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東京都知事選 ふわっとした民意つかんだ「石丸現象」メディアに突きつけたもの

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7月7日、七夕の夜。石丸伸二陣営の会場。小池氏に敗れはしたもののどこか高揚感につつまれていた。集まった300人ほどの支持者にとって石丸氏は長らく待ち望んだ彦星のようだった。

「石丸現象」ポッドキャストでも話しています。【↓↓↓音声を聞く】
『ナニワ記者永田町に猫パンチ!』

石丸伸二氏「これまで選挙に縁がなかった方が今回投票に行かれたという動きはあったんだと思うので、そこは今回に限らず、これまでずっと願っていた願いが叶ったなというふうに感じます。政治再建というのは、誰か特定の個人が政治を変えるっていう話じゃなくて、政治ってのはあくまでもそこの住民、市民、都民、国民の意識でしかないので、その意識が少しでも変わってきたのであれば、それは自分にとってはものすごく大きな成果です。」

 これはその夜、今回の都知事選で起きた「変化」について私が質問した際の石丸氏の答えだ。

 単一の選挙としては日本最大の有権者数で争われる東京都知事選挙。

 マンモス選挙のあり様を変えたインパクトは大きかった。石丸氏が起こした最大の変化、それは政治に高い関心があったわけではなく、これまで積極的に選挙に参加してこなかった人々を「その気にさせた」ことだろう。

街頭で感じた「石丸現象」 変わる選挙スタイル

その変化は街頭演説の現場ですぐに気づいた。

 6月29日、目黒区大岡山。土曜日の夕方、演説が始まる1時間も前から駅前のロータリーには人垣ができていた。一見して若者や女性が多い。組織や政党が動員をかけているようには見えない。ボランティアスタッフが明るく声をかけてはチラシを配布している。

 そして…「キャー」とどこからともなく嬌声があがると、予定時刻よりすこし早く石丸氏を乗せた街宣車が到着した。

 「おー石丸やー」若い男性からも動画で見た人物を生で見た感慨が漏れる。白の半そでシャツにスラックスという爽やかクールビズスタイルで現れ、笑顔で手を振る石丸候補。

 演説冒頭、石丸氏は聴衆に「初めて来た人は?」「Youtube動画を見たことをある人は?」と挙手を促し、コールアンドレスポンスで距離を縮めていく。

 自己紹介から経済の話をゆっくりと淡々と語り、決して絶叫することはない。たくさんの人が集まっていることが嘘のように、みな静かに耳を傾けている。

 そして、政策を具体的に深く語ることはせず「続きはWEBで」とまるで保険会社のCMのように演説をまとめにかかる。最後は自らに投票して欲しいなどと直接的な表現はせず、「みんなで東京を変えましょう!」「選挙を楽しんで欲しい!」と呼び掛けて次の会場へと向かっていった。

演説を聞いた人やボランティアの人の反応は?

 そばで演説を聞きに来ていた人に話しを聞いた。動画を見てファンになったという30代の男性は、「組織がついていなくて面白そう」という。また男子大学生2人組は、「カリスマ性がある」「自分の考えがしっかりしていて期待できる」と話した。

 演説会場で後片付けをしていたボランティアの方にも声をかけた。60代の男性だったが、なんと兵庫県神戸市から駆け付けたのだという。男性はYoutubeを見てファンになったといい、石丸氏が厳しい顔の中に時折優しい笑顔を漏らすのがなんとも魅力的なのだという。

 ボランティアの男性(64)は「もうすぐ年金暮らしの身だが日本の将来を考えると変えるとすれば、いましかない、この人しかいない」と思い立ち同じ空間に立ち会いたいと切に願ってやってきたのだという。

 別の日にも数か所で石丸氏の街頭演説を取材したが、どこも同じような現象が起きていた。これまで政治や選挙にかかわってこなかった聴衆とボランティアがともに推し活をしているかのように盛り上がりを見せていた。

 街頭演説を初めて見に来た女性2人組(7月5日千代田区での街宣)

 「(Q生石丸さんは?)はじめてです、かっこよかった」

 「言っていることが本当になりそうな期待感をもたせてくれる、というか言葉が強く素直なので期待してしまう」

 別の女性2人組(7月5日千代田区での街宣)

 「政治まったく興味なくて、恥ずかしいんですけど選挙いったことなくて石丸さんは初めて興味持たせてくれた方です。」

 「(Q小池さんや蓮舫さんよりは?)そんなのダントツ」

 「(Qどこが違いますか?)えっ?違いません?わかんないんですか?」

 特に6月30日、選挙戦のラストサンデーだった銀座4丁目三越前の演説。午後4時からの演説には同じ日の3時間前に同じ場所で演説した蓮舫候補とほぼ同程度の人が集まった。いやむしろ交差点をはさんで石丸氏の街宣車の後ろから見ていた人がたくさんいたり、足を止めてふらっと立ち止まる人の多さでは上回っていたように思う。こういう現場の熱量は案外、選挙結果に反映されるようにも思う。

 石丸氏の街頭演説は大体20分以内、応援弁士が話すケースはほとんどなくすぐに石丸氏が登場して語り始める。自己紹介、政策、伝えたいメッセージの3パートで構成され、それぞれのパートでうぐいす嬢のアナウンスで仕切りが入る。

 そして撮影タイムを設けて動画、写真の拡散を図り、昼の街頭活動から夜のLive配信へと意識的につなげるコメントもみられた。

 石丸氏に街頭演説について聞くと…

 石丸伸二氏「(Q街頭とオンラインとでやり方、役割を変えているか?)それはあまり意識してない、そこにいる人、聞き手、視聴者にあわせています。そこにいる人をイメージして話しています。自分でこれという決めはない」

既成政党とは様子が違う選挙事務所 ボランティアによる手作り感満載

 東京・市ヶ谷にある選挙事務所へ行ってみてもその「変化」は感じられた。

 ボランティアによる手作り感あふれる事務所で、そこに石丸ファンたちがひっきりなしに訪れる。政党幹部が毛筆で「必勝」などとしたためた、いわゆる為書きなどは無く、全国からやってくる人がメッセージを書いたポストイットであふれていた。

 「石丸さんにより目が覚めた」「日本を変えてください!」「結婚してください♡」などなど。また都内にポスティングするチラシを受け取りに来る人が次々に訪れていた。

 この暑い最中、平均300枚、なかには1000枚のチラシを受け取っては自分の家の近くなどに配布するのだという。実にボランティアには5000人以上が登録、個人献金は2億円以上集まったという。誰もができるわけではないのだが、いわば金のかからない選挙を実践してみせた形だ。

 今回、石丸氏の選挙参謀をつとめたのは選挙プランナーの藤川晋之助氏、東京維新の会の事務局長などを長らく務め、150以上の選挙を手掛けてきたいわば選挙のプロだ。

 そんな藤川氏は石丸氏をこう評する。

 藤川晋之助氏「選挙プランナーとしてやるべきことが少ない、全部自分で決めたがる。それだけ戦略家だし、かなり先を読むことができる稀有な存在」

 そのうえで蓮舫氏を抑え2位となったことについては…

 藤川晋之助氏「本人は満足していないが、事件ですよこれは、ネット選挙が始まり10年の歴史を変えた。改めてYoutubeなどSNSの凄さを知った、私のようなベテランには大変勉強になった」と話した。

 石丸氏の戦略をボランティアやSNS配信チームが支え、大きなうねりができていったということなのだろう。

「石丸現象」がメディアに突きつけた刃

 今回取材していて感じたのは、テレビを観ている層と観ていない層との間にある分断だ。

 石丸氏の演説会場などに来ていた人の多くが家にテレビが無かったり、あったとしてもほとんど見ていないと話す。放送局に勤めるものとしては改めて痛感させられた衝撃である。ついに大型選挙でネットから生まれた人物が支持を集め主要候補に躍り出るまでになったのだ。

 しかし、石丸氏がどんどん浸透し、ここまで支持を拡大する存在となっていることに敏感に反応できていただろうか。石丸氏も我々テレビメディアを指して、序盤はほとんど取材に来ず、注目もしていなかったと厳しく指摘している。テレビは選挙期間中に入ると量的、質的公平性を担保しながら選挙報道にあたっている。

 ただ、その公平性、平等性が時として壁となり(言い訳にして…)有権者や視聴者へ投票行動に資する有益な情報を提供できているかというと自戒を込めて十分にできているとは言えない。投票前の本当に選挙や候補者の情報が知りたい時期にニュースとしてあまり報道できず、選挙が終わり結果が出てからたくさん報道するというやり方を続けてきている。報道人としてはそこにジレンマを抱え続けているのだが変えられてもこなかった。

 一方、いまやテレビや新聞を観ず、スマホでYoutubeやSNSを中心に情報を摂取している人々が増え、そうした人々は知りたい情報、候補者のことをどんどん深堀りしていく。ネットのアルゴリズムにより石丸氏を好めばその情報に次々と触れていくことになる。そこにはテレビを観ている層、作っている側と観ていない層との間に確実に分断ができつつある。それを顕在化させたのが「石丸現象」だと考えている。私たちマスメディア、テレビメディアの外側で起きている社会変化をしっかりと捉えいかに伝えていくのか。知りたいと思う情報が無く、伝えるべきメッセージも無いメディアはやがて世の中から退場させられてしまうことになるだろう。選挙報道、そして日々の報道内容、手法、姿勢をアップデートさせていかなければならない。いますぐにその答えは見つけられてはいないのだが…

 今回ほとんど政治や選挙に関心が無かった層が石丸氏に期待感を抱き、政治不信が高まる中、社会参画した、させた点は素直に凄いことだと思う。そして、165万人の都民が名前を書いた事実は重い。ふわっとした民意をつかんだ勢いは本物だろう。一方でこれまで改革や変革を訴えた幾多の政治家がその期待を失望へと変えてもきた。それだけに夢や希望でパンパンに膨らんだ石丸風船を今後どう導くのか。石丸氏本人が負った責任はとても大きい。そしてメディアは彼が東京を、日本の政治を変える力を持った「本物」なのかどうか?その真贋を見極め伝えていく責務がある。

 大八木友之(MBS東京報道部長兼解説委員)

「石丸現象」ポッドキャストでも話しています。

『ナニワ記者永田町に猫パンチ!』
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2024年07月30日(火)現在の情報です

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