2022年に起きた安倍晋三元総理大臣の銃撃事件をきっかけに、高額献金などさまざまな問題が浮き彫りになった“旧統一教会”。3月25日、東京地裁が“解散”を命じました。刑事事件で立件されていない民法上の不法行為を根拠とするのは初です。解散命令で何が変わるのか?旧統一教会の元信者で詐欺・悪質商法ジャーナリストの多田文明氏、全国統一教会被害対策弁護団の勝俣彰仁弁護士、宗教法人に詳しい愛知学院大学法学部の藤原究准教授への取材を含めてまとめました。

◎多田文明:詐欺・悪質商法ジャーナリスト 1987年から約10年間、旧統一教会の信者として活動経験がある マインドコントロール・洗脳の手法などに精通

「訴えてきた人たちの声がやっと司法に届いた」

 2022年7月8日に安倍元総理の銃撃事件が発生。逮捕された山上徹也被告(44)は「旧統一教会への恨み」を供述していました。この事件をきっかけに旧統一教会が注目がされ、安倍派の議員が旧統一教会系の会合に出席していた事実なども明らかになりました。
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 そもそも解散命令とは、宗教法人を強制的に解散させ法人格を失わせる法的手続きのことです。宗教活動にかかわる収益はほとんど非課税ですが、解散命令が出されると、寄付・土地建物に税金がかかるようになる、つまり宗教法人が税制上の優遇を受けられなくなるということです。

 (多田文明氏)「これまでは税金もなしでお金を集めて、様々なことに使い海外にも送金している事実もある。解散命令でそうしたことができなくなることは非常に大きな痛手だと思います。何より元信者として、お金集めの行為が宗教法人としての目的を完全に逸脱しているとずっと感じていた。それを元信者や弁護士たちが長い期間訴え続けてきて、やっとその声が司法に届いた」

東京地裁「民法上の不法行為にあたる」と判断 教団側は真っ向から否定

 旧統一教会に解散を命じた東京地裁。その決定のポイントは以下の通りです。

 ■2009年のコンプライアンス宣言以前の献金勧誘行為について『類例のない膨大な規模の被害』
 ■宣言以降の献金勧誘行為は『問題の状況は相当に根深く、なお看過できない程度に残存』
 ■民法上の不法行為にあたる献金勧誘行為は総じて悪質で個人の財産権や生活の平穏などを侵害し著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる

 そのうえで東京地裁は、「解散によってその法人格を失わせるほかに適当かつ有効な手段は想定しがたい」としています。
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 一方の旧統一教会側はホームページ上に、以下の主張を公表しました。

 ■誤った法解釈に基づいて出された結果であると言わざるを得ず到底承服できるものではありません
 ■これまで解散事由になかった「民法の不法行為」が含まれましたがこれは、民法上の不法行為が宗教団体の解散事由に該当するということに他ならず日本の信教の自由、宗教界全体に大きな禍根を残すものと考えます

解散命令を受けて「信者は二極化するのでは」

 解散命令をめぐるこれまでの動きを振り返ります。2022年11月、文部科学省は解散命令を請求するか判断するため、組織運営や献金などについての報告を旧統一教会側に求める『質問権』を初めて行使しました(以降7回行使)。

 しかし、教団側は質問全体の2割にあたる100項目以上に回答しませんでした。これを受けて文科省は行政罰として10万円の過料を申し立てましたが、教団は争う姿勢を見せていました。
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 審理の争点は解散命令に必要な条件「法令違反」とは何かです。

 ■宗教法人法…法令に違反して著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為があった場合、解散命令を出せる
 ■質問権…解散命令を請求するかを判断するためのもの
 ■教団の主張…「法令違反」は刑事罰を伴うものに限られ民法の不法行為は含まれない
 
 3月の最高裁の判断は「民法の不法行為も含まれる」というものでした。これが3月25日の解散命令につながったと推測されます。

 しかし、多田氏は「解散命令を受けて任意団体になったとしても献金は続くだろう」と指摘します。

 (多田文明氏)「信者の中には強固に信じてお金を出そうとする人たちは出てくる。しかも喜んで捧げることが大事だと教えられてますので、自分の生活が苦しくなっても続ける。ただ、どこかで気付いたときに被害を回復できるようなことを考えないといけない」

 また、解散命令を受けて信者は「二極化」するのではないかといいます。

 (多田文明氏)「強固な信仰を持つ人と、解散命令を受けて1度振り返ってみようと思う人も出てくるはずなんです。生活が苦しい中で『旧統一教会の活動がおかしい』と司法判断が出たところで少し考え出し始める。ただ、マインドコントロール(=洗脳)が解けるには時間かかります。私も1996年に辞めて旧統一教会を訴えたのが1999年。ある程度の時間がかかったときに(教団側が)返すお金がありませんということだけは絶対にしてほしくないと思います」

今後どうなるの?過去のケースも見てみると…

 解散命令は出ましたが、教団は解散しない可能性もあるといいます。今後の流れを解説します。

 3月25日、東京地裁が解散を命じました。これに教団側か文科省が不服申し立て「抗告」をした場合、東京高裁で争うことになります。そして高裁の判決にも不服申し立てがあれば最高裁で争うことになりますが、解散命令は高裁の判断が出た時点で効力を発揮し解散の手続きが始まります。ただ、最高裁の判決で覆る可能性もあります。
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 日本で「解散命令」が出されたのは今回が3回目です。過去2回のケースを見てみます。

 ■明覚寺 解散命令請求~最高裁判断まで約3年
 ■オウム真理教 解散命令請求~最高裁判断まで約7か月

 旧統一教会は解散命令請求から約1年5か月で地裁判断が出ました。全国統一教会被害対策弁護団・勝俣彰仁弁護士に聞いたところ、年内か年度内に高裁判断が出るのではないかという見解です。

解散命令が決定も任意団体としては残れる 

 では、解散命令が決定した場合はどうなるのでしょうか。

 まず、裁判所によって選任された「清算人」が教団が持つ財産を処分します。被害者への賠償にも使われますが、解散決定前の財産移動についてはどうにもできません。また、法人格を失い税などの優遇を受けられなくなります。

 一方で、宗教団体の信者の集まりとしての活動は可能です。そのため、名前を変えたり規模を小さくしたりといった分派が生まれ、そこで別の問題が発生するのではないかと指摘する専門家もいます。
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 (多田文明氏)「解散命令の地裁判断まで1年半ぐらいかかりましたが、私も元信者として文科省からのヒアリングを受けた170人の1人です。当時のお金を集めるための資料も提出しています。調査は全国でやっているので相当数の人が資料を提出して適正に時間をかけて判断してくれたんだと強く思ってます。解散後に集められたお金が被害者にまた戻るのかというところの法整備は重要です」

専門家らが訴える法整備の必要性

 最後に「信教の自由」と被害防止について。勝俣彰仁弁護士は以下の4点の整備を訴えています。

 ■潜在被害者の救済…宗教法人の清算時、余った財産を今後の被害者救済に使えるようにする
 ■実態に即したサポート…被害者への精神的なサポート、脱会したい信者のサポート
 ■宗教法人清算時のルール作り…清算人の業務妨害に対する規定
 ■将来の被害を防止…正体隠しの勧誘、助言遮断の禁止などの法整備
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 また、寄付などに関係する宗教法人の財務状況について、愛知学院大学・藤原究准教授は「宗教法人に対して現状1年に1度報告の義務があるが、チェック体制がない。性善説にたった制度設計のためだが、透明性確保のためには法改正が必要」と指摘しています。

 多田氏はこうした指摘について次のように述べています。

 (多田文明氏)「宗教法人は本来、人の心を安らかにしたり救ったりするわけで、お金を集めることが中心になってくるような団体が出てくるってことはまず想定してなかったと思う。想定してないことでも起こりうるんだということを考えて、旧統一教会に関してはお金集めがひどかったというところを踏まえて法整備・法改正進めてほしいと思います」

 解散命令を受けて、旧統一教会は今後どう動いていくのでしょうか?