2023年の11月上旬はかなり暖かかったですが、中旬から一気に冷え込みが増しました。寒くなってくると警戒しなければならないのが「インフルエンザの流行」です。今シーズンは流行時期が早いとされ、12月には全国各地の学校で学級閉鎖などの措置がとられました。季節とインフルエンザの関係について、薬剤師の資格を持つ気象予報士の林保捺美さんに聞きました。

なぜインフルエンザは「冬」に流行するのか

 林保捺美さん:インフルエンザウイルスというのは「低い気温」と「乾燥」を好みます。ですので、ちょうど(インフルエンザウイルスにとって)秋~冬は気候的にぴったりなんです。

 ―――ウイルスが流行しやすい、動きやすい、繁殖しやすい環境なんですね?

 林保捺美さん:そうですね。まず、インフルエンザウイルスの特性なのですが、冬に流行する季節性のインフルエンザはA型とB型です。インフルエンザウイルスの大きさは約直径0.1マイクロメートルということで、非常に小さなものです。

 そして、主な感染経路は「飛沫感染」と「接触感染」です。飛沫感染は、感染者の咳やくしゃみが飛んで、それを別の人が吸い込むことによって感染すること。接触感染は、手・ドアノブ・つり革など、物を介して感染することを言います。

 乾燥すると長時間、空気中にウイルスが漂いやすくなり、感染リスクがさらに増加してしまうおそれがあります。

異変!今季は秋から流行 考えられる理由は…

 林保捺美さん:大阪府における定点あたりの患者報告数の推移(大阪府HPより)をグラフで見ていきます。過去の傾向を見てみますと、やはり冬が本格的に始まる12月ごろから感染者が増え始めて、1~2月をピークに一気に感染者が増えていることがわかります。

 ただ、2023年はインフルエンザの流行にも“異変”が起きているのです。2023年の場合は、夏場から感染する人が出始めて、秋には流行しているような状況です。

 ―――8月や9月、10月の時点で感染者が増えているということですが、これはどうしてなのでしょうか?

 林保捺美さん:考えられる主な理由は「免疫力の低下」です。インフルエンザウイルスは変異が頻繁に起こるウイルスです。毎年、流行するタイプも異なるため、前の年に感染した人でも次の年にまた感染してしまうおそれがあります。複数回の感染を経験することでウイルスへの「対抗力」が鍛えられていくというわけです。

免疫力低下の背景に“あのウイルス”

 ―――「免疫力」というのは、やはり新型コロナウイルスと何か関係があるのでしょうか?

 林保捺美さん:はい。2020年ごろから新型コロナウイルス感染症が拡大したことによって、この3年間、主に飛沫感染を対象とした感染対策が大規模で行われました。この感染対策はインフルエンザにも有効で、例年よりもインフルエンザの感染者が少なくなったんですね。

 ―――新型コロナの感染対策で、なかなか免疫を獲得する機会がなかったということですか?

 林保捺美さん:そうです。“免疫の獲得の機会”が少なくなったことで、抗体を持たない人が多くなったということです。ですので、今シーズンは流行が長期化するおそれがあります。先ほどの流行状況のグラフ(大阪府HPより)を見てみますと、2023年は10月や11月の時点で数値は高めです。これからピークが1~2月にやってくるということを考えますと、これから感染者がさらに増加したり、流行が長期化したりするおそれ、または今シーズンに何度も感染してしまうようなおそれが出てきてしまいます。

流行が早く始まったが…いつごろ収束する?

 ―――流行が早く始まったからといって、早く収束するわけではない?

 林保捺美さん:この後、流行期間が延びてしまうおそれもあります。大阪の月別平均気温(1991~2020年)を見てみますと、気温が上がって20℃を超えてくるのが5月ごろということで、毎年、これくらいの時期に流行が収束していくのですが、果たして今回の感染状況はどうなるのか…というところです。

 ―――9月ごろから流行が始まって、冬にピークを迎えて、5月ごろまで流行が続いてしまうおそれもあるということでしょうか?

 林保捺美さん:3~4月ごろまではそういったおそれもあります。

インフルエンザに感染しないためには?

 林保捺美さん:では、感染対策のポイントをお伝えしていきます。まず、免疫力を高めるためには「十分な休養」と「栄養のバランスのとれた食事」を心がけてください。次に、基本的なことですが「手洗い・うがい」ですね。しっかりと行ってウイルスを体内に取り込まないようにしていただきたいです。「アルコール消毒」も有効なので、しっかりとお願いします。

 そして、「換気」ですね。冬は怠りがちだと思いますが、1時間に2、3回ほど換気をしてください。結構な頻度ですが、これで少しでもウイルスを部屋から出していただきたいです。また、空気が乾燥してしまいますと、喉の粘膜にある防御機能が衰えてしまってウイルスに感染しやすくなります。そのため、適度な温度と湿度を保つことが大切です。目安としては、室温が18~22℃くらい、湿度が50~60%くらいを保つようにしてください。

天気予報と合わせて「流行状況」もチェックしよう

 林保捺美さん:そして、もう1つ大切なことなのですが、「流行状況」を確認しましょう。インフルエンザ流行レベルマップ(国立感染症研究所HPより)というものがあり、こちらは全国約5000の医療機関で定点的に毎週の患者数が報告されていて、天気予報と同じように「警報と注意報」があります。赤は流行が「警報レベル」で、赤ければ赤いほど大きな流行が発生していることを示します。そして、黄色は「注意報レベル」で、今後4週間以内に大きな流行が起きる可能性がある、または、いま発生している流行が終わっていない可能性があることを示しています。
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 この流行状況は保健所の管轄区域ごとにも発表されていまして、大阪府を見てみますと、より細かく示されています。11月ですでに警報レベルの赤になっているところもあり、これから赤い区域が増えてくるおそれもあるということです。日々の天気予報と合わせて、こういった情報も確認して予防に役立てていただけたらなと思います。

 春・夏は気温や湿度が上がることで感染者数は減っていきますが、まだ3~4月ごろまでは空気も乾燥しやすく、インフルエンザの感染が起こりやすい時期と言えます。まだまだ長期戦となりますので、対策をしっかり行って乗り越えていきましょう。