ダウンタウンの松本人志さんをめぐって、週刊文春は複数の女性が性的行為を強制されたと訴える告発などを報道。これに吉本興業は「当該事実は一切なく名誉を毀損するもの、今後、法的措置を検討していく予定」としていました。そして1月9日に吉本興業は、松本さんから様々な記事と対峙して裁判に注力したい旨の申入れがあったとして、本人の意志を尊重して活動を休止すると発表。一方で週刊文春の編集部は「一連の報道には十分に自信を持っており、現在も小誌には情報提供が多数寄せられています。今後も報じるべき事柄があれば、慎重に取材を尽くしたうえで報じてまいります」としています。この状況に芸能ジャーナリストの中西正男さんは「活動休止までして裁判に注力するくらい尊厳を貶める記事は酷いものなんだという言外の意味合いを感じる」と話します。そして南和行弁護士は今後について「何をターゲットにするのかによって裁判は変わる」とした上で、「結論までスムーズに進んで1年ぐらいで終わることはあるが、込み入った裁判なら3年ぐらいかかってもおかしくない」と解説します。

「全てが急だった」今後のテレビへの影響は

――松本人志さんのレギュラー番組、TBS系列では「クレイジージャーニー」「水曜日のダウンタウン」があり人気番組ばかりです。10日放送の「水曜日のダウンタウン」は、収録したものがあるのでそちらを放送、以降は未定ということですが、活動休止と芸能界への影響はいかがでしょうか。

(中西正男さん)松本さんは、いちタレント、芸人さんでありますが、松本さんを持ち上げるわけではないですが、もはや1つの権威というか、タレントを超えたプロデューサーである松本人志がいるから『番組・賞レース・企画が成立する』という特別なお仕事の仕方をされているので、似たタレントさんを入れてリカバリー、ということが一番きかない人でもある。
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 作り手からしたら、場合によっては番組や賞レースをやめることも考えなければいけない流れになるとも考えられます。それこそテレビ局にも、「こういうことになります」っていうのが8日の昼とかに連絡がいった。なかなか急極まりないことです。とにかく今回はもう全てが急だった。事後処理みたいなことになっています。

弁護士「裁判とおっしゃるが…どういう裁判を想定しているのか」

――南和行弁護士に聞きます。吉本興業の発表では、「裁判と同時並行ではこれまでのようにお笑いに全力を傾けることができなくなってしまうため当面の間活動を休止」ということでした。裁判を提訴・裁判・判決の3つの段階で区切って見ていきます。まず提訴、松本さん側は「誰を何で訴える」のでしょうか。週刊文春を名誉毀損で訴えるのか、記事の女性を損害賠償で訴えるのか、どんな可能性がありますか?

(南和行弁護士)何をターゲットにした裁判をするかで、審理対象も変わってきます。今回、吉本興業が裁判をすることを積極的におっしゃっているようですが、そもそも吉本興業は間接的な立場で、直接当事者は松本さんになります。一般的に考えられるのは松本さんが週刊文春を名誉毀損で訴えることですが、名誉毀損は、名誉毀損にあたるかどうかが裁判の究極の対象になるので、今報じられている内容は前提事実として、それが事実かどうか、あるいは不確かだったとしても、そこを「真実だと信じるに足りる状況」で報じたのかを文春側が言っていくことになります。
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 どこまで真実かというときに、今回報じられている“ホテルの一室を借り切っていろんな人が集まってパーティーのようなものをした”ところまで事実だった前提で裁判をすれば、結局書いてる内容が松本さんの評判を落としたかどうかが今度はターゲットになります。

 裁判の結論によって何か事実が明らかになることでもない。しかも名誉毀損という形で“週刊文春はこういうことは良くなかった”となっても、判決の前提事実として『パーティーは開催されていたとか、若い芸人さんを使って人を集めていた、』と認められた場合に、結局そういうことを息抜きなのか、盛り上がってかする人なんだという評判はついて回るので、裁判と一口におっしゃるけれども、どういう裁判を想定されてるのか、私はわからないです。

裁判は「3年ぐらいかかってもおかしくない」

――裁判で証拠は提出されるのか、証人尋問に誰が出廷するのか。証拠とは、例えばどういったものですか?

(南和行弁護士)それも何がターゲットになるかなんです。同意がなかった、あったとか、強制的に性的なことをされた、というのであれば、具体的な証拠が必要になるので難しいんですが。ただ、パーティーはありました、ただこんなことを報じるのはひどいじゃないですかといった裁判の場合、逆に集まりがあったことはLINEだけでとりあえず証拠になりますのでね。ちなみに裁判の証拠は、数よりも質みたいなところもありますので、文春側も報じていることが全て事実と言えるほどの証拠を出せるのかも非常に難しいです。

 性被害・性加害の裁判の場合、当事者の方が法廷で話すことは極めてハードルが高いと考えると、結論まで1年以上かかるかと。正直スムーズにコロコロと転がる裁判が1年ぐらいで終わることはありますけど、こみ入った裁判の場合、3年ぐらいかかってもおかしくない感覚は持ちます。

――和解する可能性もあるのでしょうか?

 一般に民事裁判では、裁判官が判決になるよりもお互い納得して終わりにしませんかということはよくあります。芸能人だと一定の賠償を払う代わりに、今後は一切こういったことを外で言わないという約束を和解の中ですることもあるんですが、それ含めてどういった事実が前提になるかなので、本当に裁判とは言ったものの、何をターゲットにする裁判か今は不明なので、どういうことを想定されているのかによって大きく変わってきます。

芸能ジャーナリスト中西氏「”キリトリ記事”への憤り」を指摘

―――どうして裁判にこだわるのでしょうか。8日の吉本興業の発表では「さまざまな記事と対峙して裁判に注力したい」ということですが、中西さんによりますと“キリトリ記事”に憤ってるのではないかということです。

(中西正男さん)今回だけじゃなく何年も前から、松本さんが出ている番組とかで、僕が取材する限り、大した取材もせんとその場のことだけでぱっと記事を上げることに非常に憤りを感じているのは前々からあった。だから今回のことも、休まなくていいのかもしれないですが、松本人志さんという人が休む、完全に表から出なくなる、そこまでして裁判に注力するぐらい、松本さん及び吉本興業からしたらキリトリ記事や芸人さんの尊厳を貶める記事はひどいもんやねんでと、言外のアピールという意味合いも、取材する中ですごく感じます。

 だから今回の裁判は、文春以外にも文春に乗っかっていろんな記事を書いてるところも複数訴えると思われますから、どこも和解とかじゃなくて、とことんやり合って最後の最後まで結論出すところまでやると思います。じゃないと、わざわざ休んでやる意味がないと考えるのではないか。影響が出ることは100わかった上で、それも込みで…というところはあると思います。(2024年1月9日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)


◎南和行:弁護士 LGBT問題や企業のリスクマネジメントなど一般民事のほか幅広く扱う
◎中西正男:芸能ジャーナリスト 2012年までスポーツ紙で芸能担当記者 現在はラジオ・テレビで活躍