睡眠学の世界的権威である柳沢正史教授に聞いた!睡眠不足大国ニッポンの現状、睡眠の重要性、そして今日からできる正しい睡眠習慣について解説します。
◎柳沢正史教授:筑波大学で世界的な睡眠研究の第一人者。2023年に睡眠に関わるタンパク質「オレキシン」の発見で、ノーベル賞の登竜門とも言われるブレークスルー賞を受賞。睡眠障害の治療に大きく貢献。
不眠大国ニッポン!
日本人の睡眠時間は世界的に見て短いことがわかっています。先進国33カ国の平均睡眠時間は1日8時間28分ですが、日本はその中で最下位の7時間22分。日本人は世界平均と比べて1時間以上も睡眠時間が短いのです。
この睡眠不足の背景には、日本特有の文化や考え方があると指摘されています。柳沢正史教授によりますと、日本人と欧米人では睡眠に対する考え方の違いがあるようです。
日本人は「睡眠をたくさん取ることは贅沢だと考える」傾向がありますが、欧米人は「十分な睡眠を取ることは当たり前だと考える」といいます。
この違いは、日常生活の中での時間の使い方にも影響を与えています。欧米人は24時間のうち8時間を睡眠に充て、残りの時間で仕事や余暇を過ごすことが一般的です。一方、日本人は睡眠時間を削って仕事や家族サービスに時間を充てる傾向があります。
“酔っ払い状態”の脳で仕事をしている日本人!?
柳沢教授によると、睡眠不足は脳の働きを低下させ、注意力や集中力、判断力の低下を招きます。
驚くべきことに、たった一晩の徹夜で、私たちの脳の働きは「酔っ払った状態」と同じになるのだそう。さらに、6時間睡眠を10日間続けただけでも、徹夜と同様の状態に陥るということです。つまり、日本人の多くが「少し酔った状態」で日々の仕事に臨んでいる可能性があるということです。
睡眠不足は、感情のコントロールにも悪影響を及ぼします。イライラしやすくなったり、怒りっぽくなったりするのは、睡眠不足が原因かもしれません。その他にも、メンタルの不調、メタボリック症候群、糖尿病など、様々な疾患のリスクを高めることが分かっています。
さらに、慶応大学のチームによる研究では、従業員の睡眠時間が十分に確保されている企業ほど、業績が良いという結果も出ているといいます。
「やらないよりはいい」正しい寝だめの方法とは?
平日の睡眠不足を解消するために、週末に寝だめをする人は多いのではないでしょうか?効果については疑問を持つ人も少なくありませんが、柳沢教授は、寝だめは「貯め」ではなく睡眠負債の「返済」だとし、「普段眠れていないのなら、やらないよりはやった方がいい」といいます。
しかし、実際には「寝だめ」をしても週明けにぐったりと感じる経験をした人もいるのではないでしょうか?柳沢教授に正しい寝だめの方法を聞きました。
ポイントは「睡眠中央時刻」を維持すること。例えば、平日に午前0時に寝て午前6時に起きる人の睡眠中央時刻は午前3時です。週末に寝だめをする際、午前0時に寝て午前10時に起きると、睡眠中央時刻が午前5時にずれてしまいます。これが「社会的時差ボケ」を引き起こし、月曜日の朝がつらくなる原因となります。
正しい寝だめの方法は、睡眠中央時刻を維持しつつ、睡眠時間を延ばすことだそう。具体的には、普段より早く寝て、普段より遅く起きるのがポイントです。例えば、午後10時に寝て午前8時に起きれば、睡眠中央時刻は午前3時のまま維持できます。
この方法を実践することで、体への負担を軽減しつつ、睡眠負債を返済することがでるといいます。柳沢教授は「1時間でも2時間でも、できるだけ普段の睡眠リズムに近づける」ことが大切だとしています。
ショートスリーパーの99%は無理をしている!?
「自分はショートスリーパーだから、睡眠時間は短くても大丈夫」と考えている人もいるかもしれません。しかし、柳沢教授は、真のショートスリーパーは極めて稀で、「自称する人の99%は、実際には無理をしているだけ」と指摘しています。多くの人が「自分は短時間睡眠で大丈夫」と思い込み、実際には体に大きな負担がかかっているといいます。
では、なぜ多くの人がショートスリーパーを自称してしまうのでしょうか?それは、“無意識のうち”に睡眠不足に陥っているからです。現在は問題ないように感じても、実はもっと睡眠時間を確保することで、より高いパフォーマンスが期待できる可能性があるといいます。さらに、ショートスリーパーは長期的に見ると体にさらに大きな問題が生じる可能性もあるそうです。
昼寝についても意外な見解が。柳沢教授によると、十分な夜間睡眠を取っていれば、基本的に昼寝は必要ないとのことです。日中に極端な眠気を感じるのは、夜間の睡眠が不十分である可能性があるということです。
そして、柳沢教授は「睡眠の質」の重要性も強調しています。レム睡眠とノンレム睡眠はどちらも非常に重要で、両方をバランスよく取ることが健康的な睡眠につながるといいます。
快適に寝るための正しいエアコンの使い方 お酒は寝る4時間前まで
柳沢教授によると、睡眠の質を高めるためには、快適な睡眠環境を整えることが重要です。
エアコンを夜中につけっぱなしにすることが体に悪いという医学的根拠はなく、タイマーで途中で切らずに、「朝まで快適な室温を保つ」ことがポイントだといいます。体に直接風が当たらないように注意すれば、一晩中つけていても問題ないそうです。
また飲酒は、睡眠の4時間前までが推奨されています。「寝酒」として就寝直前に飲むことは避けるべき。アルコールは一時的に眠りを誘う効果がありますが、実は睡眠の質を低下させてしまいます寝酒は睡眠の質を下げてしまうといいます。
カフェインについても注意が必要です。コーヒーや緑茶、エナジードリンクなどに含まれるカフェインは、覚醒作用があるため、夕方以降の摂取は避けるほうがよいといいます。カフェインの効果は個人差がありますが、一般的に摂取後4〜6時間は体内に残るとされています。
あなたにぴったりな睡眠時間を見つける『4日間の実験』
あなたの理想的な睡眠時間を見つけるために、柳沢教授が提案する4日間の実験法があります。
1日目は、好きなだけ寝て睡眠負債を返済します。2日目以降は、毎日同じ時間に寝て、自然に目が覚めるまで寝ます。4日目頃に安定した睡眠時間が得られるので、その時間が自分にあった睡眠時間だといいます。もし4日目に7時間で自然に目が覚めたとしたら、あなたの最適な睡眠時間は7時間ということになります。
睡眠不足を解消し、質の高い睡眠を得ることで、日中のパフォーマンス向上、健康増進につながります。柳沢教授のアドバイスを参考に、今日から睡眠習慣を見直してみてはいかがでしょうか?