米の価格、全国のスーパーの平均価格は15週連続で最高値を更新する中、輸入米に注目が集まっています。しかしその是非をめぐっては農林水産大臣が「主食である自給可能な米を海外に頼ってしまうと、日本の米の国内生産が大幅に減少してしまう」と懸念を示すなど様々な意見があります。
今回は米の輸入に関する複雑な背景と、専門家たちの見解を詳しく見ていきます。
「輸入米に頼る」ではダメなのか…3氏の見解
輸入米に頼る、という観点では以下の3点が例示されています。1つ目は高騰する価格が引き下るのではないか、2つ目は、日米交渉におけるカードとして活用できるのではないか。そして3つ目は、「年間500~800億円の税金の節約」があるのではないか。という点。輸入米については、3人の専門家がそれぞれ異なる見解を示しています。
山下一仁研究主幹(キヤノングローバル戦略研究所):輸入すべき
山下氏は、国産米は増産しましょう。余れば輸出を推進しよう。農家の所得補償は直接支払いで守るべき。増産は食料安全保障にもなるだろう。という考えをお持ちでした。
2. 荒幡克己教授(日本国際学園大学):輸入あてにならない
荒幡氏は、コメはアジアの主食なのでいつも余っているとは言い切れない。国内の需要は減っていくので増産は少しで対応できるのではないか。輸入米が売れるとは限らない。農家については価格の適正と所得補償で守ろう、という考えでした。
3. 松平尚也助教(宇都宮大学農学部):外交カードは使わない方がいい
松平氏は外交の視点から。カードにしても日本の都合良く、とはいかないだろうとし、まずは備蓄米の放出の結果を待つべきだ。輸入米を買うことは海外への投資であり、本来なら日本の水田に投資すべきではないかとの考え方です。
3人の話を聞いた山中アナウンサーは、「日本のコメは世界のコメと戦えるのか」という点がポイントだとし、日本のコメが世界一というのなら、外国米を輸入しても負けず、輸出しても売れますが、そうでなければ、売れないかもしれないし、外国米が増えて国内農家の衰退につながる、とまとめました。
コメと関税 ウルグアイ・ラウンドと日本の判断振り返る
さて、米輸入を理解するためには、複雑な関税制度について知る必要があります。かつて日本は、「一粒たりとも入れないぞ」との姿勢でした。各国が関税をかけずとも「非関税障壁」で自国の産業を守る姿勢で、日本はコメ輸出入が許可制でした。しかし自由な貿易を目指す観点から一つの基準の「関税」に置き換えてその対応しよう、となり、その話し合いが『ウルグアイ・ラウンド』です。
そこで決まったのは、『貿易品は高くても関税で統一しましょう』ということと『各国が非関税で輸入しなければならない最低量:ミニマム・アクセス』です。日本は自国産業を守る姿勢でしたが、同時期に日本で1993年「平成のコメ騒動」がありました。記録的冷夏でタイ米などを輸入することになったのです。
1993年細川政権は「コメは一粒たりとも入れない」との方針。そんな中で、関税の考え方として、一番高いコメ(日本産最高級コシヒカリ)と一番安いコメ(泡盛用のタイ米)の差を出し、1キロ当たり341円を関税としたということです。この額はいまも使われているということです。
年間500~800億円の節約!?
いっぽう非関税で入れる「ミニマム・アクセス米」について、政府は必ず輸入しないといけない年間77万トンのうち、10万トンを主食用に、67万トンを加工用や飼料用として利用して、農家を守ろうとしていました。ただこの米は海外からはそれなりの額で買い、国内では安く払い下げているため、価格差が発生。年間500億円から800億円を国として支出してきました。これまで計7000憶円の損になっているということです。
しかしコメ価格高騰の中、4月15日の財務省審議会では「主食用」(これまで10万トン)の割合を拡大する提言がだされました。財務省から出たというのも特徴的で、こうした税の支出事情が背景にあるかもしれません。
米の輸入は、価格面だけでなく、食料安全保障や農業政策、さらには外交にまで影響する複雑な課題です。消費者としても注目していく必要がありそうです。