巨額横領事件に関与したとして大阪地検特捜部に逮捕・起訴されたものの、無罪が確定した不動産会社元社長が、捜査の違法性を訴え国に賠償を求めていた裁判。
大阪地裁は3月21日の判決で「違法性はなかった」として国の賠償責任を認定せず請求を棄却しましたが、3月31日、この判決を不服として元社長側が控訴しました。
◆特捜部が逮捕・起訴も無罪が確定 「違法な逮捕・起訴だった」国を提訴◆
「プレサンスコーポレーション」の元社長・山岸忍さん(62)は、学校法人の土地取引をめぐる巨額横領事件に関与したとして、大阪地検特捜部に逮捕・起訴されたものの、2021年に無罪が確定しました。
山岸さんは「関係者に虚偽の供述を強要した結果なされた違法な逮捕・起訴だった」として、7億7千万円の賠償を求めて、2022年に国を提訴。
この国賠訴訟では、田渕大輔検事(52)が、当時山岸さんの部下だった男性を取り調べた際の映像が提出され、一部が法廷で再生されました。当該の取り調べが始まる前は、部下の男性は自身の関与や山岸さんの関与を否定していました。
【2019年12月8日の田渕大輔検事の取り調べ】
田渕検事「(バンッと机を1度叩き)嘘だろ。……今のが嘘じゃなかったら、何が嘘なんですか」
山岸氏の当時の部下「事実は実際に、何も変えて言ってるわけではないので」
田渕検事「変えてるじゃないか!!思い切り変えてるだろうが!!変えてるだろう!!」
部下「自分の考えで…」
田渕検事「変えてるじゃないか!!いい加減にしなさい!!」
さらに、権力を振りかざすような脅迫的な言葉や、侮辱的な言葉が続きます。
【2019年12月8日の田渕大輔検事の取り調べ】
田渕検事「お試しで逮捕なんてありえないんだよ。俺たちは、そんないい加減な仕事はできないんだよ!人の人生狂わせる権力持ってるから!」
田渕検事「検察なめんなよ!命懸けてるんだよ、俺たちは!あなたたちみたいに金をかけてるんじゃねえんだ。かけてる天秤の重さが違うんだ、こっちは」
【2019年12月9日の田渕大輔検事の取り調べ】
田渕検事「はな(最初)からあなたは、社長(山岸さん)をだましにかかっていったということになるんだけど、そんなことする、普通?何か理由あります?自分の手柄が欲しいがあまりですか?そうだとしたら、あなたはプレサンスの評判をおとしめた、世間の評判をおとしめた大罪人ですよ」
田渕検事「会社がいろんな営業損害を受けたとか、株価が下がったとかということを受けたとしたら、あなたはその損害、賠償できます?10億、20億じゃ済まないですよね?それをしょう(背負う)覚悟で今、話をしていますか?」
田渕検事「だからあなたが、あなたの顔が、穏やかになりきってないって見えるんですよ。見えるんですよ。見てわかるんですよ」
一連の取り調べの後、当時の部下は事件への自らの関与を認めたほか、“山岸さんが事件に関与した”とする供述に転じ、特捜部はそれを重要な根拠として、山岸さんを逮捕・起訴しました。
しかし、“山岸さんが事件に関与した”とする供述は、山岸さんの刑事裁判で信用性を否定されました(当時の部下自身は有罪が確定)。
一連の取り調べをめぐり、田渕検事は「特別公務員暴行陵虐」の罪で刑事裁判にかけられることも決まっています。
◆「当時の特捜部の見立て自体には一定の合理性」大阪地裁は “違法性はなかった” と判断◆
しかし、3月21日の国賠訴訟の判決で大阪地裁(小田真治裁判長)は、田渕検事の取り調べについて「供述の任意性や信用性に多大な疑義を生じさせる態様だった」と指摘した一方で、「田渕検事の威迫により、山岸氏の当時の部下が虚偽供述をしたとまでは、明らかといえなかった」と判断。
「当時の特捜部の見立て自体には一定の合理性があるし、山岸さんの関与を肯定した関係者の供述について、信用できるとした判断も不合理ではなかった」「判断の誤りが、行き過ぎで、合理性が到底肯定できない程度に達していたとは言えず、山岸さんを起訴したことが違法だったとみることはできない」として、国の賠償責任を否定。山岸さんの請求を全面的に棄却しました。
この判決を不服として3月31日、山岸さんは大阪高裁に控訴しました。
控訴に際して山岸さんは、「国民の皆様に将来への不安を感じさせる著しく不当で正義に反する判決 だと思います。大阪高裁で破棄されることを強く望んでいます」とコメントしています。
山岸さんの代理人の中村和洋弁護士は、31日の会見で「必ず覆して、勝たないといけない裁判だと思っています。そうじゃないと日本の司法の将来はないと思っています。この事件で国家賠償が認められないんだったら、(捜査当局が)もうやりたい放題になってしまう」と話しました。
(松本陸)