睡眠の目的は「疲労回復」だけではありません。実は「記憶の定着」や「脳の老廃物の排出」にも関わっています。睡眠時、一番休ませないといけないのはどこ?寝苦しい熱帯夜でのエアコンの使い方の正解は?睡眠の専門家である東京疲労・睡眠クリニックの梶本修身院長への取材などをもとに情報をまとめました。
寝ている間に「脳」を冷やして休ませよう
まず、睡眠で一番休ませるべきところは、実は筋肉や臓器ではなく「脳」です。というのも、面積あたりの発熱量が体の中で一番多いのは脳だということです。また、自律神経の中枢があるということで、特に冷やして休ませることが“体を休ませる”ことにつながるのです。
夏でも冬でも、同じ距離を運動したときの体の疲れ具合は同じはずだということです。しかし、夏のほうが疲れを感じるのではないでしょうか。それは、汗をかいたという身体的な疲れではなく、“汗をかかせる”という複雑な指令を脳がたくさん出しているため、脳が疲れることで疲れを感じるのだと医学的にわかっているということです。
では、どうやって脳を冷やすのがいいのか。脳の自律神経の中枢は鼻腔に近い場所にあるため、鼻から冷たい空気を吸うことが自律神経の中枢を冷やすことに一番良いです。風呂場でのぼせてしまうのは、風呂場の室温自体が高くなっているため、鼻から吸う空気も熱くなり脳が温まってしまうからだということで、これは熱中症の一歩手前の状態です。また、鼻がつまったときもボーっとしますが、これも鼻がつまることで、酸素が減っているのではなく、冷やせなくなるからボーッとするということです。
梶本医師が推奨している「脳をクールダウンさせる鼻呼吸」を紹介します。まず、鼻からゆっくり3秒間、息を吸います。その後、4秒間、息を止めます。そして5秒間、口からゆっくり息を吐きます。これは海外で確立されている方法で、これを涼しい部屋の中で3回繰り返すと、脳を冷やすことにつながるということです。
脳と体で快適な温度は違う!?エアコンの『温度』と『タイマー』の正解
寝ている間も脳を冷やし続けることが大事です。つまり寝ている間もエアコンをつけて部屋を冷たくしておくことが大事となります。そのとき、何℃で何時間が正解なのでしょうか。
そもそも脳にとって快適な温度というのがあり、その快適な温度にするための室温が23℃前後だということです。ただ、これはあくまでも室温の設定で、直接的に脳を冷やすのはNGです。そして、睡眠中の快適な室温は、実は脳と体で違います。脳が23℃前後であるのに対して、体は26℃前後です。
ちなみにこれは日本人の場合の話で、欧米人は筋肉量が多くダウンパーカーを1枚着ているような状況なので、体と脳の温度差が比較的少ないということです。
脳は23℃前後、体は26℃前後、この“差”をどうするか。結論、エアコンの設定温度の正解は、間を取って24~25℃です。
体が寒くて震えたりすると睡眠が浅くなってしまうので、頭は冷やして体は温める必要があります。そのためには布団をかけてください。梶本医師は夏でも冬用布団でいいと話していて、冬用布団で、暑くない程度まで室温を下げていいということです。
もちろん電気代や地球環境の問題は別に考えてください。体の健康と深い睡眠を考えたときにはこれがベストということです。
そして、エアコンのタイマーは、熟睡のためには「朝までつけっぱなし」が正解です。特にマンションなどコンクリートに囲まれた部屋に住む人は注意が必要です。コンクリートは昼に熱されて蓄熱していて、この蓄熱のピークが夜11時です。そこから放熱されていくため、外気温が下がっていく夜中でも室内温度が下がらないことがよくあり、夜中の熱中症が多いということです。
さらに湿度は室内の場合、寝ている間に上がります。温度が下がると相対的に上がるのと、寝ている間に100cc~300ccの汗をかいていて、その汗が蒸発して部屋の空気中にたまるからです。特に子どもの場合は発汗量が多く湿度が上がりやすいです。湿度が上がると熱中症リスクも上がるため、気をつけてください。
『扇風機の風に直接あたる』のはNG!
最後に、“睡眠の達人”になるために知っておきたい細かいポイントを紹介します。
まず、寝るときの服装は、夏でも長袖・長ズボンが良いということです。発汗した後、服がないと、例えばひじが曲がった状態で寝ていたら汗が気化しないので、体温調整ができません。そのため、できれば吸水速乾性の服で汗を吸い取ってもらった方がいいということです。足が冷える人も、靴下は足の裏の発汗が止まってしまうので良くありません。足が冷えやすい人はレッグウォーマーなどがいいということです。
また、扇風機は体に風を直接当てるのはNGです。首振りで使用したとしても、当たるところは体の片面だけです。片面だけ涼しいと、体が勘違いして全身の汗腺が閉じてしまうということです。そうすると体温調整がうまくできず、結局、寝苦しい夜になりかねません。空気を循環させるためにエアコンと併用するはOKですが、体に直接当てるのはやめましょう。
寝室のあかりについては『真っ暗』が良いということです。寝る前に関しては、リビングのあかりは暖色や間接照明で徐々に暗くしていきましょう。また、スマホの操作はお風呂に入るまで。お風呂にスマホを持っていく人もいると思いますが、長風呂になって脳を温めてしまうので、やめたほうがいいということです。そして、寝る直前の飲酒も睡眠が浅くなってしまうためNGです。
今晩から快眠を目指して“睡眠のポイント”を実践してみてはどうでしょうか。