まもなく開幕を迎える東京2020オリンピック。その大舞台で活躍が期待されるのが、7人制ラグビー日本代表のキャプテン松井千士(ちひと)。50m5秒8のスピードを武器にトライを量産。2019年ラグビーワールドカップで活躍した日本の韋駄天・福岡堅樹も「僕よりトップスピードが速い」と認めるスピードスターだ。
そんな松井が選んだ数字は「37」。誰よりもスピードにこだわる男が、世界と戦うために目指している最高時速。7人制ラグビーは15人制と同じ広さのグラウンドで行われる。そのため、15人制以上に広大なスペースが生まれ、そのスペースを走り切るスピードが求められる。実際にセブンズ日本代表の岩渕ヘッドコーチは、7人制を「究極の鬼ごっこ」と表現。また、番組ナビゲーターの伊沢拓司は、7人制ラグビーのスーパースター。アメリカ代表のカーリン・アイルズを取り上げ、アイルズが短距離でオリンピックを目指していた元陸上の選手であることを紹介し、いかにスピードが重要な競技であることを説明した。実際に松井もスピードを買われて、19歳の大学2年時から日本代表入り。しかし、世界最速の選手が最高時速37km/hと言われる中で、今年5月の合宿で松井が出したMAX値は34.6km/h。実際に世界大会へ出場した時にも世界の高い壁に阻まれてきた。
「アメリカや南アフリカ、フィジーの選手に比べるとまだまだトップスピードで勝てていない。僕が目指しているのは世界1位なので、日本代表にとんでもなく速いやつがおるなと思われるぐらいスピードにはこだわりたいですね」
ここまでスピードを追い求めるのにはある理由がある。2015年。松井はリオオリンピックの予選で9トライをあげてトライ王に輝き、日本のオリンピック出場に大きく貢献。誰もがオリンピックでの活躍を疑わなかったが、直前でメンバーから落選した。
「今振り返っても人生で一番悔しい経験ですし、5年経ちましたけど鮮明に覚えています。落ちた時もリオの光景も5年経った今も悔しいですけどね。」
その時に感じたことは、“絶対的な自信”が当時の自分にはなかったということ。最年少だったこともありメディアに大きく取り上げられていたが、内心は「メンバーに落ちるかも」という不安定な精神状態だったという。しかし、今はその経験があるからこそ、トライゲッターとしての絶対的な自信をつけるため、世界レベルのスピードを求めてきた。年間200日以上もある代表合宿を行い、合間のオフにもパーソナルジムに通いスピードトレーニングを行う。すべては夢舞台で世界を驚かせるため。人生最大の挫折から5年。松井が最高時速37km/hの壁を乗り越えた時、日本は大きくメダルに近づくはずだ。
「これまでの練習で一番速くでた時速は35.5m/h。正直、37km/hは出ていないですがオリンピックの舞台で、応援や緊張感で自分のゾーンに入れば、37km/hという数字も達成できると思います。悔しい経験をしたからこそ東京2020にかけてきたので、5年前からようやく立てるということを考えると一瞬一瞬楽しみたいですね。メダルを目標に頑張ります」
【プロフィール】
1994年11月11日生まれ 大阪市旭区出身
大阪・常翔学園高から同志社大へ進学。
50m5.8秒の快足を活かし、高校・U20日本代表など各世代の代表に名を連ね、19歳で7人制ラグビー日本代表入り。
2015年のリオオリンピックアジア予選では9トライをあげトライ王に輝くも、リオ大会のメンバーから落選。
2017年トップリーグの強豪・サントリーサンゴリアスに入団。
2018年から7人制に専念すると、日本のトライゲッターとしてチームに欠かせない存在となり代表のキャプテンに就任。
2020年にはトップリーグのキヤノンイーグルスにプロ契約で移籍。
2021年、東京2020オリンピックのメンバーに選出された。
183㎝ 86kg 趣味はドライブ・コーヒーを挽くこと