です、相談した上でこの犯罪をやろうということに関する物証が残ってるんじゃないかと、ここが一番大事なポイントなんです。

会計責任者、共謀を立証できるかどうか

――立件はどこまで。我々に見えている人物は議員本人ですが、実際にお金のやり取りしている秘書であったり、会計責任者、この共謀を立証できるかどうか。

(亀井氏)会計責任者がいないとこの犯罪は成立しないんです。議員本人が会計責任者がやってることを知らなければ、これは故意犯と言いまして、事実を知らないと罰することができないから、逃れられるんです。

――知っていても「僕知りませんでした」って言いません?

(亀井氏)もちろんそうですが、知っていたということを検察が立証できるかどうかです。例えば『メモ』ですね。事務連絡のラインの中で、議員からこんなことを言われました、どうですか、とかいうやり取りがあれば、それは間接的な証拠になりますね。

「立証のハードルは高いです、かなり高い」

(亀井氏)国会議員側が本筋ですね。ただ、立証のハードルは高いです。かなり高いと思いますね。要するに「知っていただけ」では駄目なんです。共謀じゃないんです。この犯罪の主体は会計責任者なんです。普通の事案と違って、ランクが下の人が、主体になってしまうんです。

 なぜかというと、『収支報告書を出す人が誰か』ということが問題だからそれを采配する人が問題ではないんです。だから会計責任者との間で共謀があるかどうかです。しかも共謀ってのは、知ってるだけじゃなくて、「指示するとか、積極的に任用するとか、話し合うとか、相談するとか」そこが必要ですから、そこの事実を立証する必要あります。

来年の国会までには「証拠固め」…元検事はスケジュールを重視

(亀井氏)しかも、ブツを読まなイカンでしょう。証拠物を分析する必要がある、普通の事案ではガサを打って、証拠物を押収して、ブツ読みして、1か月ぐらいかけてじっくり証拠分析した上で、調べてやっていくので、普通だと3か月ぐらいかかる。私が、家宅捜索があってもおかしくないと思うのは、そこから時間がかかるんです。

 議員の調べも、この辺ぐらいから始まらないと、タイムスケジュールからすると来年の国会が始まる前の段階で、証拠固めが一応終わって、どういうふうに処分しようかということが、内部的には決まっておく必要があるんですよね。事情聴取って、ものすごく時間ありますし、人数も必要で、それを主任がまとめて供述をまとめながら事件を組み立てていくわけですから、その作業を考えたら、ぼちぼちやっとかんと、後が厳しくなってくるという、そんな感じなんです。