真実は一体どこにあるのでしょうか。兵庫県の元県民局長による斎藤元彦知事の“パワハラ”や“おねだり体質”などを告発した文書。斎藤知事は「事実無根」としていましたが、この告発文をめぐり6月13日、問題究明のための『百条委員会』の設置が兵庫県議会で決まりました。告発文に書かれた驚きの内容とは?そして百条委員会とは何なのか?情報をまとめました。

座右の銘は「雲中雲を見ず」 斎藤元彦知事のこれまで

 斎藤元彦知事(46)は神戸市須磨区の出身。2002年に東京大学経済学部を卒業、その後、総務省に入りました。新潟県佐渡市、福島県飯舘村など様々な自治体に出向して経験を積んだ後、大阪府では財務部財政課長に。この後、2021年7月に自民・維新の推薦で兵庫県知事選に出馬して当選しました。維新としては大阪以外の知事選で初めて推薦候補が当選したため、大阪だけではなく兵庫でも存在感を示した出来事でした。

 斎藤知事は当選翌月の2021年8月、MBSの番組に出演した際に座右の銘として「雲中雲を見ず」という言葉を紹介していました。これは知事の亡くなった祖父からの言葉だそうで、「雲の中にいると雲の姿が見えなくなるように、自分の姿はなかなか客観的に見られない」「大きな権力を持つ知事はともすれば県民の皆さんと乖離することもありうる」「自分をしっかりかえりみてやっていく」と語っていました。

事の発端は元県民局長の告発文 知事は「事実無根」「うそ八百」と否定していたが…

 今回の問題の経緯を時系列で見ていきます。事の発端は、3月中旬に兵庫県の県民局長だった男性が一部の報道機関などに告発文を送付したことです。これを受けて3月27日、斎藤知事は「事実無根」「うそ八百」「被害届・告訴も含めて法的な手続きを進めている」と会見で語りました。5月7日、元県民局長は停職3か月の処分を受けます。県側の理由としては、知事や一部の幹部職員を誹謗中傷する文書を作成・配布して多方面に流出させたことで、県政への信用を著しく損なわせたということです。

 しかし5月15日、1人の県議会議員による県職員へのアンケートが公表され、その中に斎藤知事からのパワハラがあったという回答が複数ありました。5月21日、知事は第三者委員会の設置を決定。6月7日、知事は「表現がいき過ぎた点については反省」と述べました。そして6月13日に県議会で百条委員会の設置が決定されました。

「入り口20m手前で車を降ろされ叱責」「知事のおねだり体質は県庁内で有名」「顔写真事件」

 では、具体的にパワハラとは何なのか。元県民局長の告発によりますと、ある出張先で施設の入り口の20m手前で斎藤知事が公用車を降ろされたということがありました。これは、車が入っていくことができない事情があったそうですが、斎藤知事は職員らを叱責したということです。告発文には「どなり散らし、その後一言も口をきかなかった」といった内容が書かれています。告発文には、もし事実なら県の内規に違反するような内容などもあり、百条委員会にかけられた後、もしかしたら最終的に政治的責任を取らざるを得なくなるきっかけになるかもしれません。

 公用車から降ろされたこの件について知事は「時間が限られている中で、少し私からすると適切ではない段取りがあったので注意をしたことはある。それなりに厳しい口調で注意をしたが、社会通念上の範囲内で注意したと認識している」としています。

 そして告発文の中には「知事のおねだり体質は県庁内でも有名」という記載もありました。告発文によりますと、斎藤知事は高級コーヒーメーカーを視察先で贈呈され、その場では辞退したものの、後日送るように指示したということです。具体的には、コーヒーメーカーを渡された際に職員に対して“みんなが見ている前で受け取れるわけないやろ”と、秘書課に送るように指示したということです。これについて斎藤知事は「そういった指示はしていない。受け取らないように指示した」としています。しかし「返却する指示を受けたにもかかわらず返却を怠った」として、後に担当部長に訓告処分が下されています。

 企業から便宜が紐づいた状態で何かを受け取った場合は贈賄収賄にあたります。そもそも県の内規として業務に関する贈答品は内規違反なので、もし告発文の内容が事実であれば、パワハラだけではない様々な問題が浮上してくる可能性もあります。

 この告発文について、ジャーナリストの立岩陽一郎さんは次のように見解を述べました。

 (立岩陽一郎さん)「こういう告発って基本的に匿名が多いわけですよね。今回は県の幹部が実名で告発したと思うんですけど、これはかなりの覚悟でやってるはずなんですよね。だからそれが事実無根だっていうのは、私の経験からちょっとありえない。実態としてどうかはまたこれから百条委員会で詳しくやるんでしょうけど、それが事実無根だとかうそ八百というのは、県の行政マンとしてそういう発言が出ること自体が私は非常に残念だと思います。地方自治の根幹を担ってる人がそういう発言をしたことは知事は重く見た方がいいわけです、当初から」

 また、兵庫県職員のアンケートの中には「はばタンPay+顔写真事件」という文言が書かれていました。これは、兵庫県のプレミアム付きデジタル商品券「はばタンPay+」の第1弾のポスター・チラシに、自分の顔写真がないことに斎藤知事が激怒したということです。第2弾のポスター・チラシには知事の顔が大きく入る形となっています。アンケートに書かれた内容によりますと、こういったポスターやマスコミ対応に知事は非常に厳しく、自分の顔がないことに激怒して作り直しが必要になることがあり、今ではポスターなどに知事の顔を入れることが“ルール”だということです。

 これに関して斎藤知事は「産業労働部が議論をして効果的に発信するために知事の写真を使うという提案をされたと認識している。議論の中で私とコミュニケーションしながら決めていった」としています。

百条委員会は「強い権限」 出頭しない・虚偽陳述などには罰則

 これらの真実はどこにあるのかを調べるのが百条委員会です。百条委員会とは地方自治法第100条に基づいて設置される特別委員会のことです。簡潔に言うと、様々な調査をするための委員会で、聞かれたことには本当のことを言わなくてはいけない集まりです。設置するのは地方議会で、自治体の事務に関する調査を行います。ポイントは罰則があることで、正当な理由がないのに出頭しない・記録を提出しない・証言を拒むなどすると6か月以下の禁錮または10万円以下の罰金。また、虚偽の陳述などをした場合は3か月以上5年以下の禁錮に処するということが法律で定められています。

 行政学者である神戸学院大学の中野雅至教授は、百条委員会は国会の国政調査権と同じく強い権限があるといいます。その上で、中野教授によるポイントは「百条委員会の設置前に沈静化する方法はなかったのか」。初動で「うそ八百」「事実無根」と言ってしまったことが大きいのではないか、一切非がないのであれば第三者委員会を早急に立ち上げて調査するという方向性を示せば、ここまでの事態にはならなかったのではないかという見解を示しています。一方で、立岩さんは次のように述べています。

 (立岩陽一郎さん)「百条委員会は法律に則った行為ですから、地方自治を守るという意味では、これをやらない選択を努力する、つまり回避しなくてはいけないものではないんですよ。問題があるわけですから、それは議会が議会としてちゃんと調査をするんだっていう趣旨で言えば、私は百条委員会というのは30年近い記者の中では1回ぐらいしか取材したことないですけど、これはやればいいんですよ」

 百条委員会の設置決定を受けて斎藤知事は6月13日、「私自身の言葉で文書への考えや内容について説明できる機会を設けたい。スケジュールを見ながらできるだけ早くセットしたい」とコメントしています。