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「なぜもっと早く救急車を...」抜歯で全身麻酔後...心肺停止になり支援学校生が死亡 渡された報告書はA4用紙1枚 遺族は診療所側の対応に疑問

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今年7月、大阪府堺市の歯科診療所で、特別支援学校に通う生徒が全身麻酔を受けた後に心肺停止となり、約1か月後に死亡しました。亡くなったのは富川勇大さん、17歳。遺族によりますと、勇大さんは堺市重度障害者歯科診療所で「親知らず」を抜くため全身麻酔を受けましたが、その際に、本来は気管に入っていなければならない“酸素を送るチューブ”が、誤って食道に入っていたとみられるということです。勇大さんの父・勇雄さんは取材に、無念の思いを語りました。

「成長する姿を僕らに見せてくれていた。本当に悔しい」

―――勇大さんはどんなお子さんでしたか?

 スポーツとかすごく好きで、プロ野球は阪神のファンで、学校では野球をしたり卓球をしたりサッカーをしたり、友だちや先生と一緒に楽しく活発に動いていました。家では料理をするのが好きだったので、料理を手伝ってくれたりとか、僕らと一緒に楽しく作っておいしく食べたりしてね、楽しく過ごしていました。

 発達障がいがあったので、なかなか中学校のときは馴染めずに本人はすごく苦労していたんです。高校になって友だちができたり良い先生に巡り合ったりして、すごく成長していっている姿を僕らに見せてくれていただけに、この事故というのが本当に悔やむというか悔しいというか、そういう思いが非常にありますね。

―――治療を受けるようになった経緯を教えてください

 歯の清掃とかをしていただいている行きつけの歯科医があるのですが、去年の暮れぐらいにそこに行って診てもらっているときに、親知らずが左右に生えていると。そのままにしておくと虫歯だとかの原因になる可能性が大きいから、もし歯を抜くのであれば専門的にできる歯科医を紹介しますということで、堺市重度障害者歯科診療所を紹介していただいて行くことになりました。

―――どういった治療を行うことになりましたか?

 左右に両方生えているということで、一度にはできないということで、日をずらして右と左を分けて治療するという話に。3月に1回目の抜歯を行って、そのときは何もなく無事に終わったので、次2回目ということで7月に行って、そこで事故にあったという形ですね。

 (抜歯にあたっては)麻酔をするということで、前日6時以降から絶食してくださいという話でした。当日、妻と向かい、最終的に向こうの歯科医の方だと思うのですが、「これから(抜歯を)するにあたって、体調は問題ないですか?」という話を受けて、そこでも「問題ないです」という確認をして、治療に入りました。

治療室の方がバタバタしだす...待たされているうちに救急車が診療所へ

―――治療の際にどのようなことが起きたと聞いていますか?

 私が聞いたのは、麻酔をしてすぐに気管支痙攣(きかんしけいれん)というのが起きましたと。気管支痙攣というのはちょくちょくあることみたいで、それを治すために気管支拡張薬という薬を投与して、気管支を広げてそれを治すための動きをしていたということです。ただ、それがどうもうまいこといってなかったみたいで、妻が言っていたのですが、ちょっとこう治療室の方がバタバタしだしていて、妻の「何かあったんですか?」というような問いに対しても「とりあえず待っていてください」というような話だけで、起こっている状況の説明がなくて、待たされているうちに救急車が2台ほど来られて、救急隊員の方が「お母さんどちらにいますか?」という話を聞いて、そこから「いまこういう形になっている」という話を受けて、救急医療センターに搬送されたという形ですね。

―――どのような状態で搬送されたのですか?

 心肺停止になって、救急車の方に乗り込むとき、顔面蒼白になっていて、妻はこれはひょっとしたら助からないような状況に陥っているのではないかということをそこで実感してしまって、不安なまま救急車に乗って。息子が先に乗って、別の救急車で妻が向かったという感じですね。

―――なぜ心肺停止になったのか、診療所側から説明はありましたか?

 事故があった2日後に、簡単な報告書と、酸素濃度を表すような記載がある表を渡されて、血中酸素濃度が不安定になって蘇生を繰り返していたが、いよいよ酸素濃度が20%になって、診療所ではどうすることもできなくなって救急車を呼んだという説明を受けました。

―――説明を聞いてどのような感想を抱きましたか?

 治療を開始してから時間が1時間ぐらい経っての救急車到着でした。報告を聞いたときに、麻酔をしてすぐに気管支痙攣を起こしたということを考えると、そこから30分あるいは40分ぐらいは酸素濃度が不安定な状況が続いていた。最終的に酸素濃度が20%になって心肺停止になり、慌てて蘇生活動と救急車を呼びだしたということで、不安定になっているときになぜもっと早く救急車を呼べなかったのか、という僕の問いに対しては、「抜歯を終了させて帰っていただきたかった」と。その言葉が、僕としては、命を優先するのではなくて治療を優先した結果こういうふうになってしまったのではないかというね、そういう説明に感じたんです。そこは、歯科診療所の方も判断ミスでしたと、遅れたことに対して。そこは認めて謝罪はしていただきましたが、そこに至るまでの詳しく書いた用紙などは受け取っていなくて、なぜそういうふうに至ったのかという、詳しく知りたいという思いはあります。

―――酸素濃度をめぐってどんな説明を受けられましたか?

 誤挿管をもししていたとしたら、そこの上下動はしないと。酸素濃度が上下動しているから、誤挿管ではなく気管支痙攣のおそらく延長上の状況だったというふうなことを言っていまして、ただそこで誤挿管という部分も確認しておいていただけたら、こんな事故にはならなかったのかなという思いがあります。

―――診療所側としては、搬送される際も誤挿管の認識はできていなかったのでしょうか?

 誤挿管ではなく、向こうの説明では、チューブが外れていたというふうにうかがいました。外れていたことに対しても、なぜ外れていたのかがわからないと。いつ外れていたのかもわからないと。麻酔の医師の方、看護師の方、歯科医師の方、3人はいたと思いますが、その3人がいた中でも外れていたことに気づかなかったのですか?と僕が聞いた時も、気づけませんでしたと。これは明らかに人為的なミスですよね、確認ミスですよねという話をしたら、そうですという話で、謝罪をしていただきました、そこでは。

―――報告書はどのようなものを受け取られましたか?

 僕としては、もっと時間が細かく書かれ、どういうことを行ったとか、それに対しての結果などが書かれているような報告書かなと思ったのですが、A4の紙1枚で、概要みたいな感じの報告書。それと酸素濃度を表示したカルテ。僕は素人なので、どういうことを示しているのかがわからないカルテだったのですが、その2枚だけを渡されて、指でさしながら、こういう酸素濃度になっているからこういうことになりましたという感じで説明を受けました。もっと報告書に時間等を記載して、何時何分に酸素濃度がどれぐらいになりましたというようなことを書いて、説明していただけるようなことはできないのかなとは思ったんですけども。

「事故をどのように考えているのか…軽く見ているのか?」

―――勇大さんが入院されてから、診療所側とはどのようなやりとりがありましたか?

 事故が起こって2日後に説明と謝罪・報告がありました。それ以降は、入院期間中は連絡等もなく、どういった状況なのかを確認する話もなかったですし、僕に対してもなかったし、病院に対してもなかったようです。どうなっているのかということを、こちらから電話し、時間を約束して会いにいきました。その時間に行って、当事者の方が来られるのかなと思ったのですが、院長先生と事務局長という方はおられましたけど、麻酔の医師の方は帰らせましたと。話をしたいということで行ったにもかかわらず、麻酔の医師を帰らせるという対応はちょっとおかしいのではないかなと思いました。

―――院長らからはどのような説明がありましたか?

 基本的には同じ内容です、ほぼ。1回目に話をした判断ミスの部分と遅くなった部分。それ以上のことは僕も話の内容を細かく言ったわけではないですけど、聞いたのは前回とほぼ同じ内容です。それから、お通夜かお葬式には行きたいという話を受けました。それは、顔を見ていただいて最後別れのときに心に刻んでもらおうと思って、来ていただきました。それとお通夜のときに来ていただいて、3回ですね、あったのは。それ以外は連絡はないですね。

―――診療所側の対応について、どのように受け止めていますか?

 こちらがもっと謝罪をしてくれと言えばしてくれるかもしれないですけど、人の気持ちなので、こちらが言ってするというのは違うなと思いますし。事故が起きた原因に対しての結果とこれからの対応策というのもお聞きしたいんですけど、そのお話もいただいていないですし、実際、事故をどのように考えているのかなと思いますね。四十九日の後に墓参りをさせていただきたいとか、月命日のときには手を合わせたりとか、そういうのも一切ないですし。それをしてくれとは言わないですけど、やはり人の気持ちってそういう部分も言ってもらうことによって、事故の重さをわかってくれているのかなと思う部分もある。そういった話も一切ないですので、やはり軽く見ているのかなという。人の命がなくなったことに対して説明が2回、その内容も詳しく示したものではなくて、なかなか説明不足の部分が多々ある報告書だと思うんですけど、そういった報告書1枚で終わってるのかなと思ってしまいますね。

 お通夜で、医師会の会長から、このたびは申し訳ありませんでしたという言葉をいただいて、誠意ある対応をさせていただきますという話をされていましたけど、誠意ある対応って言葉としては難しいですけど、そこの部分ってどういう対応をしていただいているのかなっていうふうに思いますよね。

 息子が7月13日に事故に遭って8月9日に亡くなるまでの間、どういう状況だったかという、その確認の電話もなかったですし。亡くなってからこちらが連絡しなかったら、何も一切連絡せずに終わっているの?という話で。向こうの院長に、なぜ連絡がないのですかと聞いたら「治療に専念していただきたかったから電話ができなかった」と言っていましたけど…。専念してほしいから連絡も何もせずにそのままに、というのはいいのか?という思いはありました。

「更なる説明と、今後このような事故が起きたときの対応策を聞きたい」

―――全身麻酔でこうした事故が起きることは想定していましたか?

 全身麻酔ということでやっぱりリスクはあると思いましたけど、虫歯になるおそれがあるという話を聞いて、息子の将来のために、抜いたほうが今後の生活のためにいいと思って受けた。そこは説明をしていただいて、体調も当日確認していただいて、そこでまさか亡くなるとは思ってもなかったですし、本人も元気で、前日まで元気でいましたので、そんなことになるとは思っていなかったですからね。

―――メディアの取材に応じようと考えたのはどうしてですか?

 重度障害者歯科診療所で治療を受けられている方は大勢います。そこしか受けられない方が結構います。(今回の件がニュースとして)出ることによって、そうした方が受けられなくなるのでは、困るのではと最初思ったんです。だから最初は言わずにいようかなと思ったんですけど、向こうのこれまでの説明だとか対応という部分を踏まえていくと、言わないのではなくて言うことによって、世間の方にも知っていただくことによって、歯科診療所がきっちりとした対応を取っていただけるのではないかなと思ったんです。取材の方に対してもお答えしていこうと思って。責めるとかじゃなくて、困っている方に対してはきっちりとした治療をしていっていただきたいという思いがあるんです。何も変わらずにこのままにしていくんじゃなくて、なぜ起こったかという、これから二度とこういったことを起こさないようにしていただいて、困っている方に対して治療をきっちりとしていっていただけたらなという思いがあります。

―――改めて、診療所側にのぞむことは?

 息子があった事故についての更なる詳しい説明と、今後このような事故が起きたときの対応策とか、同じようなことを二度と繰り返さないようにするためにどういうことをしていくのかというのをお聞きしたいですね。

2023年12月23日(土)現在の情報です

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