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「売春して生活...客に妊娠させられた」赤ちゃん遺棄事件 遺体と過ごした『2か月』裁判で見えた女の"母性"の芽生えと"後ろめたさ"

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 コインロッカーに、紙袋が無かった。中には自分が産んだ子どもの遺体が入っている。いつもなら鍵を掛けるがこの日はお金が無かった。「バレてもいいや」――。そう思ったが逮捕されて思い直した。「やっぱり自分の子どもを助けられたら良かった」。

 起訴状などによると、28歳の女は今年6月、大阪・日本橋の駐車場にあるコインロッカーに、自身が出産した赤ちゃんの遺体をポリ袋に入れたうえ、紙袋に詰めて遺棄した罪に問われている。なぜ子どもを遺棄しないといけなかったのか。裁判を傍聴すると、彼女の壮絶な半生をうかがい知ることができた。

 北海道で生まれた女は、美容専門学校に通うも、おじが亡くなったことなどにより学校を辞め、風俗店で勤務して生計を立てるようになったという。派手な暮らしが抜けきれず、実家のお金を使い込んだことをきっかけに母親から叱責され、家出。東京を経て大阪へとたどり着いたのは約2年前だった。

 生活を支えていたのは、自らの「体」。売春をして生計を立て、大阪のビジネスホテルを転々とする日々を送っていた。そんな去年の夏頃、突如つわりに似た症状が出てきたという。”客の男に妊娠させられた”と気づいた瞬間だった。

『望まなかった妊娠』相談できず…出産 紙袋に入れ持ち歩いた日々

 裁判の被告人質問で、弁護人がこう切り出した。

(弁護人)「妊娠していると分かって何か行動は?」
(被告の女)「してないです」
(弁護人)「病院も?」
(被告の女)「経済的にも行くお金が無かったので行きませんでした。あとは、妊娠している事実を認めたくない気持ちがありました」

 誰にも相談できないまま時だけが過ぎていった。そして今年4月、女の赤ちゃんを出産した。しかし、赤ちゃんは産まれた時点で泣き声も出さず動かない状態だったといい、死んでいると思ったという。

 女はポリ袋に赤ちゃんを入れたうえ、さらに紙袋に入れて持ち歩くようになり、ホテルを変える際には遺体を入れた紙袋をコインロッカーに預けるという行動を10回ほど繰り返した。では、なぜ遺体を持ち歩くようになったのか。女は裁判でこう話していた。

 (被告の女)
「(警察に)バレたくない気持ちもありましたが、一番は亡くなった子どもに申し訳ないと思い、捨てられずにいました。」

 けれども、最後は生活に困窮し、コインロッカーのお金すらも払えず、鍵をかけることもできなかった。そして、死体遺棄事件が発覚することとなった。

 女は事件について振り返り、こう証言した。

(被告の女)
「赤ちゃんをちゃんと救急車、病院や警察とか呼んで助けてもらったらよかったな」

 身寄りのない大阪の地で、見知らぬ客の男に妊娠させられて身ごもった子ども。はじめは「妊娠を認めたくない」としながらも、出産後は「子どもに申し訳ない」と話した女の様子からは、少しずつ母性が芽生えて気持ちが変化していった様子を感じ取ることができた。

亡くなった子供に「申し訳ない…罪悪感があった」

 一方、検察側は、「バレたくない」と話した点を受けて、責任を追及した。

(検察官)「子どもをそうした(袋に入れたままの)状態にして、かわいそうだと思うことは?」
(被告の女)「ありました」
(検察官)「それなのに、なぜ(警察や自治体に)届け出なかった?」
(被告の女)「自分が殺したんじゃないかと思われるのが嫌で」
(検察官)「自分を守りたかったということ?」
(被告の女)「それもありますけど、自分が産んだ子なので、申し訳ないとか罪悪感がありました」

 検察側は懲役1年6か月を求刑。一方、弁護側は「望まない妊娠をさせられたことを考慮すべき」だとして執行猶予付きの判決を求めた。
IMG_2561.jpg
 最後に裁判官から発言を促された女は・・・

(被告の女)
「今回亡くなってしまった赤ちゃんに対しては申し訳ない気持ち、毎日供養したい気持ちです。これからちゃんと頑張って、夜の仕事や売春はせずに、ちゃんとした仕事をして頑張りたいと思います」

 実家を飛び出し、売春を生業(なりわい)にしていた『後ろめたさ』から誰にも頼れなかった。しかし、思い切って誰かに相談できていれば、女の赤ちゃんはこの世に生を享けていたかもしれない。小さな亡骸の尊厳を傷つけた罪は刑務所で償うべきか、それとも社会で更生しながら『生き直し』を目指す道を示すのか。大阪地裁で明日(9月26日)、判決が言い渡される。

2022年09月25日(日)現在の情報です

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