2022年05月25日(水)公開
高校で必修化『探究』って何? いち早く取り入れた高校で「国公立大の現役合格が20倍」に!? 4000人が参加する「探究の専門塾」も!?
編集部セレクト
今年度から高校で新たに必修科目となった『総合的な探究の時間』という授業。学習指導要領では「課題設定」「情報収集」「整理・分析」「まとめ・表現」で、この4つのプロセスを生徒たちが学ぶことができるのであれば、授業のやり方は学校側に委ねるということになっています。今回、取材班は実際に行われている“探究”の授業風景や、必修科目になる以前から“探究学習”を行ってきた高校などを取材しました。
必修科目“探究の授業”は『自分たちで課題を見つけて解決する』
大阪府八尾市にある「大阪府立八尾高校」で行われている“探究”の授業風景。
(八尾高校 2年生・担任 大畠夏生先生)
「授業中眠たいな、けど授業をちゃんと聞かないと進路に影響するな。『眠たい』これを実現すると勉強できひん。『勉強したいな』というような事を達成したら寝られへんやんか。『両方できるように考えてね』というのがこのテーマになっています」
課題は「育児休暇をとる社員が増えて仕事が回らない」。この両方の解決策をチームで考えます。
解決手段は「学校」「結婚」「建築」など30種類のカードを自由に組み合わせます。
約15分後、考えがまとまったようです。1つ目のグループの生徒たちが使用したカードは「スマホ」「AI」「ダンス」「スポーツ」「お祭り」の5枚でした。
(生徒の発表)
「まず、育児休暇を取りたい人は、スマホで会社の会議とかをリモートで参加して、AIで人手不足を解消して。会社内での活気づけのために、ダンスやスポーツ、お祭りをして解消できると思います」
一方、2つ目のグループの生徒たちが使用したカードは「ロボット」「ダンス」「建築」「ドローン」の4枚でした。
(生徒の発表)
「人間の代わりにロボットに任せる。そのためにロボットが働きやすい建築や、家にいる休暇中の社員に資料を送れるドローンをつくる。また、会社で違和感がなく働きやすくするために、ダンスなどができる人間味のあるロボットを導入する」
『自分で課題を見つけ、自分で解決を目指す』。これが今年度必修化された“探究”の授業です。決まった教材はなく、八尾高校では「金沢工業大学」が開発したSDGsカードを利用。先生たちも手探りです。
(八尾高校 2年生・担任 大畠夏生先生)
「今までやってなかったことなので、ベテランの先生からのいろんなアドバイスとかもなかったりする中で、新しいいろんな教材を探してきたりするのがすごく大変だとは思っているんですけど。けっこう生徒たちは意外と慣れている感じで楽しんでもらえているので、そういうような探究の授業をどんどんできたらいいなと思っています」
23年前に「探究科」を新設した京都市立堀川高校
その“探究学習”を23年前から独自で行ってきた学校があります。「京都市立堀川高校」です。堀川高校では1999年に「探究科」を新設。探究を学んだ初の卒業生は、国公立大学への現役合格者数が約20倍となり、全国の教育者に注目されました。
現在は、週に2時間「探究基礎」の授業があり、高1の後半から分野ごとにゼミに分かれて、一人ひとりが興味のあるテーマに打ち込んでいます。
(高校2年生)
「(Q何を作っている?)アメンボの模型です。アメンボも水の表面張力を利用して浮いているんですけど、それを人に応用して浮くことって出来ひんかなというようにつなげられたらいいなと思って」
こちらの生徒はパソコンを使ってなにやら難しそうな計算をしています。普段勉強している数学を活かして式を組み立てていきます。
(高校2年生)
「宇宙のガスについて調べようとしています。星が爆発したときのガスの広がりとか、星があったときの重力で動く様子などに使えたらいいなと思っています」
教員だけでなくアルバイトの大学院生も生徒たちをサポートします。
(大学院生)
「大学生の数学でもなかなかやらないようなところまで踏み込んでいるなという印象があって。正直僕もついていくのでやっとという感じですね」
廊下には1年生の興味や関心など5000個が貼り出されています。
【生徒たちの関心】
「どうして鼻の穴は二つなのか?」
「なぜいびきの音は自分で意識しないのか?」
「顔が良い(イケメン・かわいい)と感じる条件はあるのか?」
取り組むテーマは違いますが、共通点は“探して究める”こと。研究を重ね、高2の秋にひとつの論文にまとめます。
(堀川高校 濵田悟先生)
「こちらが過去3年分の生徒の論文集を図書館に置いていまして、いつでも在校生が見られるようになっています。この春に卒業した生徒たちの分ですけど、中にはこの探究基礎でやったテーマを追求したいということで、大学の特色入試や推薦入試にチャレンジする生徒もいます」
探究の専門塾では塾生が6年前に比べて約20倍に増加
探究は”好きなこと探し”から始まります。探究の専門塾「探究学舎」で学ぶ小学5年の森脇光琉さん。
(森脇光琉さん)
「(Q将来何になりたい?)ゲームクリエイターとか。着せ替えのアプリが好きで」
週に一度のオンライン授業。この日のテーマは「単位」です。
【学習塾「探究学舎」のオンライン授業の様子】
「『ボルト』。これは何の単位か、選択肢はこちら!みなさんよく見てくださいよ。正解は『電気』でした。みなさんの結果はこちら!」
6年前、塾生は200人ほどでしたが、現在は4000人を超えて海外からオンラインで受講する子もいます。
(先生)「『カラット』。この単位は一体何でしょうか。光琉ちゃん!」
(光琉さん)「カラのぺっとぼとる」
単位の授業は専門的な話にも及び難しそうに見えますが、何かに興味を持つきっかけになればいいと母親は話します。
(光琉さんの母 森脇文子さん)
「細かいところは覚えていなくても、数字の何かが面白いとか海の生物の何かが面白いとか、そういうきっかけになっているので」
『勉強一色の時代はもう終わらせなければいけない』
探究の専門塾「探究学舎」の宝槻秦伸代表は、“探究”が必修科目となったことを「記念すべきアップデート」だと話します。
(探究学舎 宝槻秦伸代表)
「20年前に言葉として発している人なんてほとんどいなかったと思うんですけど、ここから先は『探究』という言葉が『勉強』と同じくらいみんなの口から出てくると思います。勉強一色の時代はもう終わらせなければいけないんですよ」
変化の激しい時代に生まれた生徒たち。自ら課題を考え、解決を目指す力をつけて、予測困難な時代を生きることが“探究”導入の狙いでした。
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