2022年03月14日(月)公開
大勢のリスナーに惜しまれ『FMひらかた』が25年の歴史に幕 東日本大震災の被災地と相互放送し防災など情報発信 最後の2か月間を取材
編集部セレクト
東日本大震災の発生から、今年で11年になります。これまで大きな災害が起きた時、地域に向けて安否情報や生活情報などを伝えてきたのがコミュニティFM局、ラジオです。大阪府枚方市の「FMひらかた」は、約8年にわたって宮城県岩沼市のFM局と相互放送を続け、災害や防災情報などを発信してきましたが、今年2月に閉局しました。カメラが最後の2か月間を取材しました。
地域コミュニティラジオ局「FMひらかた」宮城・岩沼市の「エフエムいわぬま」との相互放送
京阪電車の枚方市駅。改札口を抜けると、ガラス張りの小さなラジオスタジオがあります。地域コミュニティラジオ局『FMひらかた』の駅前スタジオ「サテスタ」です。
FMひらかたの看板番組は、毎週金曜日に放送している「エリア779」。同時にこの番組を放送していたのは、宮城県岩沼市のJR岩沼駅前にある、エフエムいわぬま「サテライトスタジオ」でした。
周波数が「77.9」と同じだったことから、8年前から宮城県岩沼市の『エフエムいわぬま』と毎週生放送でつないで相互放送が行われてきました。
(FMひらかた)
「きょう2月11日じゃないですか。あの日から…」
(エフエムいわぬま)
「月命日ですよね。きょうで10年11か月で来月3月11日でちょうど11年になりますね」
1年を通してエフエムいわぬまからは被災地の情報が枚方に伝ええられ、FMひらかたからは支援や応援メッセージなどが東北に伝えられてきました。
(エフエムいわぬま・パーソナリティ 吉田愛子さん)
「毎週しゃべるっていうことは、それだけ信頼というか仲も深まっていきます」
しかし、FMひらかたは今年2月末で閉局することが決まっていました。
「エリア779」など震災や防災番組の多くを手掛けてきたFMひらかた・プロデューサーの石元彩さん(47)。
(FMひらかた・プロデューサー 石元彩さん)
「大変な思いをされた東北の方の言葉をたくさんいただいてきて、いろんなヒントももらったので、それを生かせるように頑張ってきたのになあっていうつらさもあるんですけど」
阪神・淡路大震災を教訓に開局したコミュニティFM
コミュニティFMの役割が注目されるようになったのは、1995年1月の阪神・淡路大震災でした。当時、情報が錯綜する中、安否情報や生活情報などを伝えていたのがラジオの声でした。
(兵庫県災害FM放送局『FM796フェニックス』の音源 1995年2月)
「こちらは兵庫県庁の2階に開局しました、兵庫県災害FM放送局『FM796フェニックス』です」
阪神淡路大震災を教訓に全国各地で開局したコミュニティFM。
(FMひらかたの開局時の音源)
「ラジオが街にやってきた!FMひらかた『きくFM』開局しました。ハッピーバースデー!」
FMひらかたも地域のきめ細かい情報を伝えることができるようにと1997年1月、枚方市や地元企業の出資で開局しました。
FMひらかたは2018年の台風21号でも地域に特化した避難情報を発信
FMひらかたの実働部隊はチーフプロデューサー・笠井哲治さん(56)以下、石元さんら5人です。
送信所や停電の際に使う発電機の定期チェックから、災害時に社外にいても携帯電話で行う“緊急割り込み放送”などに備えてきました。
2018年、近畿地方を直撃した台風21号。FMひらかたでは地域に特化した避難情報などが伝えられていました。
深夜の生特番中の津波警報…枚方は海に面していないが「誰かが連絡してあげないと気付かない」
そして、閉局まで2か月を切った、今年1月15日。FMひらかたでは深夜ぶっ通しの生特番を放送していました。レギュラーパーソナリティーが顔を揃え、賑やかに始まった番組。しかし、日付が変わったころでした。
前日の午後にトンガで起きた海底火山の噴火の影響で、日本の太平洋沿岸でも津波警報や注意報が出たのです。石元さんに緊張が走ります。
(スタジオに伝える石元彩さん)
「津波警報出ているんやわ。これを入れるんで今どんな状態?」
(パーソナリティ)
「ちょっと番組の途中なんですけれども、ここで津波情報です。先ほど南太平洋トンガで発生した火山島の噴火の影響で…」
あらゆる手段で情報をかき集め速報原稿をスタジオに入れていきます。海に面していない枚方ですが、それでもラジオだからこそ地域に伝えられる情報があります。
(パーソナリティ)
「警報や注意報が発表されている地域に親戚や知り合いなどがいらっしゃる方はどうぞ電話やメールで危険を知らせてください」
6時間のトーク番組のはずが、番組内で9回も津波情報を伝えるなど災害特番になりました。
(スタジオの人たちに話す石元彩さん)
「予定外の津波情報が入ってきたので…。ありがとうございます。気分のオン・オフがしずらかったよね」
(FMひらかた・プロデューサー 石元彩さん)
「時差でこんな形で津波が来るケースがあるんだねっていうのもひとつですし、眠っている間に津波が来たら誰かが連絡してあげないと気付かない。想像の範囲を超えている状態だったので、1個『学び』にはまたなりましたけどね」
放送委託費を廃止に…市長「さまざまな情報伝達手段がある中で必要性を検討」
FMひらかたは災害・防災以外にも、これまで「LGBTQ」や「コロナ禍の学校生活」など社会問題を果敢に取り上げ、権威ある賞も数々受賞してきました。
そんな地域情報発信の拠点が閉局することになった理由とは…。
2015年に大阪維新の会の伏見隆市長が就任。枚方市は2020年、行財政改革の一環として、2022年度からのFMひらかたへの年間5000万円の放送委託費を廃止したのです。FMひらかたの売り上げの6割にあたります。
(枚方市 伏見隆市長)
「(ラジオの)他にもインターネット、SNS、エリアメールとか、さまざまな情報伝達手段がある中で必要性を検討した中で放送委託料の廃止に至りました」
市民1000人余りを対象に行った枚方市の調査で、「大阪北部地震で実際にFMひらかたの放送を聞いた」のが3.9%に留まったことなどが決め手となったといいます。一方、同じ調査で67.4%が「災害時にはFMひらかたによる情報発信が必要だ」とも答えています。
(視覚障がいのあるリスナー)
「僕らは目が悪いんですよ。だから耳からしか聞けないというのが大きいんですね。『僕ら障がい者は震災起きたらどうするの?』って枚方市に聞きましたけど、『それは各自のあれ(スマホ)があるから大丈夫や』って言うけれど、やっぱり健常者目線ですよね」
枚方市は、南海トラフ地震など災害が長期化した場合やネット・SNSがつながらなくなった際には、臨時災害放送局の設置も検討するとしていますが、具体的な方針は示されていません。
今年2月28日に25年続いた放送が終了…リスナー「不安でしかない」
そして今年2月28日の午後。枚方市駅はどこか荘厳な空気に包まれていました。
(リスナー)
「『南海トラフ来る』って私は思っているので、その時にFMひらかたがないのがどう影響するのかなと」
「何かあったら『FMひらかた聞いたら何とかなる』っていう気持ちがあったので、本当にFMひらかたがなくなったのは不安でしかないです」
FMひらかたは大勢のリスナーに惜しまれながら25年の歴史に幕を閉じました。
(チーフプロデューサー 笠井哲治さん)
「こちらはFMひらかたです。25年にわたり皆さまに放送をお届けしてきましたが、これをもちましてFMひらかたの全放送プログラムは終了致します。これまでお聞きいただきまして誠にありがとうございました」
毎年3月11日は枚方で震災特番を制作してきた石元さん。今年は初めて、お世話になった東北の放送局を訪れることにしました。小さなラジオ局がつないできた震災の記憶を刻むために。
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