自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる問題で、12月19日、東京地検特捜部は安倍派と二階派それぞれの事務所を家宅捜索しました。政治ジャーナリストの武田一顕氏は「派閥事務所2か所同時に強制捜査が入ったのは私の記憶では初めて」と、今回の特捜部の対応が異例であることを強調。また、特捜部で検事として事件捜査歴のある坂根義範弁護士は「特捜としては組織ぐるみとみているので、事務総長レベルの議員とか、派閥トップ、そこを逮捕しなければと思っているはず。特捜部は覚悟している」と見解を述べました。

ほぼ全派閥が木曜に会合 その理由は”囲い込み”

(武田一顕氏)2000年代に、日本歯科医師連盟の話で、当時の橋本派(現・茂木派)の事務所を家宅捜索した記憶がありますが、派閥事務所2か所同時に強制捜査が入ったのは私の記憶では初めてです。これまで各議員の事務所に入ったりするけれど、派閥には入らなかった。ところが今回は『派閥自体が疑惑の舞台』になった。

―――そもそも、派閥事務所とは何をする場所なのでしょう。「毎週木曜日に所属議員が会合する場所」だそうですが。
スクショ)2023_12_21 11_59_40.jpg
(武田一顕氏)派閥は一言で言うと、トップを自民党総裁、つまり総理大臣にするために集まった体育会的な組織です。体育会的なところが重要で、毎週木曜にほぼ全派閥がやるのはなぜかというと、他派閥のところに行けないように、という意味です。ご飯を食べながら情報交換や情報共有するのが派閥。

 無派閥は帰宅部みたいなもので、体育会的な組織に入りたくないとか、入るとパーティー券でお金を上納するのが嫌だとか、そういう人は無派閥。権力を握りたいってのがあると、派閥政治は避けられない部分がある。だから自民党は「派閥解消」と今まで何回もやってるけど、結局なくならない、どこの国にもあるし。ただ、派閥政治をやってるからといって裏金を作っていいという話にはならない。

―――特捜部の元検事で、国会議員の元政策秘書の経験もある坂根義範弁護士に聞きます。特捜部時代には強制捜査の経験もあると思いますが、今回2派閥の事務所に同時に入るという異例の決断について、どう考えますか。

「最初に派閥に入った」ことは、はっきり検察の意思表示

(坂根義範弁護士)最初に派閥の事務所に入ったということは、派閥全体の組織ぐるみの犯行だと検察は見ているんだという一つの表れであることは間違いないと思います。検察として、組織犯罪を解明するんだ、ということが一つわかりますね。あとやはりここまで来た以上、派閥からの流れをちゃんと解明するんだということが、はっきり検察の意思表示として表れたと見ることができると思います。

―――強制捜査があるんじゃないか、という話から実施までに、「証拠を隠すとか口裏合わせ」が行われる可能性については。

(坂根義範弁護士)十分考えられます。捜査を受ける側とすれば、いよいよ迫ってきたなと考えれば、証拠書類とかメモとか、あるいは関係者同士で口裏合わせてこういった趣旨のお金でもらったことにしておこう、といったような証拠隠滅を既にしている可能性は十分あり得ます。

現場は「早くやりたい」上がGO出さない理由がある

(坂根義範弁護士)特捜側としては、メディアで騒がれる前に早くやりたいと、現場サイドはそう思っているはずです。“いつもどうしても漏れてしまう”ので、想定していると思うんですけども、やりたくても上がGOサインを出さなかったり、あるいは令状を取れるだけの証拠資料が揃っていなかったりとか、そういった可能性が考えられます。

 報道にもあるように、任意で議員や秘書から話を聞いていますので、場合によっては、こういった趣旨です、といった弁解の中に想定外のものが出てきますと、検察の上層部として、そういった弁解を潰して有罪に持ち込めるのか、といった形で躊躇してGOサインを出さないことも考えられます。

―――坂根さんは、捜査のキーマンになるのは「派閥の会計責任者」だとみています。収支報告書の記載の有無を、会計責任者が個人の判断で行うことはあり得ないそう、ということは議員の了承があったはず、ということですか。

まず法律上の会計責任者から固めて、重ねていく戦法か

(坂根義範弁護士)そうです。政治資金規正法上、会計責任者が収支報告書の記載義務者となっておりますので、彼が実行行為者で、おそらく上層部というか議員さんたちは会計責任者に指示なり承諾を与える実質的な責任者にあたるわけですけれども、まずもって法律上、罰則規定の対象となる会計責任者から、共犯という形で議員さんたち、共犯関係にあるかどうかで上に駆け上っていくと。特捜部が狙っている実質的な主犯は議員さんたちだと思うんですけれども、まず法律上の会計責任者から固めていく、順に重ねていく戦法だと思います。

―――立件へのポイントは会計責任者の供述と、証拠となるメモ、あるいは指示です。議員の代わりに自分が責任を取るようなことは考えられますか?

(坂根義範弁護士)過去の例を見ると、責任者が「自分の独断でやりました」と、いうケースはありました。メモが出てくれば、何のためのメモなんだとか、誰々先生報告済みというメモがあれば、「お前の言ってることは本当じゃないだろう」と、報告を受けた議員にも、「あなたはメモに基づいて報告を受けたんじゃないんですか」、といった取り調べを今後展開して、突き崩していくことになるのではないか。

「特捜部は覚悟している」

(坂根義範弁護士)特捜としては、組織ぐるみと見てるので、事務総長レベルの議員さんや派閥のトップを逮捕しなければしょうがないと思ってるはずで、いわゆる末端の、受けた側の議員さん、1年生議員さんとかで終わってしまえば、トカゲの尻尾切りになるんだという世間の批判を受けるのは特捜部は覚悟してますので、おそらく上層部まで行かなければいけないという意気込みであることは間違いないと思います。

―――立件の線引きに、キックバックの金額は関係あるのでしょうか。また、金額、誰の指示、どうやって証明していくことになるんですか?メモなど証拠がないと立件は困難でしょうか。

(坂根義範弁護士)基本的には物的証拠が一番重要ですが、現金でやり取りしているのであれば、渡した側と受け取った側の供述を精査して、どれだけお金のやり取りがあったのかを認定していく形になると思います。ただやはり、『首謀者が誰か』ですね。受け取った側も悪いんですけれど、お金の差配、分配額等々、マップを書いた者が一番の首謀者ですから、いわゆる黒幕が一番重い刑を受けるべき、というのは国民一般もそう思うのではないでしょうか。

―――強制捜査が政界に与える影響について、武田さんに2つ挙げてもらいました。

「やるのであれば年内でしょうか。通常国会の日程にらむと」

(武田一顕氏)山は2つあります。派閥への強制捜査が1つの山で、次の山は議員の逮捕ですよ。坂根さん、19日の強制捜査は当然、議員の逮捕に向かっての準備段階と考えていいわけですよね。

(坂根義範弁護士)そうですね。強制捜査で出てくるかわからないですけど、物的証拠に基づいて、また供述を得ていく。それをもとに逮捕状を請求していくための強制捜査です。議員に、まずは任意で聞いて、証拠と矛盾するような内容を喋ったりとか、会計責任者と言ってることが食い違ってきたら、いよいよ逮捕に踏み切る可能性はあります。

 やるのであれば年内でしょうか。通常国会の日程をにらむと、例年は1月中旬過ぎか、中旬ぐらいに国会が始まりますのでそれまでに起訴と考えると、勾留期間10~20日を考えると、少なくとも通常国会の始まる25日ぐらい前までには、逮捕するのであれば逮捕するでしょうね。

狙っているのは事務総長経験者ですか?キックバックの多い議員ですか?

―――先日、別の専門家が、会計責任者の立件はあるかもしれないけれど、国会議員までたどり着くのは相当ハードルが高い、と話していました。

(坂根義範弁護士)おっしゃる通り、ハードルは高いですが、扱っているお金が億単位ですので、これは事務担当者レベルで指示判断できるお金ではありません。そこを考えると突破は難しいですけど突破しなきゃいけない問題だと思います。

――逮捕で狙っているのは、事務総長経験者ですか、それともキックバックが多かった数千万円クラスの議員でしょうか。どのクラスを特捜部は考えているのでしょうか。

(坂根義範弁護士)派閥の事務所から家宅捜索に入ったことから考えると、やはり派閥の中枢ですね。事務総長とか、その上を狙っていると思います。(2023年12月19日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

◎坂根義範:弁護士 地検特捜部元検事 巨大談合・巨額脱税事件を捜査 国会議員元政策担当秘書 公認会計士
◎武田一顕:ジャーナリスト 元TBS記者 元JNN北京特派員 中国情勢に精通 小渕内閣以降の歴代政権を取材 愛称は「国会王子」