兵庫県相生市の看護専門学校で、複数の生徒らが教員からの“パワハラ”を訴えている。長時間の激しい叱責や「けじめ」と称した罰を受けたという。さらに、一人ではなく複数の教員が行っていたとみられることもわかった。その実態を独自取材した。

「お前らどういう責任とるんや」厳しく叱責する教員 卒業生「先生とは思えなかった」

 「お前らどういう責任とるんや?取れるんか?責任。いくらパワハラですよと言われようが変わりません私」
 
 パワハラになっても構わないと言いながら教室で生徒たちを厳しく叱責する男性の声。兵庫県相生市にある市立の看護専門学校に勤める男性教員のものとされる音声だ。

 学校の卒業生Aさん。男性教員から暴言を受けてきたという一人だ。
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 (卒業生Aさん)「人のことを人格否定したりとか、すごくばかにしてきたりとか。先生とは思えなかったです」

 Aさんによると、男性教員は生徒が忘れ物や遅刻をしたり実習でミスをしたりすると長時間説教を行うほか、クラス全員の前に立たせて謝罪をさせる行為を日常的に繰り返していたという。

 (Aさん)「2時間くらい職員室で立ちっぱなしで怒られ続けることってよくありました。淡々と本当に怖い表情で話をずっと一方的にされるので、すごく怖かった」

“けじめ”と称し罰を強要 生徒らはミスしないように互いを監視

 さらに、この男性教員はミスをした生徒だけにとどまらず、クラス全体に「あること」を強要していたという。それは…

 (男性教員の音声)「区切りや。けじめとしてやれ」

 (Aさん)「クラス全員で連帯責任を取らされる。けじめっていうのが掃除をするだとか、学校の雑用というかクラスの雑用が多かったように感じます」

 生徒一人がミスをすればクラス全員に「けじめ」と称して”罰”を課していたというのだ。さらに、こうした行為を行っていたのは男性教員だけではないという。
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 在校生のBさん。複数の教員が生徒への激しい叱責に加え、「けじめ」を強要していたと話す。

 (在校生Bさん)「心がむしばまれていく状態で、『死にたい』って相談してくる友人がいたり、毎日誰かが泣いていたり」

 Bさんたちは「けじめ」を回避しようとお互いにミスをしないか監視し合うような生活が続いていたという。

 (Bさん)「当時はそれ(監視)をすることが本当に正しいと思って必死になっていました。それがつらかったです。ただ看護師になりたくて入っただけなのに、そのことで人生が変わってしまったなと感じたこともありました」

 Bさんはこうした生活から不安神経症などと診断され、心療内科に通いながら通学している。

コロナ禍のとき”マスクなし”で催しを強要 その後クラスターが発生

 また、生徒たちへの「強要」は学校の中だけにとどまらなかったという。おととし4月、学校が実施した宿泊研修での出し物の際、当時はコロナ禍でマスクの着用が呼びかけられていたが、マスクを着用せず、密集した状態で行われた。一部の生徒から反対の声があがったが、「伝統行事」として強行されたという。宿泊研修に参加していた生徒の保護者は、研修の行き帰りのバスでマスクを外して校歌を大声で歌うことも強制されたと話す。
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 (在校生の保護者)「私たちも娘に(コロナを)うつしたらダメっていう感じで、とにかく家にもコロナを持ち込まないっていう危機感はすごくあったのに、『何やってるの?』っていう」

 結果として研修に参加した生徒と教員の計60人が新型コロナに感染するクラスターが発生した。学校側は当初、保護者に十分な説明を行わなかったという。

 (在校生の保護者)「何人ぐらいが(コロナに)なってるのかもちゃんと公表されない。それこそ何でも(”けじめ”などと)連帯責任を言う割に、そういうところは隠す。謝罪もない。どんな学校なんって」

全校生徒の約半数が“ハラスメントがある”と回答

 複数の生徒らによるハラスメントの訴えを受け、学校を運営する相生市は今年2月、全校生徒を対象にしたアンケートを実施。「学校内に『ハラスメント』はあるか」という問いに対して約半数にあたる55人の生徒が「はい」と回答した。

 生徒らの訴えをどう捉えているのか。学校の副校長が取材に応じた。

 (相生市看護専門学校・石丸正見副校長)「学生さんがそんなにしんどい思いをして学校に来ていたんだなと思うと心苦しいなという感じがします。教員には今年は1人ずつ面接をさせていただいた上で、今の状況の把握と改善を各個人にしようというのは私の中にあります」

 市は不適切な指導をしていた教員ら4人に口頭訓告などの措置を行った。教員らは「意味があっての指導だった」と話していたが、反省して措置を受け入れているという。
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 (相生市健康福祉部・山本大介部長)「今は昭和の時代ではないので時代にあった教育・指導の方法にあわせて、教員が変えていく必要があると思いますので、そのあたりを意識づけできるように指導していこうと思います」

看護学校に通っていた息子が自死 父親が始めたのは…

 看護学校でのパワハラ問題はこの学校だけに留まらない。岐阜県に住む高橋裕樹さん。おととし7月、県内の看護学校に通っていた長男・蓮さん(当時19)が自ら命を絶った。

 (高橋裕樹さん)「『学校どう?』と妻がLINEしたら『学校がつらい』と言っていた。病院から電話がかかってきて、『息子さんが高いところから落ちて心肺停止の状態だから大至急来てください』と言われた」

 蓮さんが遺した記録には、看護実習の初日から重篤な患者の担当を割り当てられ適切なサポートがされていなかったほか、教員から人格を否定されるような発言を受けていたことが記されていた。

 高橋さんは「息子のような生徒をなくしたい」という思いから、全国の看護学生からハラスメントの相談を受け付ける団体「全国看護学生はぐくみネット」を立ち上げ、学校や自治体などに問題の改善を要望する活動を行っている。

 (高橋裕樹さん)「やはり看護学校のあり方を変えていかないといけない。(学校の)内部で処理するともみ消したりとかいうことになるので。私たち第三者が関わることで『外部が見てますよ』と示す」

 団体を立ち上げた去年4月から今年1月までの約10か月間で、全国の看護学生から寄せられた相談は331件にものぼったという。なぜ、ハラスメントが起きるのか。実習での成績評価などが教員の主観によるものが大きく、学生の立場が弱いからではないかとみている。
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 (高橋裕樹さん)「教員に対して言いたいことがあっても言えないとか、目を付けられたら、自分がひどい目に遭うかもしれないと思いがち。少なくとも学生からするとすごく抑圧された立場にあると思います」

 看護学校でのハラスメント問題。将来の医療を支えていく学生たちの教育環境を改善することがいま、求められている。