夏の甲子園へ向けた熱戦が、各地方大会で進んでいる。実況アナなどとして、高校野球取材歴38年の毎日放送(MBS)森本栄浩アナウンサーは、激戦区の大阪について、「本命・大阪桐蔭。対抗・近大付」と独自展望。全国では、夏連覇を目指す仙台育英や横浜、広陵などを注目校に挙げている。《聞き手/MBS報道情報局 澤田隆三プロデューサー》

《澤田》今回は、大阪以外の近畿地区について話を進めたいと思います。まずは兵庫県から。森本さんがいちばん注目しているところですね。

《MBS森本栄浩アナウンサー》兵庫県のチームはかなり見てきました。はっきり言って今年の兵庫のレベルは高いです。全国一といってもいいでしょう。春のセンバツでは報徳学園が準優勝しました。タイブレーク2試合に勝って、非常に勝負強いチームです。去年の秋以降の県大会でも大事な試合は全部勝ってきました。

報徳学園・盛田智矢投手(森本アナ撮影)

ただ、エースの盛田智矢投手がセンバツでは調子が良くなかったんです。その分を下級生の投手ががんばりました。間木歩投手と今朝丸裕喜投手、それに星山豪汰投手も出てきました。ですがやっぱり最後の夏ということで3年生の盛田投手が頑張らないと。盛田投手の復調が報徳学園の一番のポイントだろうと思います。ただ、僕としては神戸国際大付属が一番だと思うんですけどね。

《澤田》えっ、神戸国際大付属ですか。

《森本》このチームは報徳学園と対照的に、秋以降の試合は大事なところで勝ちきれてないんですね。報徳学園とは接戦であと一歩のところで負けました。でも、力は間違いなくあります。津嘉山憲志郎投手は沖縄出身の2年生で、ちょっとずんぐりした体つきなんですが、非常にコントロールがいい。マウンドさばきも落ち着いているんです。

神戸国際大付属・津嘉山憲志郎投手(森本アナ撮影)

 去年の秋の近畿大会で大阪桐蔭と対戦して敗れはしましたが、打たれたヒットは6回で3本でした。それ以外の試合でも、あまり打たれたところを見たことがないのですよ。打線もいいですし、エースナンバーの中村和史投手もいるし、高松成毅投手もいて投手力は充実しています。

《澤田》報徳学園と神戸国際大付属に続くチームは?

《森本》もう一人、兵庫には全国屈指といわれている右腕の坂井陽翔投手がいます。その坂井投手を擁する滝川第二は注目です。なにせボールが速い。コントロールも悪くないですし。監督は元平安の服部大輔さん、若い方で投手出身ですし、今までずっと見てきたチームではないので、どんな試合をされるのか注目しています。

あと、兵庫県は伝統的に公立高校も強いんですけど、センバツに出場した社(やしろ)は、2人の投手がいいですし、明石商は伝統的にしぶといチームです。

京都は「やはり京都国際が強いですね」

《澤田》では、京都はどうでしょうか。

《森本》今年は、京都のレベルは若干落ちるかなって思っているんですけど、その中ではやはり京都国際が強いですね。投手が揃っています。左腕エースの杉原望来(みらい)投手は、昨年のエースでプロに行った森下瑠大投手にスケール感では及ばないものの、力はあります。

龍谷大平安は秋以降チームが変わってセンバツでもいい試合をしました。特に岩井聖投手。鳴り物入りで入学してきて1年生の夏はすごかったんですが、その後しばらく調子がよくなく、先のセンバツで活躍し、復活しました。140キロ台後半のスピードです。京都大会の組合せは、決勝までこの2チームは当たらないんですが、京都国際が一つ抜けた存在かなと思います。あと力があると見ているのは京都翔英です。組み合わせでは公立の強豪・乙訓と3回戦で当たる可能性があります。そうなると注目のカードです。

5連覇中の近江への挑戦権は

近江・横田悟選手(森本アナ撮影)

《澤田》では、お隣の滋賀県。このところは、近江の独壇場です。

《森本》 はい、近江は2020年夏の独自大会を入れて、滋賀で5連覇中ですよね。この春の大会も優勝して、滋賀大会でも第1シードを獲得しました。滋賀では第1シードになると試合はすべてその日の第一試合なんです。試合時間は決まっていますし、対戦相手より先に試合が終わりますから、相手の動向なども見られますし、有利とされているんですね。

去年の山田陽翔投手のようなスーパースターはいませんので戦力は少し落ちますけど、滋賀大会は上までいくと思います。守りの柱は左の河越大輝投手。打撃では1年生のときからショートを守っている横田悟選手が柱ですが、打線は長打力がやや弱い感じです。

対抗は彦根総合です。投手力は近江を上回ると思います。ただ、センバツでは打てなかったので打線の強化が課題。この学校は、過去に北大津を率いて甲子園に6回出場している宮崎裕也さんが監督を務めていますし、この4月には九州学院(熊本)監督としてあの村上宗隆を育てた坂井宏安さんが校長・野球部総監督として赴任し、話題を集めました。あとは綾羽や立命館守山も力はあります。このあたりのチームのどこが勝ってもおかしくない情勢です。どこが近江への挑戦権を得るか、注目です。

奈良…2強に迫る公立勢 伝統的に強い

智弁学園・松本大輝選手(森本アナ撮影)

《澤田》次は奈良を展望しましょう。

《森本》 ここは、天理と智弁学園の2強です。去年の秋は天理、この春は智弁学園が勝っています。智弁は春の近畿大会も優勝しました。秋は投手がやや不安定だったんですが、肘の状態が思わしくなくショートを守っていた中山優月選手が春に投手として復活しました。小坂将商監督は、「まだ無理はさせられない」と言ってましたけど投手の軸はできました。打撃では一番を打つ松本大輝選手がすばらしいんですよ。トップバッターとしていきなりガツンと打ちます。

 天理にも同じ松本姓の松本大和という選手がいるんです。こちらも左バッターで非常にいい選手です。投手力がやや弱いかな、という印象です。組合せの結果、この2チームは勝ち進みますと決勝まで当たらないことになっています。秋以降の直接対決は1勝1敗なので、さあどうなりますか。

《澤田》 奈良は時々、公立校が2強を破りますよね。

《森本》公立といえば以前は郡山でしたね。いまは少し選手層が薄くなってしまいましたが。最近では御所実業がいいです。高田商業は毎年のことですが投手が揃っています。今年は高田商業OBの三浦大輔監督のDeNAががんばっていますしね。天理は伝統的に高田商業を苦手としています。互いに勝ち進めば準決勝で対戦することになります。あと畝傍も地力はありますし、去年夏、決勝に進んで話題になった生駒にも注目したいと思います。

和歌山は全国で唯一「全試合を生中継」

智弁和歌山・清水風太投手(森本アナ撮影)

《澤田》では最後に、和歌山の展望です。

《森本》 和歌山も近年は2強なんですね。智弁和歌山と市立和歌山。以前はまず秋に市立和歌山がチーム力として先行して、これを智弁和歌山が夏の県大会で追いつき追い越して甲子園へ行くというケースが多かったんですが、今回はちょっと逆になっています。秋は智弁和歌山が良かったんです。しかしこの春の直接対決では市立和歌山に負けたんですね。内容的にも完敗に近かったので勝った市立和歌山はけっこう自信になったのではないかと思います。

軸になる投手が2人。右の栗谷星翔投手が良かったですね。それと打線がよくつながります。特に下位打線がしぶとくて相手からみたら嫌な打線です。春の近畿大会ではセンバツ準優勝の報徳学園の投手を序盤の集中打で攻略しました。

 一方でずっと王者として君臨している感のある智弁和歌山なんですけど、やはり力はあります。投手の出来次第じゃないでしょうか。春はエースの清水風太投手が外れていました。また4番を打つ中塚遥翔選手も外れていたので、メンバーは揃ってなかったんです。清水投手などの投手陣がどれだけ復調なるか、ですね。組み合わせでいえば、和歌山は4強が揃った段階で再抽選になりますので、そこで市立和歌山と智弁和歌山が残っていれば準決勝で当たる可能性があります。この2校以外のシード校は箕島と和歌山南陵です。僕は近大新宮と初芝橋本も力があると思います。でもこの2校は2回戦で当たる可能性がありますね。

 ひとつ余談なんですが・・・。和歌山は『野球県』といってもいいくらい、特に高校野球熱が高いところ。全国で唯一、夏の県大会の試合すべてをテレビ、ラジオとも中継するんです。試合はすべて紀三井寺球場で行いますので、それが可能なんですけど、球児にはうれしいですよね。

《澤田》それはすごいですね、知りませんでした。地元のテレビ、ラジオ局ががんばっているのですね。まだまだ森本さんに「高校野球トリビア」もうかがいたいところですが、それはまたあらためて。きょうはありがとうございました。