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小学生による『伝統の駅伝大会』休止の背景に「練習の過熱化」 勝利至上主義で「特定の小学校の一部の子どもの大会に」 事前検診で「足の痛み」訴える選手も

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 京都の冬の風物詩として親しまれてきた「小学生の駅伝大会」が休止になりました。その代わりに誕生したのが“他校と競わない”記録会です。その歴史的転換の背景と、記録会に参加する児童を取材しました。

陸上の「記録会」に参加する児童 目標にしていたのは『大文字駅伝』

 今年2月12日、京都市右京区で行われた陸上の記録会。市内の小学校に通う6年生約800人が出場し、1kmのタイムを測定する「京キッズRUN」です。今回、初めて開かれました。
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 スタンドには、笑顔で自分の番を待つ女の子の姿がありました。藤ノ森小学校の6年・小柳あかりさん(12)です。

 (小学6年 小柳あかりさん)
 「めっちゃ緊張しています。パって見たときにめっちゃみんな速かったので、ついていけるのか心配です」
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 しかし、この1か月前。校庭で練習に励むあかりさんの表情は、対照的なものでした。

 (小柳あかりさん)
 「何のために走っているんやろうなと思ったりしたけど、やっぱり『出てみたい』という気持ちがあったので」
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 こう話すのは、記録会の開催に伴い、あかりさんが目標にしていた“ある大会”が休止となったからでした。それは「大文字駅伝」。1987年に始まった京都市内の小学校ナンバーワンを競う駅伝大会です。予選を勝ち抜いた48校の子どもたちが、8区間約12kmの公道を駆け抜けるという全国でも珍しい大会です。その様子は、テレビで中継されるなど、冬の風物詩として親しまれてきました。

過去の大文字駅伝で『母は準優勝』『姉はアンカー』

 あかりさんの家族にとっても、大文字駅伝は特別です。長女のひなたさん(15)も3年前、アンカーで出場しました。

 (姉・ひなたさん)
 「うれしかったです。みんな『(テレビを)見た』と言ってくれました」

 (小柳あかりさん)
 「(Qあかりさんは覚えていますか?)ちょっと覚えています、応援しに行っていたので。アンカーを走っていてすごいなと思いました」
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 さらに、母親のあゆみさんもかつて参加して準優勝。輝かしい成績を残しているのです。

 (母親・あゆみさん)
 「(自分が)ずっと陸上を続けてきて、原点とまでは言いませんけれども、きっかけになった大会なのかなとは思います」

突然の『大会休止の知らせ』で「びっくりしたし、悲しかった」

 駅伝一家の小柳家にあって、あかりさんも自然と志すようになっていきました。ところが去年7月、小学校から保護者宛に1枚の文書が。そこには次のような内容が書かれていました。

 【小学校からの文書より】
 「京都の冬の風物詩として市民に親しまれてきた『大文字駅伝』大会について、当面の間休止することが決定されました」

 突然の、休止の知らせでした。

 (小柳あかりさん)
 「びっくりしたし、自分もやりたかったと思っていたから、ちょっと悲しかった」

事前検診で「10人に3人くらいは『ひざなどが痛い』と」

 背景にあったのは、大会を重ねるごとに増していった勝利至上主義にもとづく「練習の過熱化」でした。

 【過去の大会に出場した選手のコメント】
 「夏は朝に山道を走り、昼からは学校での練習でした。合宿もありました。冬は雪の中も走りました。休みもほとんどなく、本当に毎日走っていました」
 「練習を始めるとつらくしんどくて、正直練習が嫌になったことがありました。遊んでいる周りの人を見て、早く遊びたいと思いました」
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 10年間、大文字駅伝に出場する選手の事前検診にあたってきた森原徹医師。驚きの検診結果が出たと振り返ります。
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 (森原徹医師)
 「(全選手の)約30%ですよね。10人に3人くらいは、ひざだけじゃなくてひざ・足・下たい(ひざから足首)を含めて『痛い』という子がいました。これはどうなっているんだという驚きでした。小学生という未成熟なところで負荷をかけるというのはあまりよろしくない。(主催側には)『練習に関しては制限をしっかりしなさい』と。『そうしないとけが人が増えますよ』ということは絶対に言いましたし、『勝利至上主義じゃない大会運営をお願いしたい』と」

「スポーツではあるがお祭りだと思って」大会立ち上げ当初の思い

 こうした過熱ぶりを、複雑な心境で見つめてきた人もいます。大文字駅伝の立ち上げに携わった中川善彦さん。当初、大会に込めていた思いは全く違うものだったと話します。

 (中川善彦さん)
 「(当初の会議で)『スポーツではあるけれども、お祭りだと思ってください』というようなことを僕が言ったことを覚えていますね。競技会ではない。それは楽しいやろうなと思いました」
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 約30年前の1994年。始まって間もない頃の第8回大会で、京都の小学生に交じって参加していたのは、外国の子どもたちです。
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 パリやキーウなど姉妹都市の学校を招待し、まさにお祭りムードでした。ところが、徐々に優勝を追い求める学校が増えるなど、大会のあり方は変化していったのです。

 (中川善彦さん)
 「過熱化というのはちょっと予想しませんでしたね。まさかこんなに過熱…過熱というかすごいことになるとは思ってもいなくて」

「特定の小学校の一部の子どもに、という大会になってしまった」

 大会を存続すべきなのか。主催する京都市教育委員会などは難しい選択を迫られました。

 (京都市教育委員会 山口淳首席指導主事)
 「ガイドラインを作って『週3日1時間半以内』という(練習の)上限を定めたんですけれども、回を重ねるにつれて、多少練習したくらいではなかなか支部予選を勝ち抜けないと。特定の小学校の一部の子どもに、というような大会になってしまっていた。(主催側では)ブレーキがかけられない。いよいよ難しいということになったと思います」

 主催側での1年半に及ぶ議論の結果、苦渋の無期限休止が決まりました。

 その代わりに、各学校で選ばれた6年生がそれぞれ1kmのタイムを測定する「京キッズRUN」が誕生。対抗戦ではなく、あくまで個人の記録会へと変わりました。
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 大文字駅伝の出場を目指してきた小柳あかりさん。その夢こそ叶わなかったものの、記録会に向けて走り出していました。

 (小柳あかりさん)
 「緊張するけど選ばれたので、一生懸命頑張って、みんなで頑張って楽しくやれたらいいなと思います」

姉もつけた伝統のはちまきで記録会に挑む

 2月12日、迎えた大会当日。あかりさんは、大文字駅伝でお姉さんもつけた伝統のはちまきを巻き、スタートラインへ。6年間の集大成をかけた挑戦が始まりました。
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 抜きつ、抜かれつ。苦しそうな表情を浮かべながらも懸命に走ります。応援していたあかりさんの両親も…。
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  (父親・文彦さん)「頑張ってる、頑張ってる」
 (母親・あゆみさん)「そっからや、いけいけいけ!」

 そして無事、最後まで駆け抜け、自己ベストのタイムも更新することができました。

 (あかりさんに声をかける父親・文彦さん)
 「お疲れさん。ベストやな。ラストよかったやん」
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 (小柳あかりさん)
 「駅伝じゃないけど、記録会だけど、みんなで頑張れたのでよかったなと思いました」

 (母親・あゆみさん)
 「たすきがあったらいいなとは思いましたけど、目標に向かって友達と一緒に、学校の先生もみんな一緒に、こういう大会に出られてとても良い経験になったんじゃないかなと思います」

 子どもの未来にとって最適な形はなんなのか。小学生スポーツのあり方が今、問われています。

2023年02月21日(火)現在の情報です

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