政治をめぐる問題、前明石市長で元衆議院議員の泉房穂さんと、ジャーナリストの武田一顕さんに聞きました。まず政治団体「つばさの党」の3人が他陣営の街頭演説を妨害した公職選挙法違反の疑いで逮捕されましたが、その事件をきっかけに進む公職選挙法の見直し議論について。そしてもう1つは自民党が単独で提出した政治資金規正法の改正案について。さらには武田さんから泉さんへ「次の解散総選挙があった時に出馬する気持ちはあるのか?」という質問も。泉さんの回答は?

◎泉房穂:兵庫県明石市生まれ、東京大学卒。NHK退職後、弁護士・衆院議員を経て去年4月まで明石市長を務める

◎武田一顕:ジャーナリスト 元TBS記者 元JNN北京特派員 中国情勢に精通 小渕内閣以降の歴代政権を取材 愛称は「国会王子」

つばさの党きっかけの『公職選挙法』議論

Q政治団体つばさの党の黒川敦彦代表(45)、根本良輔幹事長(29)ら3人が公職選挙法違反の疑いで逮捕されました。根本容疑者は4月28日の衆院東京15区の補欠選挙に出馬して落選。最初から当選する気がないようにも見えましたが?

武田:そこが問題なんです。普通は立候補した人は当選することを目的としているという前提でみんな動いているんだけど、この人たちは当選する気がないわけですね。だからそうするともう前提が全て狂っちゃうっていうところで、こういう妨害行為が行われたということですね。

Qつばさの党側は表現の自由と反論。今回の逮捕容疑は他陣営の街頭演説を妨害したとする公職選挙法違反、選挙の自由妨害の疑いがあるということ。公職選挙法違反となった場合、4年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金が科されます。この公職選挙法の見直し議論が始まりつつあります。自民党の茂木幹事長は党として改正に向けた議論を進めると述べています。他の政党も大まかな案を出していて、立憲民主党は、4年以下→5年以下の懲役もしくは禁錮と、より重くするとしています。また日本維新の会は警察の迅速な取り締まりを義務付けるなどとしています。泉さんは弁護士でもありますが、公職選挙法の見直し議論をどう見ていますか?

泉:表現の自由としても何をしてもいいわけじゃないので、特に選挙は大事ですから、選挙の自由妨害に私は当たると思っていたので、逮捕は意外ではないです。むしろ選挙期間中にでも逮捕してもいいと思ったぐらいなので。私も選挙に立候補の経験があり、マイク1本で選挙していると、演説ができなかったらもう選挙のしようがありませんから。結局、事前にお金を配るとか裏の世界の政治の人が勝ってしまうので。本当に新しい人が訴えで勝とうと思ったときに、訴えを妨害される行為は本当に困りますから、こういうのは規制すべきだと思っています。

Q公職選挙法の見直しについては?

泉:公職選挙法にも自由妨害罪にその他項目があって、その他の行為で今回読み込んでいるんです。でもそうすると読み方が広すぎるので、それを乱用されないためにも法改正をして、明確に今回の行為を規制するようにした方がいいと思います。ただ法改正を待たなくても対策できるテーマだとは思っています。

Q以前に北海道で安倍さんが野次を受けてその人が警察に排除されたというのが問題になって裁判にもなりましたけれども、野次との線引きは?

泉:難しいは難しいんですけど、法律というものは、言葉はあれですけど社会通念というか多くの皆さんがそれまずいよねと思うのが法律ですから。多くの方がまずいよねと思っているのに、条文にはっきり書いていないだけでセーフだとまずいので、今回はちょっとある意味解釈ですけど踏み込んだのはやむを得ないと思いますね。

武田:私はちょっと警察も惰性だと思っていて、警察は公職選挙法の適用、特に選挙違反なんかは必ず選挙が終わった後に取り締まりをやるっていうのが通例になっているんだけど。今回の場合は選挙違反というよりは、物理的に演説が聞けなくなった状態で、それを本当はそのときに変えなきゃいけないから、あの時点で警察が動くことはできたんですよね。でも警察は自分たちの今までの経験から言ってできないとしてやらなかった、という点にも問題がある。だからあの時点でやっぱり排除しないといけない。

泉:そこは解釈が割れるテーマなので、条文にはっきり書いていないので、選挙の自由妨害罪のその他で読み込んでいるので、おそらくその後に慎重に検討した結果、多分いけると思って今回に至ったんだと私は思っています。

Qこの議論は今後国会でされていく?

武田:各党がこれはおかしいと言っていて、自民党の中でもおかしいというふうに言っていますから、改正にはなります。ただ、この6月までの通常国会ではとてもできないので、テーマとしては次の秋に開かれるであろう臨時国会なり、その後の通常国会のテーマになる。

泉:日本の選挙制度は異常なんですよ。他の国ではありえないような規制だらけなんですよ。今の日本の選挙制度は新しい人が通りにくい選挙制度なんです。私からすると今回を起点にして、もっとちゃんと議論して、あるべき選挙制度をやったらいいと思いますよ。ポスターなんかも各自が貼らなくても、例えば提出すればちゃんと貼ってもらえればずいぶん手間は助かりますし。いろんなやり方があると思いますから、この際、選挙のあり方そのものも検討したらいいと思います。

自民党が単独で提出『政治資金規正法の改正案』

Qもう1つ、自民党が単独で提出する政治資金規正法の改正案。主なポイントを見ていきます。まずはパーティー券の公開基準について、現在は20万円超で公開ですが、それを10万円超で公開に。また政党から議員個人に支払われる政策活動費は50万円を超えたら項目別に使い道を公開しましょう、という流れになっています。また議員の責任強化として、会計責任者が提出する収支報告書について、議員が“収支報告書が正しく示されていますよ”という確認書を作成する必要があり、収支報告書に虚偽記載などがあった場合は、議員側の確認書の適正な交付がもしなければ公民権が停止される、となっています。

泉:こんなん改正の制度に使っちゃ駄目ですよ。何も変わっていませんから。全く無意味です。パーティー券の前に企業団体献金をどうするかの議論を当然すべきですし。パーティー券に関しても、寄付が5万円なんですから当然最低でも5万円にすべきですし。あとは政策活動費っていうけど政策になんか使っていませんから。まさに裏金活動費ですから、やめればいいと思いますよ。仮にどうしても残すんだったら、フルオープンにして、全額胸を張ってお金を使えばいいと思うし。責任強化も確認書なんかいりません。政治資金報告書の会計責任者の欄を政治家本人をあてる形で本人が責任を負えばいいだけですから。そんなんすぐにできることなのに、やる気がありませんということを白状してるようなもんだと思いますね。

Q抜け道が多い?

泉:多いどころじゃないです、意味ないです。報道する価値ありませんよ。今の自民党案で100点満点で言うと点数5点ぐらいですよ。
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武田:ただこれ自民党からすると、これでまとまらないってことはわかっているわけで、自民党自身も。だけど、これから与野党協議やって話し合いをしていく中で、やっぱりこの交渉の余地を残しているわけですよね。ある程度甘い球を投げて、商売やるときの値段の掛け合いと一緒で、初めに自民党がふざけるなっていうような150万円ぐらいの案を出して、みんながこれおかしいおかしいって言ったら80万円ぐらいまで値下げしようっていうことを自民党は今やっている。

泉:間違いないですよ。こういう解説するから駄目なんですよ。はっきり言うけど。そうじゃないんです。今の論点は、金まみれの一部の方から金をもらう政治じゃなくて、国民の方を向いた政治をしましょうという議論なんですよ。一部から金をもらう方法が献金だったりパーティーだったり裏金だったりするわけでしょう。そこを変えようという議論なのに、そんな手元の小さな議論で、10万円5万円の話をしてもしょうがないんであって。政治部がそういうふうなことを言うから国民が誤解してしょうがないと思う。

武田:現実には法律を改正しなきゃいけませんから、法律を改正するときにはどうやって現実的にやるかっていうのを自民党が考えたときには、こういうふうな考え方をしているってことですよね、自民党はね。

泉:自民党の言いなりの報道をするからですよ。そうじゃなくて、国民の声としてはいつまでそんな金まみれに政治するんですかと。政治にそんなに金がかかるわけないじゃないですか。選挙の裏で金を使っているだけなんですから。そこにメスを入れるべきことをメディアがちゃんともっと世論管理しないと、と私は思いますけど。取材するのは大事ですけど、いわゆる政治家の権力者に取材するだけじゃなくて、ちゃんと国民の一般の声をもっと取材をして検証もして報道されないと、結果的に今の政局絡みの報道で終わってしまうので、もったいないなと思いますけどね。

武田:ただやっぱり実際の政治がどういうふうにこれから動いていくかっていうのを伝えるのもジャーナリズムの1つの重要な仕事なんですよね。

『裏金問題』への対応

Q政治資金規正法の改正案は裏金問題を受けてということですけれども、裏金問題についてはどう見ていますか?

泉:裏金問題に限らずですけれど、世の中一般的に考えて、不祥事が起これば通常3点セットです。明石市長のときも明石市で何かあれば3点セット。事実は何だったのか、その責任は誰が負うのか、そして再発防止をどうするのか、この3つなんですよね。今回であれば裏金がどうしていつ始まったのか、どういう経緯で続いたのか、というあたりを解明しないことには対策は打てないんです。実際には事実の解明はなされていません。事実の解明なくして対策があるのかという論点。2つ目は当然しかるべき処分・責任・反省があってこその改善なんです。反省もせず、ほとんど処分もされていない状況で、反省なきところに改善策があるのかと思いますから、そこはもう3点セットで、今からでも遅くないから第三者委員会を作って事実の解明をして、ちゃんと事実に基づいて適正に処分すべきだと。その上で再発防止策も第三者の審議会にでも依頼して、国会議員は自分で自分の首を絞めませんから、国会議員がしかるべき有識者にお願いして作ってもらった案を、みんなで改正していくっていう方法だと私は思います。

Q民間では当たり前に行われることが国会議員では行われない?

泉:民間だったらジャニーズ問題だって日大問題だってみんな第三者委員会を作るのは当然ですから、第三者が調査せずして全容解明できるわけがないんですから、政倫審なんかやったって平気で嘘をつけるわけですから、嘘つき大会の政倫審をやったって何の意味があるんですかと私は思うので。そこはもっと本来のあるべき姿をちゃんとやってほしいですね。世論はやっぱり大きく変わってきていて、やっぱり最近の世論調査でも、今の政治の継続よりも新しい政治を望む世論が高まってきていますから、そういう意味で大きく時代が動き始めたと私は思っています。

Q今回の改正案で今までと違うのが、連立相手の公明党と改正案で折り合えず、自民党が単独で提出したということ。例えばパーティー券の公開基準、現在は20万円超で公開、自民党は10万円超で公開にしようとしていますが、公明党はより下げて5万円超で公開としています。これについて公明党の関係者は、今回ばかりは妥協できないと言っています。なぜなのでしょうか?

武田:公明党の別の関係者は、自民党と同じ穴のムジナと思われたくない、とまで言っているんですよね。ということは、自民党と同類だと思われたくないんだというのが公明党にありますから、そこでは折り合えないので、自民党が単独提出だと。立憲民主党の安住国対委員長が言っていたように、ちょっとこの25年間で見たことのないような法案の提出のされ方がしました。

泉:本来は0円から全面公開すればいいだけのことなんですよ。他の国はほとんどやっていますよ。日本ぐらいですよ、こんな異常なのは。

Qなぜ公明党は5万円?

武田:ゼロにすると今度は公明党が言っても自民党は絶対に飲むことはないわけですから。そういうことはやっぱり連立政権だからやってもしょうがないっていう意識が働いたわけですね。お金がこんなにかかっておかしいというふうに言うんですけれども、例えば公明党なんかはお金があまりかからないのは、実際に選挙になると支持母体の創価学会がフル稼働するわけですよ。それで、よく昔の友達がピンポンって家まで来て、ぜひ公明党に入れてくれって、あれはみんなただでやってくれるわけです。ところが、そういうのができなければやっぱりお金を払ってやらざるを得ないっていう部分がありますから。

泉:違います。そんなことしなくてもちゃんと政策があって語ったら通りますから。お金がないと選挙に通らないというのは嘘です。都市伝説です。ちゃんとどんどん通っていっていますよ。私もそうやって通ったし。

武田:適正なお金がどこにあるかっていうのは、実は法律で決めたり、こうやって決めることはできない。私何度か言っていますけれども、政権がぐるぐる交代していく中で大体妥当なものがいくらかってのは決まってくるものであって、こうやって法律で決まったり、今ここで私はかからなかった、こっちの自民党はかかるっていうのを言っていても、水掛け論なんですよね。

泉:お金についてはルール化して透明化するということがポイントだと思います。

自民と維新…今後の連携は?

Q公明党と自民党は今回は折り合えなかったわけなんですけれども、自民党は別の政党と連携を組もうとしている。それが日本維新の会です。次の衆議院選挙を見据えて自民党と日本維新の会の連携はあり得るのでしょうか?

武田:自民党が維新に秋波を送っていることは間違いないですよね。解散総選挙がいつ行われるかわかりませんけれども、行われると、自公で過半数割れを起こす可能性がありますから、そうなったときのことも考えて、この政治資金規正法の改正において、維新と協議をしたいというのがある。ある自民党の議員は、公明党と喧嘩しちゃいましたから、もう維新を抱き込むしかないんだ、というところまで言っているわけですよね。それからもう1つ言うとね、静岡県知事選って今やっているんですけれども、あそこでも維新はちょっと自民党の候補寄りになっているのがありますから。そういう細かいところを見ると少しずつ何か歩み寄っているような気もしないではないっていうのが今の状況です。

泉:維新にぜひお願いしたいのはね、旧文通費の公開なんかはもう当然の大前提で、そんなもん全然交渉のネタじゃないですよ。最低でも企業団体献金の廃止ぐらいは、維新としては掲げて、そこで自民党と交渉していただきたいとは思いますね。

Q旧文通費に関して、自民党はそれに乗るのでしょうか?

泉:旧文通費の公開ぐらいは乗る可能性はあると思いますよ。公明党の5万円超で公開にも乗る可能性あるから、低めのところで交渉しておいて、最後急転直下、合意しましたというストーリーはあり得ると思います。でもそんなことがあったところで全然ハッピーじゃないと私は思います。

泉房穂さん自身の出馬意思は?

Q武田さんは最後に泉さんに聞きたいことが?

武田:泉さんは次の解散総選挙があったときに選挙に出ないんですか?

泉:私個人がどうこうじゃなくて、やっぱり今はもう政権を代える必要がありますから、衆議院465のうちの233を取って総理を代えないと、国民が救われる政治は始まりませんから。

武田:泉さんだって総理になってほしい人になると最近ちょっとランクに入ってくるじゃないですか。

武田:そういう人気ランキングじゃなくて、やっぱり国民負担増の政治をやめて、国民の方を向いた政治に大転換を図る必要があるんで、そんな1人2人の話ではないと思います。そこをもっとしっかりと報道もお願いしたいなと思いますね。

Q泉さんは発信力があるので、もしかしたらそういう考えがあるのかなと…。

泉:こんなん発信力あるうちに入らないですよ。単なる関西弁の早口だけですから。

武田:私、泉さんの元同僚の議員に、泉さんと一緒になるんですよっていったら、泉さんは物理的に声がでかいから気をつけろと笑。

泉:申し訳ございません笑。ありがとうございました。

(2024年5月17日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)