2025年04月23日(水)公開
【なぜコメの値段は下がらない?】落札9割JAと買い戻し制度を専門家が指摘 さらに『コメが安すぎると困る人たち』の存在?【元農水官僚の見解】
解説
コメの値段が高騰し続けていて、農林水産省の調査によると、スーパーなどで販売される米5kg当たりの平均価格は15週連続で値上がりし、4月21日時点で、4217円に達しました。これは去年に比べてほぼ倍の価格です。多くの家庭にとって、価格高騰は大きな打撃となっています。 農水省元官僚でもあるキヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹と日本国際学園大学の荒幡克己教授の2人の専門家に話を聞いた山中真アナウンサーは、その理由を探ります。
備蓄米放出の実態と「流通の問題」
政府は大手集荷業者などに対して約21万tの備蓄米を放出しました。しかし、驚くべきことに、3月30日までに放出された備蓄米のうち卸売業者、スーパーなどの小売りへ流通したのはわずか0.3%(426t)だといいます。
去年のコメの生産量は前年比で18万t増えていますが、大手集荷業者(JAなど)の去年の集荷量は前年比21万t減っています。こうした状況になっているため、農林水産省は「流通の問題」としています。トラックの配置や精米の準備がうまくいかなかったことも要因とされています。
しかし荒幡教授は「生産量の調査の制度にギモンがある」と指摘します。特に去年は「生産量が18万t増えた」とされていますが、去年は酷暑などがあったため、コメの質が落ち10万tほど使えないコメもあるのではないか、ともみています。
いっぽう山下研究主幹は「備蓄米21万tでは足りていないのではないか」と指摘しています。つまり「民間の在庫は去年からずっと40万tほど不足している」というのです。
「本気で安くする気がない」と見えてしまうワケ
専門家の中には、今回の備蓄米放出のしくみだけを見ると、「そもそも本気で安くする気がない人たちがいるんじゃないか」と思ってしまうのだといいます。
それは、・ほぼ“JAだけ”に売却した点、・買い戻し制という2点です。特に山下研究主幹は、この点を強調しています。
今回の入札では、大手集荷業者のみが参加できる仕組みとなっており、結果的に9割以上をJAが落札しました。
山下研究主幹は「本当に消費者の元に安く行き渡らせたいのであれば、今回の入札を、卸売業者や大手小売などに直接放出するというやり方だってあったはず」と指摘。結果的に落札量の9割がJAに集まったことをみて、備蓄米21万tは(追跡されるので)卸売りに出るとは思いますが、制度上、備蓄米以外でそもそもJAが持っている在庫を「出す・出さない」を決定できてしまうとしました。
元厚生労働省キャリア官僚で行政学者である神戸学院大学・中野雅至教授は、「JAをかばうわけではないが、そんな露骨なことは…」と疑問を呈しました。
もう1点、備蓄米放出には「買い戻し制度」が設けられています。これは、放出したコメを来年の新米収穫時に買い戻すという制度です。
山下研究主幹曰く、この制度についても「経済学では説明ができない変な仕組み」だと話します。仮に次の新米で集荷量が増えたとしても、買い戻しで市場からなくなることがわかっているため、値段は高止まりしそうだと指摘します。
コメが安すぎると困る『3者の存在』
山下研究主幹によりますと、コメの価格が”下がりすぎる”ことを望まない存在がそれは『JA』『農林族議員』『農林水産省』だといいます。
まず「JA」はコメの価格が低いほどコメの販売手数料が減ります。また米が安すぎることは、JAバンクの顧客である零細農家の存続にも関わるのではないか、というのがその理由だということです。
「農林族議員」にとって零細農家の存続が自らの選挙に直結する可能性もありますし「農水省」も農業の弱体化につながるため、現状維持を望む傾向があるのではないか、と山下研究主幹は言いました。
こうした見立てについて元官僚でもある中野雅至教授は、「バイアスかかっている意見」とし、「こうした指摘はよく農水官僚を辞めた専門家から出ているが、農水内部にもいろんな路線があり、JA中心に市場をコントロールしたい路線や、自由経済論者など様々な路線がある中で、政策がジグザグしているのが農水省の姿ではないか」としました。
そのうえで、「高くする機会は何度もあったのに、コメ価格が安いときに高くせず、低く抑えられてきたのが問題で、そもそも農林族議員の政策が原因なのではないか」と指摘しました。
今後のコメ政策は、農家だけでなく消費者の視点も取り入れたバランスの取れたアプローチが求められています。コメの価格の高騰問題は今後も注目されていくでしょう。
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