東京都内。コストもモノも「浮かせ」て、２階建てながら３階建てとほぼ同等の広い床面積を確保することに成功した、変形９坪という狭小ハウスがある。

　住人（アルジ）は50代の夫妻。夫は設計事務所、妻はイベント会社に勤務している。2年前、普段は病院や学校などの施設の設計をしている夫が、自宅の設計にトライ。元々住んでいたマンションの近くに新居を建てた。
　巨大なシルバーの壁が印象的な家は、間口が3メートル、奥行きは6メートルと薄い形をしている。しかも敷地は長方形ではなく細長い台形をしていて、建坪はわずか9坪しかない。外観にはシルバーと赤と黒が使われ、まるで往年のヒーロー・ウルトラマンのような色をしている。

　中に入ると、8帖もある広い玄関スペースが。天井高は4メートルもあり、まるでどこか公共施設のロビーのような開放的な空間になっている。そんな玄関からまっすぐ伸びる長い階段を上ると、2階のメインスペースにつながる。広々としたリビングダイニングキッチンはなんと16帖もあり、天井高も5メートルと開放感抜群だ。狭小地ながらメインスペースを大きな空間にしたのは、以前のマンションではできなかった大人数を集めてのパーティーがしたかったからだという。

　住人（アルジ）夫妻は20年以上都内の賃貸マンションで暮らしていたが、一人娘が巣立ち、2人で暮らす家を建てることに。購入した土地は狭い変形地だったため、当初は3階建てを建てるつもりだった。だが、建築費用が高額になってしまい断念。実は、住宅が密集したこの地域では、3階建てなら耐火構造にし基準をクリアした高価な材料を使うことが義務付けられているため、同じ高さでも、3階建てと2階建てとでは、コストが大きく変わってくるのだ。そこで住人（アルジ）は、高さは同じながら3階から2階建てにプランを変更し、なんと約1000万円浮かせることに成功！　しかも１階減らしてコストを浮かせただけでなく、家のさまざまなものを「浮かせる」ことで、床面積は3階建てとほぼ同じぐらい確保したという。

　メインスペースにある大人数が座れる大きなソファ。なんと階段上の空間に浮いた形で取り付けられている。浮かせたことで、リビング側のスペースをフルに確保することができた。
　ソファの反対側には、半分壁付け、半分オープンのキッチンを設置。パーティーのときでも友人たちと一緒に作業できる広さになっている。

　ソファの向かいにある細長いダイニングテーブルは長さが4メートルもある。長いテーブルの端は階段の一部として利用している。テーブルをステップにして、壁に片側だけ取り付けた浮いた状態の階段を上っていくと、その先には広いロフトがある。メインスペースをできるだけ広くするため柱は1本だけにして、ロフトは天井から吊り下げて浮かせた形にしたという。ロフトには場所を取るピアノやタンスを置いている。

　また1階から2階へ続く長い階段の途中にももうひとつ、天井高1.4メートルのロフトスペースを設けた。これら2つのロフトによって、3階建てと変わらない床面積を確保することができたのだった。

　1階の奥にあるのは、シックな色でまとめた浴室。脱衣室を含めわずか3帖のスペースだが、働く夫妻がゆっくりくつろぎたいとバスタブは高級ジャグジーを置いた。高さが3メートルもある天窓までの間には、アクリル板を浮かせて設置している。視界の広がりは確保しつつ、これで天井高が低くなり、熱効率もよくなったが、入浴する自分の姿が鏡のように写り込んでしまうことが難点だとか。

　人が集える家になったことで、近くの商店街の人や学生と知り合いになったり、家でコンサートを開いてそのお客さんたちと友達になったり。「ギュッとなった建物の中で暮らしてることが、実は自分の世界が広がってるっていう、そういう建物になってくれてますね」と住人（アルジ）は語る。
　いろんなものを浮かせたスペースが、忙しい夫妻に居心地のよさを与えてくれている。前向きに、元気にしてくれるあのヒーローのように……この家からまた、新たな世界へ飛んでいけそうだ。（MBS「住人十色」2024年6月29日放送より　TVerでも放送後1週間配信中）